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 1912年に沈没したタイタニック号が海底3,650メートルで発見されたのは1985年のことだ。以降多くの人々が沈没地点まで何度も潜ってきた。

 タイタニックの引上げ作業権をもつ民間会社「RMSタイタニック社」は、船の象徴ともいえるマルコーニ無線機を回収する計画をたてている。これは、沈みゆく大型客船の遭難信号を発信し、700人あまりの人々を救命ボートで助けるのに活躍した貴重な機械だ。

 だが、この計画が議論を呼ぶことになった。1500人もの人が亡くなった現場は、そのまま静かにしておこうという意見も多く、遺体が眠っているかもしれない現場をいじくりまわすことが亡くなった人たちへの冒涜になるという議論だ。

 世界でもっとも有名な難破船の中に、一世紀も前に亡くなった乗客や乗組員の遺体がまだ残されている可能性があるだろうか?

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無線機回収計画に反対する声

 1985年9月1日、海洋地質学者ロバートバラード率いるウッズホール海洋研究所およびフランス海洋探査協会の調査団は、海底3,650メートルに沈没したタイタニックを発見、2004年6月にはアメリカ海洋大気庁(NOAA)と共にタイタニックの損傷状態を調査する目的で探査プロジェクトを行った。

 その後、バラードの呼びかけにより「タイタニック国際保護条約」がまとまり、同年6月18日アメリカ合衆国が条約に署名した。この条約はタイタニックを保存対象に指定し、遺物の劣化と違法な遺品回収行為を防ぐこととしている。

 米政府の弁護団は、船内にまだ遺体が残っている可能性があるという考古学者の言葉を持ち出し、RMSタイタニック社の回収計画をそうしたデリケートな事情を考慮していないと指摘した。

 「タイタニックの沈没で、1500人を超える人たちが亡くなりました」スミソニアン国立アメリカ歴史博物館ポールジョンストンは言う。「海流で流されることのない深海のどこかに、遺体が残っていないとは言い切れないでしょう」

 無線機を回収するには、遠隔操作できる探査機を沈んでいる船の天窓あるいは、腐食した船体にあけた穴から侵入させることになるだろうし、積もり積もった泥を浚渫機で吸い上げて取り除いたりしなくてはならないだろう。

 海洋学者で、RMSタイタニック社社のアドバイザーも務めるデヴィッド・ギャロは言う。「もし、人間の遺体を見つけたら、カメラの電源を切って、次にどうすべきか決めるくらいの謹みの心はちゃんともっています」

 タイタニック号の犠牲者をいかに尊重すべきか、会社の遠征隊が船体に入り込むことを許すべきかどうか、こうした行為が冒涜にならないのか、大きな議論になっている。

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2004年タイタニック号が沈んだ現場の海底写真。犠牲者のものと思われる靴が写っている

沈没したタイタニック号の中にまだ遺体は残っているのか?


 今年5月、ヴァージニアノーフォーク連邦地方裁判所のレベッカ・ビーチ・スミス判事は、この捜索計画を承認し、無線機の回収は"タイタニックの消えることのない損失、生還した人たち、そして沈没で亡くなった人たちが残した遺産に資するものである"と書いている。

 だが、これに対して米政府側は、6月に法的な異議申し立てを行い、この裁定は連邦法に違反し、沈んだタイタニックの残骸を神聖な追悼の場とみなす英国との協定に反すると主張した。

 弁護団は、2000年の判決は、船体、遺物、人間の遺体が損なわれないようにするために、この難破船への立ち入りを規制したものだと主張している。

 タイタニック号は、1912年にイギリスからニューヨークへ向かう航行中、氷山に衝突して北大西洋で沈没し、1985年にその残骸が発見された。

 人間の遺体を巡る問題について、この問題が軽視されている、いや、ちゃんと重視していると、双方が主張して議論が膠着状態になっている。

 RMSタイタニック社の社長、ブレットン・ハンコックは、政府の見解は科学というより感情にのっとったものだと語る。「このような問題を世論の支持率を高めるために利用しているだけです」

 RMSタイタニック社は、法廷で認められたタイタニック号の遺物の管財人で、銀器や陶磁器、金貨など数多くの遺物を管理してきた。

「当社は常に、タイタニックは考古学的遺跡であると同時に墓場でもあると考え、敬意をもって扱ってきました」ハンコックは言う。「その精神は、実際に人の遺体があるかどうかには左右されません」

 海洋学者のギャロによれば、遺体はもう何十年も前に海の藻屑になってしまった可能性が高いと言う。

 タイタニックは水深およそ4000メートルのところに沈んでいるが、深海はタンパク質が不足しているため、海洋生物によって人間の肉は食べ尽くされ、骨は深海の水の化学作用で分解してしまっただろうというのだ。

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 だが、同レベルの深さのところから、クジラの骨が見つかったことがある。2009年には、大西洋に墜落したエアフランス航空機の残骸から、人間の遺骨が発見されている。

 「普通ならこんなことはありません」何度もタイタニックの捜索に関わってきたギャロは言う。

 政府の意向を支持する考古学者たちは、人間の遺体があるに違いないと主張し、それに疑問をはさむ動機を問題視する。

 スミソニアンのジョンストンは、裁判所への文書の中で、遺体は難破船の内部、あるいは残骸の散らばる外にある可能性は確かにあるとした上で、「会社は、誰かに人の遺体のことを考えて欲しいのではなく、一般に公開する新たな遺物が出た、すごい!と思って欲しいのです」とインタビューに答えている。

 米国立公園局水中資源センター長デヴィッド・コンリンは、引揚げに反対する声明を出した。「引き揚げるのではなく、あるがままの姿にしておくほうが一番いいのです」

 タイタニックよりももっと古い難破船からも、乗組員や乗客の遺体が出てきたことがあるという。

 1864年に沈没した南軍の潜水艇H・L・ハンリーの残骸から、8人の水兵の遺骨が発見されているし、ギリシャの島、アンティキシラ近くで沈んだ紀元前1世紀の貨物船から人骨が見つかっている。

「深海の冷たく酸素の少ない海水は、驚くほど保存力があることがあります」コンリンは言う。「これほど長い年月のたった人間の遺体が、とても立ち入ることができない船内の奥深くにあるとしたら、それは悲劇的でもあり、信じられないようなすごいことでもあるのです」

References:ocregister / oregonlive/ written by konohazuku / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52296151.html
 

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