記憶に新しい中国産米の産地偽装問題をはじめ、残留農薬、重金属、抗生剤、成長ホルモン剤の使用など、安全性に疑問がつきまとう中国食品。

そのような“危ない食品”を水際で阻止する検疫は、どれくらい徹底的に行なわれているのか。厚生労働省の輸入食品安全対策室に聞いた。

「すべての輸入食品の届け出を審査し、過去の違反事例の有無、輸出国の情報、原料・製造方法などをチェックして、違反の可能性が高いものについては検査命令を出します。平成24年度の輸入届け出件数は218万1495件で、そのうち22万3380件を検査しました。

この段階で、その検査結果が法に適合しなければ、輸入および流通は認められませんし、それ以外でも、すべての食品についてモニタリング検査を実施しています。その結果、例えば農薬が出た場合にはモニタリング検査の頻度を高めたり、健康被害の恐れのある数値が出た場合は速やかに検査命令に移行します」

218万件のうち、検査している約1割(22万件)はかなり念入りだということがわかる。しかし、残りの9割はどうか?

218万件のうちには継続的に輸入される食品もあり、以前実施した検査結果が添付されている場合は、それをもって検査の省略をしています。つまり、書類審査は全品について行なった上で、さらなる検査の必要はないと判断したものが9割ということです」

検査の網をかいくぐって汚染食品が市場に流通することは?

モニタリング検査は95%の信頼度ですが、完全に100%やるとなると、全ロットを検査するしかありません。それは物理的に無理があるということで、今のような形でやっております」

中国食品では、野菜で検出される残留農薬だけでなく、重金属の汚染や抗生剤、成長ホルモン剤の使用なども気になるところだ。

「もちろん問題がある農薬や医薬品、ホルモン剤なども、モニタリング検査の結果、違反の可能性が高いと判断できる品目は検査命令に移行します」

なるほど、水際作戦にはかなり自信をお持ちの様子だが、この厚労省の検疫体制について、食の現場を知る人々はどう考えているのか。

消費者問題研究所代表で食品表示アドバイザーの垣田達哉(かきた・たつや)氏は、そもそも検査件数が少なすぎると指摘する。

「食品を輸入する際には届け出が必要で、そのときに“納品伝票”のようなものがついてくる。例えば、『ウナギのかば焼き』が中国から10箱入ってきたとしましょう。そのうち100尾入りのひと箱を検査すると、伝票ベースでは1割になる。しかし、実際には100尾すべてを検査しているわけではなく、せいぜい1尾か2尾といったところ。つまり、数量ベースで見れば全体の1%にも満たないんです。ですから、厚労省が考える以上に検査の網をすり抜ける汚染食品が出てくるわけです」



有名レストランに食材を卸している貿易会社の幹部は、“水際”より前の“海の向こう岸”での甘さをこう語る。

「輸入する際には、仕入れ先の国の検査機関が発行する証明書が必要で、その検査機関は厚労省リストアップしています。ところが実際には、現地ではいいかげんな機関が指定されていることがよくあるんですよ」

食の安全に詳しいジャーナリストの椎名玲(しいな・れい)氏も次のようにつけ加える。

「5年前のことですが、中国の検査機関の証明書がついた中国産シイタケを日本の検査機関が調べたところ、ホルムアルデヒドが人体に影響を与えるレベルで大量に検出されたことがありました。

もちろん、十分な検査機材も検査官の教育もないような時代だった当時の中国と、現在の中国の検査技術や体制とはかなりレベルが違うとは思いますが、そうはいっても“袖の下”を通してしまえばなんとでもなるのが中国という国。検査のごまかしなんて、現場レベルでは意外に簡単なんですよ。それに、最初のうちはマジメにやっていても、いったん検査が入った後は『しばらくはないだろう』と、手を抜くケースも多々ある。まったく安心はできません」

重金属や抗生剤、成長ホルモン剤などの汚染物質についてはどうだろう。

「抗生剤は一応、日本でも検査対象になってはいますが、設定されている基準値自体に疑問符がつきます。例えば海産物には合成抗菌剤とセットで抗生剤が使われるのですが、出荷前にある程度の日数をおくと、検疫には引っかからないのです。重金属にしても、検査対象となっている食品は米くらいのものです。

どの汚染物質にしても、基本的には何か違反が出たりしたものに関して特別措置期間が設けられ、その期間の数年間は徹底的に検査するという体制です。もちろん、中国産でも安全な基準を満たしたものが多数だとは思いますが、残りの危険なもののレベルがほかとは違う。それが加工原料に紛れ込んで日本へと流入するので、いわばロシアンルーレットみたいな状況になっているわけです」(前出・椎名氏)

このように、数多くの防波堤があるにもかかわらず、それを乗り越えて危険食品は中国から“流れ弾”のように紛れ込んでいるのが現状だ。

(取材・文/頓所直人 コバタカヒト[Neutral])

■週刊プレイボーイ46号「中国食品『偽装&ステルス混入』の舞台裏」より



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