(数多 久遠:小説家・軍事評論家)

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 10月21日から23日にかけて「テロ対策特殊装備展(SEECAT)」と「危機管理産業展(RISCON)」が開催されました。会場は、ともにビッグサイト東京都・有明)です。

 テロ対策特殊装備展(SEECAT)は、官公庁やインフラ関係者、それにテロの標的になりかねない大規模施設関係者を対象とした展示会で、来場者にも事前に審査が行われるクローズド展示会です。2007年から開催されており、今年(2020年)で14回目の開催でした。

 もう一方の危機管理産業展(RISCON)は、一般企業の危機管理担当者などを対象とした、一般向け展示会です。2005年から開催されており、今回で16回目の開催となります。コロナの影響が大きな本年は、感染症対策や避難所設営に力点をおいて実施されました。

 東京オリンピックが延期されましたが、引き続き警戒が必要な状況です。その意味で今年は注目度が高いはずの展示会と思われましたが、やはりコロナの影響か、来場者数は例年の半数強という数に留まったようです。

 筆者が実際に会場を訪れたところ、なかなか興味深い展示品を見ることができました。特にテロ対策特殊装備展(SEECAT)の方は、「一般の方お断り」の、まさに特殊なものが多い内容でしたので、そちらを中心に紹介したいと思います。

テロ対策特殊装備展(SEECAT)

 テロ対策特殊装備展(SEECAT)は、その名の通り、テロ対策を目的にした展示会です。ビッグサイトで実施される展示会としては少々異質と言えるでしょう。今でこそ、ビッグサイトで、こうしたしっかりした展示会形式で実施されていますが、かつては自衛隊基地の体育館などで、ひっそりと行われていました。

【ドローン(UAV)】

 SEECATに出されている製品のなかで、この十数年で最も著しい進歩を遂げたのがドローンでしょう。

 現在も戦闘が続くナゴルノ・カラバフでの紛争でも相当数が使用され、成果を上げていることがネットの動画などで見ることができます。そのため注目度は抜群で、展示も多く見られました。ただし、ナゴルノで使用されているような純粋に攻撃用のドローンおよび装備は、ユーザーが防衛省しかないためか両展示会には出展されていません。

 形態としては、ホビー用のドローンをそのまま大型化、高性能化したような製品の他、軍・治安機関向けと思われる固定翼タイプやヘリコプターに類似した形状のものなど、多種多様なものが展示されていました。

【本記事は多数の写真を掲載していますが、配信先では表示されていない場合がありますので、JBpressのサイト(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62704)にてご覧ください。】

 特殊なドローンとしては、有線でつながれ、固定点で運用される上空からの監視用ドローンも見られました。また、ドローン搭載用のシステムも展示されていました。カメラと映像処理システムを組み合わせ、車両などの移動物体検知や人工物を自動でピックアップしてくれるものなどです。ナゴルノ・カラバフでの紛争でも、同種のものが多数使用されているようです。

【水上ドローン(USV)、水中ドローン(UUV)】

 水上ドローン(USV)は、用途が港湾監視などに限られるためか、出展数はあまり多くありません。そのなかで下の写真の「EMILY」という製品はなかなか興味深い製品です。溺者救助用のラジコンボートなのですが、応用が利きそうです。開発はHydronalix社で、日本海洋が展示していました。

 艦艇や船舶に装備される救命索発射銃(浮き輪を発射できるものもある)は、射程が100メートル程度しかない上、遠距離では正確に撃つことが困難です。しかし、これなら数百メートル先にも正確に到達させられます。また、固定翼の救難機から投下し、無線機や水食料を要救難者に届けることも可能でしょう。

 一方、人間に代わって潜水することができる水中ドローン(UUV)については、サイズ、形態、スペックの点で、空中ドローンに負けず劣らず多数の出展が見られました。

 自衛隊の掃海部隊が使用する機雷掃討用の水中ドローンに近いような高度なものは、効果があって当然ですが、安価でありながら有用そうな小型製品もありました。また、あるブースでは、「あまり紹介しないでほしい」と言われたのですが、溺死者の遺体捜索、引き揚げで実績を上げているというお話も聞けました。確かに、冷たい川で何度も潜るよりは、水中ドローンを活用するほうが有効でしょう。

 なお、陸上(UGV)ドローンも、サイズ、用途などさまざまなものが展示されていました。

【対ドローン製品】

 ドローンは、テロの手段としても使われる可能性が高いため、対ドローン製品も多数の出展がありました。対ドローンの方式として、最も多く見られたのは、ドローンをコントロールするための信号を検知し、ソフトキル、つまりジャミングなどによってコントロールを阻害するものです。網をかぶせたり、他のドローンをぶつけると言ったハードキルの製品は、ほとんど見られませんでした。やはり、あまり現実的ではないのだと思われます。

 これに関連して、本コラム「過去最大・防衛省概算要求、何の予算が足りないのか」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62478)でも触れた、高出力マイクロ波(HPM)発生装置の研究が、防衛装備庁による展示で示されていました。電波によって、回路を焼き切るなどするハードキル手段ですが、まだ現状では、かなり限られた対象、状況でしか効果があるとは言えないようです。

 また、電波を使用する対ドローン製品の中では、コントロール用の信号の検知ができていなくとも、実効性を発揮できそうな高度な製品も展示されていました。ただし、お話を伺うと、まだ総務省の対応が不十分のようです。来年にはオリンピックが開催される見込みですが、このままでは、政府の準備不足が原因で、モノはありながら対処できなかったという事態も起こり得そうです。

【毒物等検知】

 ドローンと並び、この十数年で進歩の著しい分野が毒物などの検知です。

 化学兵器に対して、十数年前は研究者が実験室で扱うような器材でなければ、まともな検知はできませんでした。とくにハンディの製品は、検知確率を高くすると排気ガスや化粧品にも反応してしまうほど誤警報確率が高くなってしまい、とても実用に使えるものではなかったのです。

 現在の検知器材は、高い検知確率と低い誤警報確率を両立させるだけでなく、使用された化学剤の判別も正確かつ迅速に行えるものが出ています。たとえば、本年8月に、ロシアの反体制派であるアレクセイ・ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件でも使用されたロシア化学兵器「ノビチョク」についても、その細部タイプ(A-232等)まで判別可能な製品が展示されていました。

 用途別にも様々な製品が出ており、個人携行用小型製品から、大規模施設の警戒用まで展示されていました。

 個人携行用の小型製品や中隊規模用の検知器材については、米軍では既に相当数が導入され、化学戦の専門部隊だけでなく、一般の歩兵中隊でも化学剤の検知がかなり迅速に行える体制になりつつあるようです。

 私が特に注目したのは、レーザー光を使用し、化学剤ごとに異なる吸収スペクトルから検知・警報を出せるものです。空港のような大型施設で化学剤が使用された場合でも、多数のセンサーを設置することなく、1つの器材とレーザー反射用のミラーを使うことで、その間の空間中に存在する化学剤の検知ができるそうです。オリンピックの会場を警戒するにも効果的でしょう。

 上記の製品は、米Block Engineering社の製品をエス・ティ・ジャパンが扱っているそうですが、軍事向けとしては、ハウジングなどを装備しパッケージ化したものをロッキーマーチンが扱っているそうです。防衛省が導入する場合、FMS(Foreign Military Sales:有償援助)などでロッキーマーチンから買う可能性が高いですが、アフターサービスが不十分なFMSよりも、こうしたルートで買った方が良さそうです。

 生物兵器に対する検知では、使用されたウイルス等の特定までできる製品が出てきているようです。ただし、残念ながら、まだ十数年前の化学剤検知のレベルのようで、相当な専門家が、複数の装置を組み合わせて使わないと検知が難しいようです。恐らく、生物兵器に対しては、あと十数年経過してもそれほど状況は変わらないのではないでしょうか。

 放射性物質に対しては、昔からガイガーカウンターなどがあるように、検知自体は容易です。ですが、なかなか興味深い製品が展示されていました。フジトクのガンマカメラH420は、カメラ画像を組み合わせることで、微量の放射性物質でも、どこにどのような種類の放射性物質があるのかを迅速に把握することができるとのことです。テロはもちろん、医療現場など放射性物質を扱う場所での事故の際にも、汚染の状況が容易に把握できるようです。ロシアからイギリスに亡命したアレクサンドル・リトビネンコ氏が、放射性物質によって毒殺された事件がありましたが、こうした器材があれば、迅速に毒物の把握ができたかもしれません。

【訓練用シミュレータ】

 市販のゲームから派生した軍事訓練用のシミュレータが複数展示されていました。下の写真は、ArmAシリーズが元となったBohemia Interactive Simulations社の製品VBS4です。同社は、日本支社も作っているようで、相当力を入れているようです。

 自衛官の戦術判断トレーニングにも有効でしょうし、指揮所演習(CPX)での状況現示用としても良いと思われます。各国に比べ、自衛隊はこうしたものを取り入れるのが遅れていますが、訓練のコストを下げると共に効率的に訓練を実施できるため、もっと取り入れるべきだと思います。

【ソフトウェア】

 東洋テクニカが展示していたSeaErra社の可視光水中映像の処理ソフトは、水中映像を非常に鮮明にすることができるようで驚きました。リアルタイム処理も可能なソフトウェアなので、あらゆる水中ドローンで活用することができるそうです。海自の掃海部隊などに良さそうだと思いましたが、やはりそうした方面の方が興味を持っているとのことでした(参考:https://www.youtube.com/watch?v=hL7EiN704MA)。

 もう1つ、これも東洋テクニカの扱いのソフトウェアですが、洋上での可視光、IR捜索を支援するものがありました。陸上と違って遮蔽がないものの、波が常に変化するため、洋上での捜索は以外と大変です。専用の捜索器材でなくとも、発見率を上げられそうです(参考:https://www.youtube.com/watch?v=amEF3MFRBjU)。

【その他】

 金庫で有名なクマヒラは、原発の放射線遮蔽扉や特殊な防護扉を作っています。最近頻発する水害のせいで、一般のマンションなどに水密扉が売れているというお話を伺うことができました。非常用発動発電機を備えたマンションも数多くありますが、福島原発と同様に沈んでしまえば意味がないため、こうした需要も増える傾向のようです。

 消火器など防災機器メーカーのヤマトプロテックは、爆発の威力を減殺するシールドフォームという製品を展示していました。

 不審物を発見した際に、もし爆発しても被害を極限するための製品です。以前から同じ目的で防爆マットというものが以前からありますが、こちらは不審物に上からかぶせるのではなく、泡消化剤のような製品です。爆風を相当程度弱める効果があるようです。

 破片の飛散を止める能力はないようなので、防爆マットより効果は劣るようですが、不審物は防爆マットをかぶせることが困難な場所に置かれているケースが多いため、そうした場所での使用に向きそうです。また、防爆マットをかぶせても、どうしても隙間が発生するので、その隙間を埋めるために補助的に使用するのも良いかもしれません。

 価格は防爆マットの数分の1で済むようです。ただし、その代わりとして、メンテなしに使用できる期間は2年ほどに留まるようです。オリンピックの期間だけ準備しておくという考えもアリかもしれません。

 以前、ユーチューブで見かけ、これはいいなと思っていた製品が、日本に上陸していました。Wrap Technologiesが開発しエイコラボが展示していた「BOLA WRAP」です。

 昔から世界各地に狩猟用具、投擲武器として存在しているボーラ(ロープの先端に球状のおもりを取り付けた道具)を、現代の拘束具として即応性、安全性を高めた製品です。離れた場所から、暴漢の手足を拘束することができます。おもり部分に石などを使った古来のボーラは殺傷力も高かったのですが、こちらはおもりを釘程度のものにしたことで、軽い怪我で済むようになっています。ただし、投射に火薬を使用しているため、日本では銃刀法の規制対象になるそうです。そのため、販売先は、公官庁に限るとのこと。こういったものは、銃刀法に特例規定を作ることで、学校や警備業で使えるようにするべきではないかと思います。

 この他にテロ対策特殊装備展(SEECAT)では、不審物検査用の製品、侵入阻止製品、個人用装具などが展示されていました。以前のものと比較すると利便性は向上しているようですが、とくに目を引く画期的な製品は見られませんでした。

危機管理産業展(RISCON)

 続いて、「危機管理産業展(RISCON)」の展示を紹介します。危機管理産業展は、冒頭でも触れたように感染症対策や、そうした配慮が必要とされる避難所設営用の資機材が多く展示されていました。

感染症対策製品】

 感染症対策製品としては、エアテントを利用して隔離病室や除染所を作ることのできるシステムや、病院内で応急使用するための隔離システムなど、コロナによって急速に需要が高まった製品群が見られました。エアテントは、細部仕様は異なるものの、基本的には陸上自衛隊の対特殊武器衛生隊でも使用されているものと同じものでした。

【避難所設営製品】

 下の写真にあるような段ボール製のパーティションや仮設トイレ用の資材が多く展示されていました。

【特殊車両】

 川崎重工のブースには、陸自の水陸機動団に納入されたATV(全地形対応車)、MULE(多用途四輪車)が展示されていました。MULEは、オスプレイに搭載可能な車両として導入されています。MULEは人気のようで、会場にもう1台ありました。モリタの小型オフロード車「Red Ladybug」です(参考:https://www.youtube.com/watch?v=MlzCCMXxEqk&feature=youtu.be)。

 東京消防庁はこれらとは別の米国製ポラリス・インダストリーズの「POLARIS RTE87」を全地形活動車として採用し、会場に置いていました。

 こちらも、オスプレイに乗せられるという点が特徴の車ですが、日本での防災用としてどれだけ効果があるかは、少々疑問です。

 また、消防庁は、この手の車両としては有名なベンツウニモグをベースとした高機動救助車も展示していました。

その他】

 特殊車両の製造を行っているコーワテックから出展されていたのは、普通の建設機械を遠隔操縦するためのキットです(参考:https://www.kowatech.co.jp/products/sam/)。SAMというこの製品は、建機の操縦席に置く操作用のロボットとカメラなどからできており、大抵の車両をドローン(UGV)化することのできるものです。既に、陸上自衛隊などで採用され、有人での作業が危険な場所で使用されているようです。

 自衛隊でも多数の製品を使用している火口品メーカーの細谷火工のブースには、黒色の煙が出る発煙筒が展示されていました。救難用などでは、彩度の高い赤や黄色の発煙筒が使われることが多いので、なぜ黒なのか伺ったところ、訓練での火災の模擬に使うとのことでした。

【公官庁の出展】

 最後に、官公庁の出展についても触れておきます。

 一番の変わり種は、公安調査庁でした。ブースも大きく、配布している資料の分厚さからも力を入れていることが分かります

 意外だったのは内閣官房です。国民保護訓練などが担当になるため、広報を意図しての出展だということでした。

 個人的に感心したのは、東京都の下水道局です。注目されることは少ない役所だと思いますが、液状化の際に浮き上がらないマンホールを開発したり、地震でも下水道が破損しないようにするといった見えない努力を重ねているようです。

 官公庁の出展は基本的に広報活動の一環のようですが、積極的に売り込みをかけていたのが航空自衛隊です。防災や危機管理担当者として、退職する自衛官を売り込んでいました。ブースにいた方も、そうした再就職の斡旋を行う空幕の援護業務室の方々でした。自衛隊への災害派遣の要請時に、自衛隊の動きを熟知し調整が容易という理由で、元自衛官を自治体の防災担当に採用する動きが進んでいます。企業でも、防災や危機管理の視座が広がっているため、より積極的に売り込みを図っているようです。

 以上、テロ対策特殊装備展(SEECAT)、危機管理産業展(RISCON)のレポートをお届けしました。東京オリンピックが無事に開催され、自然災害もなく、また来年、同じように開催されれば、また見に行きたいと思います。

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危機管理産業展(RISCON)に展示されていた川崎重工のMULE(多用途四輪車)(筆者撮影、以下同)