子育てを扱った雑誌やサイトを見ると「幼児期からの教育が大事だ」という記事や広告を見ることがあります。乳児期からの教育の必要性を説くものもあり、このような「早期教育」を子どもに受けさせたいと考えている保護者も増えているようです。しかし、中には「早期教育にほとんど意味はない」という専門家や、それ自体に否定的な一般人の声もあります。

 早期教育は意味があるのでしょうか、ないのでしょうか。子育てアドバイザーの雨宮奈月さんに聞きました。

学びの方向性を見定める

Q.「早期教育」では、乳児期や幼児期にどのようなことを教えるのでしょうか。

雨宮さん「一般的な幼児期の教育とは、学校教育をいち早く始めることを指し、読み書きや算数など小学校で学ぶことの先取りが多いです。3歳で漢字の読み書きができるようになったり、幼稚園で掛け算ができるようになったりと、私立の有名小学校のような高いレベルの学校に入学することが主な目的でした。しかし、最近は早期教育も種類が増え、勉強に限らず運動や芸術など多岐にわたっています」

Q.早期教育を子どもに受けさせたいと思っている保護者は増えているのでしょうか。増えている場合、その要因は何でしょうか。

雨宮さん「増えていると思います。少子化による教育産業の囲い込み競争もあるのでしょうが、子育ての情報を上手に活用する保護者が増えたこと、早期教育の選択肢が増えたこと、子育てをする家庭環境が変化したことなどが要因と考えられます。子育ての手や目が減ったことから、『教育』という形を早期に取り入れるようになったのかもしれません」

Q.早期教育のメリットは何でしょうか。

雨宮さん「子どもが早期から何かを学ぶことで、子どもの根本的な性質を垣間見られることです。『この子は意外と根性があるかも』『打たれ弱いのだな』『表現の仕方が独特だな』など、それぞれの子どもによって性質は異なります。

早く学び始めることで、子どもに合った学びの方向性を見定められ、小学生になる頃には習い事の傾向が定まりやすくなります。どのような学びがわが子に向いているのかを判断するのに、時間も予算も限られているのであれば、判断するための材料として早期教育を始めた方が有利です」

Q.早期教育については、賛否両論があります。

雨宮さん「5歳までに何らかの教育をさせることで、子どもの潜在能力の礎となる部分が形成されるといわれています。これについては、数多くの専門家が脳科学的な側面からも心理学的な側面からも明言しています。可能性を増やし、たくさんのチャンスや選択肢をつくることができるので、『早期教育』はとても意味があるものです。

特に、早期教育で注目されているのが『GRIT(やり抜く力)』です。『諦めずにやり抜くこと』『情熱を持つこと』が今後はより大切とされ評価されるようになってきます。情報や選択肢も多くあるので、子どもに合う道を探すためにいろいろチャレンジはしやすいですが、子どもの気持ちだけで簡単に始めたり、やめたりすることで、最後までやり抜く力やこらえ性を身に付けるきっかけを失わないようにしてもらいたいです。

その一方で『幼いときから、たくさんの習い事をさせ過ぎだ』『親のエゴで子どもがかわいそう』という否定的な意見も聞きます。もちろん、何事も加減が大切です。経済的にも心身的にも無理のない範囲で、子どもが前向きに取り組むことができることが大前提です」

Q.自分の子どもに早期教育を受けさせたいと保護者が思ったとき、どのようなプロセスで進めればよいですか。

雨宮さん「まずは子どもがどのように成長してほしいのか、ゴール像を思い描きましょう。理想で構いません。そして、そのゴール像から逆算して、どのような教育を取り入れればそれが達成できるか想像してください。

英語教育を例にすると、英語を話せるようになってほしいのか、英語で仕事ができるようになってほしいのか、英語に限らずコミュニケーションスキルを身に付けてほしいのか、まずは英語を好きになってほしいのかなど、英語を学ぶ目的が保護者の中できちんとイメージできていると、成長の過程でその教育を見直すタイミングになっても、上手にステップアップすることができます。

『何となくよさそうだから…』程度の考えで早期教育を始めると、途中で子どもが『やめたい』と言ったときに、親にも迷いが生じることになります。なぜ、それを身に付けてほしいと願ったのか、そのためにこの教育はどの程度必要なのかをしっかりと考えてから、子どもの性質と保護者の教育方針に一致した方法を取り入れるのがよいでしょう」

Q.子どもに早期教育を受けさせているとき、子どもがどのような状況になった場合にやめさせたり、習っていることを方向転換したりしたらよいでしょうか。

雨宮さん「子どもに合わないと判断すれば、切り替えることも確かに大切です。しかし、『子どもがやめたいと言っているのでやめます』と子どもの意思だけを尊重するのは一番NGです。それは、保護者がイメージして始めた教育方針の変更に伴う結果の責任を子どもに背負わせているのと同じです。

実は子どもの『やりたくない』『やめたい』という泣き言には幾つかのケースがあり、真意は別のところにあることも多いのです。例えば、『つまらない』『楽しくない』というのは、受けさせている教育のレベルが子どもに合っていないのかもしれません。

『思う通りにできない』というのは、実は成長できるチャンスかもしれませんし、『行きたくない』は教室で嫌な目に遭っている可能性や保護者と一緒にいたいだけなのかもしれません。『もう頑張れない』は目標を見失っているのかもしれません。

やり遂げることで得られるものと、続けることで失うものを比較して、早期教育の方向性を決めればよいでしょう。また、その際には、ある程度区切りのよいタイミング(小さなゴールや時期)に合わせることができると『物事をやり抜く力』を身に付けるための手段にもなります」

オトナンサー編集部

早期教育には意味がある?