新幹線の進化は「車両」に注目しやすいところですが、万が一の脱線事故に対する復旧作業もいま、大きく進化していました。JR東海が新たに導入する装置では、作業時間や機材重量、人員などが約半分になるそうです。

ミリ単位で「新幹線の巨体」を動かす

「10か20で刻んでいったほうがいいと思います!」
「海側に10mm動かします!」
フランジあたらないかな?」
「海側に5mm横送り開始!」
「No.3軸に比べ、No.4軸が山側に10mmほどねじれています!」

JR東海が、2020年11月5日(木)に東海道新幹線の三島車両所で実施した「総合事故対応訓練」のひとつ、「脱線復旧訓練」です。

大きなN700系新幹線の車両を脱線させ、復旧する訓練なのですが、そこではミリ単位での仕事が行われていました。

かんたんにいうと、車両を油圧ジャッキで持ち上げて、車輪がレールの直上へ来るよう調整し、本来の場所へ降ろす、という流れです。声を出しながら6人が連携し、作業は進行。長さ25000mm、高さ3600m、幅3600mmというN700系新幹線の大きな車両が、ゆっくりと、そして正確に戻っていきます。

「脱線復旧」という、鉄道を運行するにあたって、しないほうがいいけど、できないといけない作業。車両が2020年にはN700Sへ進化したように、この脱線復旧作業も進化しているそうです。

進化する脱線復旧 JR東海が開発した新兵器とは

JR東海は前回2019年の「総合事故対応訓練」で、「車体支持式横送り装置(脱線車両を持ち上げて左右方向の位置を調整できる装置)」の試作機を公開し、現在はその量産型を導入済み。

そしてJR東海は今回2020年の「総合事故対応訓練」で、「台車回転補正治具(車輪の向きとレールの向きを合わせる装置)」を初公開し、これも2020年度中に導入する予定とのこと。

これら新しい装置の導入により、作業時間は180分から100分に、機材の重量も689kgから237kgに、必要な人員も12人から6人へと、作業速度と効率が大きく向上するそうです。

ちなみに、従来の装置は台車(車輪のある部分)を車体ごと持ち上げて作業していたのに対し、新型は車体を持ち上げているのがポイント。車体を持ち上げたとき、台車が外れないよう固定する方法を工夫したそうです(かんたんにいうと、車体は台車の上に載っかっているだけのため、車体を持ち上げても台車は下に残ってしまう)。

なおJR東海の発足以降、東海道新幹線の営業線上で脱線事故は起きていないそうです。

脱線し、車両と車両がずれてしまったN700系(2020年11月5日、恵 知仁撮影)。