日本では仮装して集まることが話題になるハロウィン。今年は新型コロナウイルスの影響でイベントは中止になっていますが、ドイツには大人も泣き顔になるほど怖いハロウィンイベントがあるんです。不気味なフランケンシュタイン城で開催されるイベントの歴史を辿れば、過去に人体実験が行われていたとか・・・。

ハロウィンの起源


ハロウィン(英:Halloween)は、毎年10月31日に行われるお祭りのことで、近年、日本ではテーマパークでのハロウィンイベントなどが人気を博し、一気に認知度の高いイベントとなりました。ハロウィンといえば、仮装をした子どもたちが近所の家々を周り、「Trick or Treat」と唱えてお菓子をもらうイメージがありますが、その起源は古代ケルト人の宗教的な行事にあるといわれています。



ケルト人にとって10月31日は1年の終わりであり、冬の始まり。夏を「光」、暗く長い冬を「闇」と捉えていた彼らは、10月31日の夜に死者の世界と現世が繋がり、死霊が家を訪ねてくると信じていました。そのため、先祖の霊に紛れて有害な霊や魔女に取り憑かれないよう、仮面を身に付けたり、魔除け焚き火をしたと伝えられています。

その後、アメリカ合衆国へ移住した人々からハロウィンがアメリカ国内に広まり、現在の日本で見られるようなアメリカ式ハロウィンが定着しました。
ドイツハロウィンは人気?


筆者はドイツ在住ですが、日本とドイツハロウィンの盛り上がり方を比べてみると、日本のほうが盛り上がっていることに気づきます。街中にハロウィングッズやお菓子が登場するのは10月中旬頃からで、すでにクリスマスコーナーが設けられている店内での存在感は薄め。というのも、本来ドイツにはハロウィンを祝う風習がないからです。

 



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アメリカ式ハロウィンドイツに持ち込んだのは、クリスマスツリー装飾やカーニバルの衣装などを販売していた「ドイツ玩具産業協会」で、1991年湾岸戦争でカーニバルが中止となり、多くの衣装メーカーが大損失を出した後でした。「ドイツ玩具産業協会」は、業界を盛り立てる新たなビジネスの機会を探る中で、まだ馴染みのなかったハロウィンに注目。1994年にキャンペーンをスタートし、結果として国内で徐々に認識が広まりました。

知り合いのドイツ人にハロウィン人気の印象を聞いたところ、「日本のように盛り上がるまで、あと数年はかかるね」と話しており、その理由のひとつに他の記念日が重なっていることがあげられます。
宗教改革記念日と諸聖人の日
ドイツの人々にとって10月31日ハロウィンよりも「宗教改革記念日」の印象が強く、プロテスタント教徒の多い州では祭日に制定されています。宗教改革記念日とは、神学者のマルティン・ルターが1517年10月31日にヴィッテンベルク城の教会の扉に「95箇条の提題」を貼り付け、カトリック教会の腐敗を非難。後に、新たな宗派を生み出した日です。この日は、プロテスタント教会でミサが行われ、厳かな雰囲気に包まれます。

一方で、翌11月1日は「諸聖人の日」とされ、カトリック教徒の多い州で祭日に制定されています。同日はカトリック教会が崇める「全ての聖人」を祝福する日であり、「沈黙の祭日」とも呼ばれます。どちらもアメリカ式ハロウィンの騒がしさとは対極にあるのが現状です。
楽しい聖マルティヌスの日
さらに、ドイツにはハロウィンと似た伝統行事がすでに存在しています。それは、11月11日に行われる「聖マルティヌス(Martinstag)の日」です。この日は、子どもたちがランタンに火を灯し、自分の住む街の市長が扮する聖マルティヌスを教会へと案内します。その見返りにパンをもらったり、道中の家々で祝福の言葉を述べると、大人からパンや菓子がもらえる冬の定番イベントです。



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マルティヌスとは、殉教せずとも聖者に選ばれた最初の人物で、316年にローマ将校の息子として生まれました。後に自らもローマ騎士となりますが、慈悲深い人柄で物乞いを助けた話がとても有名です。
「凍えるほど寒い夜のこと、身につけるものもなく震えていた1人の物乞いの前をマルティヌスが通りかかりました。彼は、施すものを持ち合わせていなかったため、剣でマントを2つに裂き、一方を物乞いに与えました。その晩、夢枕に半分のマントをまとったキリストが現れたことにより、彼は軍籍を離れて司祭となりました」
一方で、プロテスタント教徒の多い地域では、マルティン・ルターの誕生日である11月10日にランタンを持って家々を周り、歌を歌うことでお菓子をもらう風習があります。北ドイツマルティニジンゲンでは、お菓子をあげなかった場合いたずらすることにもなっているので、子どもたちにとって「聖マルティヌスの日」とアメリカ式ハロウィンはとても似たイベントといえます。
ドイツ国内の“最恐”ハロウィンイベント


まだまだ全体的にはハロウィンイベントが浸透していないドイツですが、若者を中心に盛り上がりを見せ始めたのも事実。ドイツ国内で“最恐”といわれるイベント「Halloween Burg Frankenstein(フランケンシュタイン城のハロウィン)」が、フランクフルト近郊にあるフランケンシュタイン城で毎年開催されています。



公式サイトによると、ドイツ全土で最も古いハロウィンイベントであり、100体以上のモンスターたちが暗い過去を持つ古城跡で訪問者を待ち受けるとか・・・。実は、フランケンシュタイン城には、城を取り巻く神話が存在し、訪れる人々の背筋を凍らせているのです。
人体実験の伝説が残る恐怖の古城


フランケンシュタイン城の名称は、この地一帯の領有権を持っていた一族の名前から由来し、1252年(最初の歴史的記録が残る年)に建設されました。1673年には、錬金術師のジョン・コンラッド・ディッペルがお城で誕生します。彼は解剖学を勉強し、墓から掘り起こした死体を用いて実験をしていたと伝えられています。



それから時間は流れ、1818年にイギリス小説家メアリー・シェリーがゴシック小説「フランケンシュタイン」を出版。物語は非人道的な研究を行う科学者が8フィート(約2.5メートル)もの不気味な存在に命を吹き込み、モンスターから逃げ惑う様子を描いています。このお話は、真実か否かフランケンシュタイン城に起源があるといわれ、その証拠を裏付ける歴史的物語がたくさんあります。

1814年にはメアリー・シェリーがフランケンシュタイン地区を旅したとされ、彼女はその際に、死者の蘇生や狂った実験を行っていたジョン・コンラッド・ディッペルの噂を耳にしたことでしょう。こうした背景から、現在のフランケンシュタイン城で開催されるハロウィンイベントには、怖いもの知らずの多くの人々が詰めかけ、思い思いの仮装に身を包み、恐怖体験を楽しんでいます。
Halloween Burg Frankenstein


通常「Halloween Burg Frankenstein」は漆黒の闇に包まれた夜に開催されますが、子どもや怖いのが苦手な大人も楽しめるように、期間中の毎週日曜日正午から午後7時までキッズデーが設けられています。料金は日により変動しますが、筆者が参加した日は大人1人17ユーロ(約2,100円)。古城跡に囲まれた12エリアには不気味なモンスターたちが待ち伏せ、次々に来場者を襲います。



キッズデーというからには子どもだましのイベントだろうと思いきや、モンスターたちの様相は本格そのもの。静かに目が合ったかと思えば、突然走り出し追いかけてきます。



ホラー映画に迷い込んだかのようなセットも相まって、とても夜には怖くて参加できないほどのイベント。しかし、泣いている子どもは1人もおらず、ニコニコ笑顔で走り回っています。



ドイツの子どもたちは怖いのが好きなのかもしれませんね。彼らが大人になる頃には、さらに恐ろしいハロウィンイベントが誕生し、ドイツハロウィンが一大イベントの仲間入りを果たす日も、そう遠くないかもしれません。

参照:
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/wol/opinion/culture_161031.html
https://www.dvsi.de/verband/historie
Burg Frankenstein(フランケンシュタイン城)
住所:Burg Frankenstein, 64367 Mühltal, Germany
電話番号:+49 6151501501
公式HP:https://www.frankenstein-restaurant.de/
Halloween Burg Frankenstein
公式HP:https://www.frankenstein-halloween.de/en/

[All photos by Mia]
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