(城郭・戦国史研究家:西股 総生)
城のことはよく知らないのだけれど、ちょっと気になる。
どこをどう見たら面白いのか、よくわからない。
そんなはじめて城に興味を持った人や、もっとよく知りたい人へ、
城の見方、楽しさを伝える書籍『1からわかる日本の城』。
専門用語や歴史の解説ばかりでない、見分けるコツが書かれた本は、「今までになかった」と、城マニアからも注目されています。
今回はその中から知っているようで知らない、城の話をご紹介します。
高く丈夫に積む工夫とは?
石垣の基本的な見方は、こちらでお話ししました。 ここでは、石垣の仕組みについてお話しします。
戦国時代の土造りの城でも、土が崩れないように土留めとして石を積むことはありました。でも、私たちがよく見ている、近世の城の石垣とは、構造がまるで違います。戦国時代の土留めの石積(いしづみ)は、たんに石を積み上げただけ。土の壁に石が張り付いているようなものだと思えばよいでしょう。これに対し、近世の城の石垣は裏込(うらごめ/ぐり石)といって、裏側に小さな石を大量に入れています。
裏込が重さを吸収することによって、石垣を支えているのです。重たい列車が高速で走る線路を、砂利(バラス)が支えているのと同じ原理です。裏込というテクニックを獲得したことによって、築城のステージは一気に上がりました。
石垣を、それまでとは比べものならないくらい、高く安定して積むことができるようになったのです。しかも、上に天守や櫓のような重たい建物をのせても、ビクともしません。城のプランも、自由に工夫できるようになりました。
裏込は、実物を目にする機会はめったにありません。でも、発掘調査された石垣や、災害などで崩れてしまった石垣を見ると、裏込が何mもの厚さで入っていることがわかって、驚きます。石垣が立体構造物であることを、あらためて知らされるのです。
築石と間詰石
その立体構造物である石垣の、表に見えているメインの石──いままで何となく「石」と呼んできましたが──を、築石(つきいし)といいます。では、石垣は築石と裏込だけでできているのかというと、そんなに簡単ではありません。
石垣を正面から眺めてみましょう。築石と築石との隙間を埋めるように、小さな石が詰め込まれています。これを間詰石(まづめいし)といいます。間に詰めるから、間詰。まんまですね。
間詰石は、石垣のタイプによって入ったり、入らなかったりします。野面積みは、もともと大小の石をランダムに積み上げてゆくやり方ですから、築石と間詰石の区別がはっきりしません。これが打込みハギになると、築石と間詰石がはっきり分かれます。
もうひとつ、介石(かいいし/飼石)というものがあります。築石の後ろの方で、角度や築石どうしのかみ合わせを調整するために、かませる石です。石垣を頑丈に築くには、築石の奥行きをたっぷりと取る必要があるので、後ろの方で角度やかみ合わせを、カッチリ決めなければなりません。
できのよい石垣は、地面からゆるやかに立ち上がって、少しずつ角度が急になってゆき、上の方では垂直になります。石垣を安定させ、かつ敵に登られないようにする工夫で、この曲線の美しいものを、とくに扇(おうぎ)の勾配(こうばい)などと呼びます。
このような曲線を造り出すためには、築石の角度を絶妙に調整する必要がありますよね。その微妙な調整を可能にしているのが、介石というわけです。裏込と同様、ふだん目にすることはありませんが、介石は美しく頑丈な石垣を、見えないところで何百年も支えてきた功労者なのですね。
(『1からわかる日本の城』西股総生・著より再構成)
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