数年前から、第一人者のヒカキンさんを筆頭に、はじめしゃちょーさん、フィッシャーズ東海オンエア水溜りボンド、ヴァンゆんなど、YouTuberの姿をテレビ番組で見かけるようになりました。

 実際、ここ数カ月間でも、フィッシャーズが「ネプリーグ」(フジテレビ系)にチームで出演したほか、東海オンエアが「マツコ会議」(日本テレビ系)、水溜りボンドが「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)などに出演しています。

 しかし、彼らは芸能人YouTuberをはるかにしのぐ数百万人の登録者数を持ちながら、テレビ出演がグッと増えたり、レギュラー出演が決まったりするなどの話はほとんど聞きません。

 事実、大きなニュースとして報じられたのは、水溜りボンドの地上波初レギュラー番組「水溜りボンドの〇〇行くってよ」(テレビ神奈川)が10月3日にスタートするくらいでした。ただ、同番組の放送はキー局のネットワークに属さない独立局神奈川テレビであり、その影響力は限定的なものにとどまっています。

 なぜ、多くの登録者数を持つYouTuberたちのテレビ出演は増えそうで増えないのでしょうか。

出演番組を見るとしてもTVer

 まず、テレビ局スタンスを挙げていくと、「スポンサー受けのいい若年層からの個人視聴率が取れるのなら、ぜひ出てほしい」というのが本音。各局の制作サイドにとって、「人気YouTuberの出演でどれだけの数字が取れるのか」は未知数であり、「まずはゲスト出演で反応を見る」という実験段階が何年も続いているのです。

 これまで、YouTuberをゲスト出演させた際の視聴率はそのほとんどが「思っていた以上の成功でも失敗でもない」という微妙な結果。つまり、数字的には「ぜひ次もお願いします」「この番組のレギュラーになってもらえませんか?」というほどではないようです。

 ただ、結果と同様に重要なのは内容に関する評判。YouTuberのテレビ出演は日頃、彼らの動画を見ているファンを喜ばせる半面、ファン以外の人々から「この人たち誰?」という戸惑いや「他のタレントと比べると面白くないし、見た目もよくない」などの批判が上がりやすく、しかも大勢を占めてしまうなど、全体的な視聴者満足にはつながりにくいところがあります。

 そもそも、YouTuberの熱心なファンが彼らの出演番組を見るかは微妙。テレビよりもネット中心の生活をしている人々が大半を占めているため、「出演番組を見るとしてもTVer」であるなど、視聴率の獲得にはつながりにくいのです。

 そのため、各局のテレビマンから見たYouTuberは「トークとビジュアルでタレントに劣るため、特筆すべきキャラや芸がなければ積極的に使いづらい」というのが本音。この先、トークとビジュアルを洗練し、テレビらしい万人受けするキャラや芸を身につけたYouTuberが現れたら、すぐにでもレギュラー出演を依頼されるでしょう。現在はそうなっていくか、なっていかないかの過渡期なのです。

 各局がYouTuberのテレビ出演を本格化させていきたいのなら、彼らの主なファン層であるティーン向けの番組をもっと増やすべきでしょう。「彼らのファン層と、放送されている番組の視聴者層が一致しづらい」という現状が、出演数が増えない原因となっています。

「出たい」「出たくない」YouTuberの心理

 ここまでは、起用するテレビ局側の事情を書いてきましたが、YouTuber側にも「出たい、出たくない」という思いや「出る、出ない」という決断があります。実際、彼らのフィールドは当然ながらネット上であり、「動画数を減らしてまで出たい番組はない」という声を何度か耳にしました。

 また、登録者数百万人のあるYouTuberに話を聞いたところ、「家族や友人が喜んでくれるから、テレビも出たいと言えば出たい」「1~2本レギュラー番組があってもYouTubeの宣伝になるし、いいかなとも思う」などと語っていました。

 しかし、その一方で「やっぱり、テレビはアウェーで自分の持ち味を出しにくい」「芸能人ばかりのスタジオで居心地の悪さを感じてしまうこともある」とも語っていたのです。日頃、動画の撮影だけでなく、企画や編集なども行っているYouTuberは芸能人のような単なる出演者ではなく、スタッフという一面もあるため、「こうしてほしかった」「これだけでは出る意味がない」などと感じてしまう機会もあるのでしょう。

 テレビ側が求める視聴率と評判、YouTuber側が求める内容への納得。双方が得られるような状態になれば、現在以上に出演数は増えていくのではないでしょうか。

コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志

はじめしゃちょーさん