シュレーディンガーの猫と双子のパラドックスを組み合わせて時計を作る

シュレーディンガーの時計 / Pixabay

 物理学で一番有名な思考実験の1つは、アインシュタインが最初に提案した「双子のパラドックス」と呼ばれるものだろう。

 双子の片方がほぼ光速で移動する宇宙船に乗って、どこかの星まで旅をしてから地球に帰還したとすると、その人は双子の兄弟よりも若くなる。

 これは特殊相対性理論が述べている通り、移動速度が速くなるほどに時間の流れが遅くなる(「時間の遅れ」)ことが原因だ。

 「シュレーディンガーの猫」もまた有名だ。ガイガーカウンターに連動してスイッチが入る毒ガス発生装置が設置された箱に、ネコと放射性元素と入れて密閉する。

 放射性元素の崩壊率が50%だったとすると、あら不思議! 箱の中のネコは生きている状態と死んだ状態で同時に存在している(「重ね合わせ」)ことになる。

 では、この2つを組み合わせたらどうなるのか?

 『Nature Communications』(10月23日付)に掲載された論文では、重ね合わせの状態にある量子原始時計で2つの時間を測定するとどうなのるのか考察されている。

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ミクロの世界の奇妙な重ね合わせ

 量子力学でいう重ね合わせとは、1つの物体が同時に複数の場所に存在するという奇妙な現象のことだ。

 重ね合わさった物体は、観察をした途端に、それらの内のどれか1つに収束するので、日常生活でそんな奇妙な状態を目にすることはない(ちなみにシュレーディンガーの猫は、この奇妙な現象への反論として考案されたものだ)。

 だが、たとえばビームスプリッターで光子を分割するといった実験を通じて、ミクロの世界では粒子が本当に重ね合わせの状態にあることが確認されている。

 また、この状態を実用的な目的に活かそうとする研究もある。重ね合わさった粒子は情報を共有しているらしく、盗聴不可能な「量子暗号」や究極の低電力・大容量通信である「量子通信」などに応用できるのだ。

シュレーディンガーの猫

Pixabay

原子時計と重ね合わせでシュレーディンガーの時計を作る


 原子が崩壊するタイミングは非常に正確なので、超精密な時計として利用することができる。

 論文によれば、この「原子時計」を重ね合わせの状態にし、その片方を秒速数メートルで動かしつつ、もう片方を動かないままにしておけば、原子時計で時間の遅れを実験できるのだという。

 しかし重ね合わさった原子時計は、シュレーディンガーの猫のように2つの状態で同時に存在するのではない。そのかわりに異なる時間を刻む。

 研究グループの1人、英セント・アンセルム大学のアレクサンダー・スミス氏は、これについて「いわばシュレディンガーの時計」とScientific Americanで語っている。

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Pixabay

量子力学と相対性理論の架け橋


 第三者であるオックスフォード大学の物理学者ブラッコ・ベドラル氏の解説によると、これは量子力学相対性理論の架け橋となる貴重なアイデアなのだという。

 量子力学相対性理論は、それぞれミクロの世界とマクロの世界を正確に記述しながらも、なぜだかうまく統合できないことで悪名高い。

量子力学の重ね合わせの原理を相対性理論の時間の遅れの概念と組み合わせることができます。紛うことなき双子のパラドックスでありながら、量子力学に応用できるのです

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Pixabay

シュレーディンガーの時計は実際に観測可能


 シュレーディンガーの時計による時間のズレは、ほとんど気づかないようなごくわずかなものかもしれないが、高精度な量子原子時計には影響がある可能性があるという。

 しかも凄いのは、そうした影響を実験によって実際に測定できるかもしれないという点だ。

 スミス氏らは今、その実験の準備を進めているところであるそうで、「今後5年から10年で確認できるかもしれません」と述べている。これに関しては思考実験ではなく、現実の話である。

Quantum clocks observe classical and quantum time dilation | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-18264-4

References:scientificamerican/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52295965.html
 

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