(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

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 混戦の米国大統領選挙は、バイデンが勝利した。

 これで、日本では後期高齢者と称される範疇に入る、史上最年長の大統領が誕生することになる。

 そういえば、副大統領だった時代に、大統領オバマに誘われてホワイトハウスの中をジョギングするPRビデオが制作されていたことを思い出す。全米で問題となっていた肥満について啓蒙するためで、運動不足の解消をアピールしていた。健康にはよほど配慮しているに違いない。

 今回の大統領選挙は、日本のメディアでも「激戦州」とした州が6つほどあったが、その中でも中西部のウィスコンシン州に注目していた。理由は単純で、過去に取材で訪れたことがあったからだ。

サッポロ、ミュンヘン、ミルウォーキー

 ウィスコンシン州ドイツ系の移民が多かった場所だ。日本人にも馴染みのあるところでは『大草原の小さな家』の舞台となっている。名物はソーセージとビール。「サッポロミュンヘン、ミルウォーキー」と言えば、大昔のビールの宣伝文句にあったように、州最大の都市ミルウォーキーではビール大手の『ミラー』が創業している。地元のメジャー球団はブリュワーズ。醸造を意味している。

 もともとは民主党の強い地盤だと聞いていた。初めて同性愛を公言して上院議員になった女性タミー・ボールドウィンも同州の選出で、一時はバイデンの副大統領候補にも名前が挙がっていた。

 州都のデモイン滞在中は、タクシーを利用していた。ニューヨークシカゴのような大都市と違って、市中を空車が行き交っているものでもない。むしろ、レンタカーで移動するのが地元では普通だが、取材先も定まっていたことから、ホテルから数少ないタクシーを呼んでいた。

 そうすると、必ず若い女の子が普段着でタクシー会社の車を運転してやってくる。一度や二度ならず、顔は変わるがいつも若い女の子が私を目的地まで送ってくれた。事情を探ると、地元の大学を出たものの仕事がなく、そうしてアルバイトをしているという。隣のミシガン州といっしょにラストベルトに位置づけられていた同州だが、そんな状況を知って、前回はトランプを当選させたものの、どういう投票行動をするのか、気になっていた。ミシガン州ウィスコンシン州も、はじめはトランプ有利と報じられていたが、最終的には僅差でバイデンが勝利している。

アメリカではかなりの割合で牛がヨーネ菌に感染

 そもそも私が、ウィスコンシン州を訪れたのは、ヨーネ病(菌)の取材だった。

 ヨーネ病とは、日本の家畜伝染病予防法に指定された法定伝染病で、主に子牛が母乳や排泄物から菌に感染し、潜伏期間を経て発症する。乳が出なくなり、水性の下痢が繰り返され、痩せ衰えて死んでいく。日本では定期的に全頭検査される。感染が見つかると殺処分され、食品衛生法によって、乳製品はおろか、食肉として市場に回してはならないことになっている。牛舎も全体が消毒される厳しさで、徹底管理されている。

 ところが、米国では野放しになっている。農場全体の68.1%が、500頭以上の牛を抱える大農場に限っては、95.1%が、このヨーネ菌に曝されていることが、2008年の米農務省の調査で明らかになっている。

「全米においては、50頭に1頭の割合で牛がヨーネ菌に感染しているはずです」

 私は当時、国際ヨーネ病学会の会長だったウィスコンシン州立大学のミッシェル・T・コリンズ博士に話を聞いた。

「しかも、マクドナルドで使用されるミンチ肉の30%は乳が出なくなった牛。おそらくヨーネ病発症直前の牛の可能性が高い。感染した牛の肉組織や血液からもヨーネ菌は見つかっています」

 このヨーネ菌が、日本で難病指定されている人間の「クローン病」を引き起こすと、ずっと以前から指摘されてきた。

 クローン病は、人体の口から肛門までの消化管の全域のどこにでも炎症や潰瘍を引き起こし、腹痛や下痢といった主な症状から、発熱、体重減少、不定愁訴まで症例報告される。特に20代前半の若者に多く、これといった治療法もない。日本では1950年代までクローン病の患者は見つかっていなかった。それが60年代から症例が報告されるようになり、現在では、約4万人が厚生労働省に難病登録されている。

 このクローン病と、家畜のヨーネ病の病変がそっくりなのだ。しかもクローン病の患部から、牛ヨーネ病と同様のDNAが検出されていることなどから、ふたつは同じ病気で、クローン病の原因はヨーネ菌による、とする研究発表が繰り返されてきた。

「そもそも最初にスコットランドクローン病患者が見つかった時は、その症状からヨーネ病と診断されていました」

 国際学会の会長はそう教えてくれた。

 さらに、安倍晋三前首相が若い頃から苦しみ、首相の座を降りるきっかけとなった「潰瘍性大腸炎」もクローン病と同じ炎症性腸疾患(IBD)に分類され、原因もやはりヨーネ菌ではないか、と指摘されている。

「ヨーネ菌汚染大国」から日本も乳製品を大量輸入

 同じ腸管の病気でいえば、通勤途中にすら急に下痢性の便意をもよおす「過敏性腸症候群IBS)」や、膵臓が破壊されインスリンが分泌されなくなる「Ⅰ型糖尿病」の原因説まで、時間を追って研究報告が相次ぐ。

 そして、4年前には日本の順天堂大学が、神経難病である「多発性硬化症」の発病にヨーネ菌の死菌の経口摂取が人種差をこえてリスクとなる、と研究発表している。

 日本には欧米から、様々な畜産品、乳製品が輸入されている。その傾向はTPP、日EU・EPA、そして日米二国間貿易交渉で加速した。だが、いずれの国や地域もヨーネ菌対策は徹底しておらず野放しの状態で、日本でも家畜伝染病に指定されながらヨーネ菌の検疫体制はなく、そのまま食材が日本国内に入ってきている。

 しかも、ヨーネ菌は熱処理された死菌であっても、病状を引き起こすとされる。死菌ならば、乳児の粉ミルクに混ざっている可能性も高い。日本の大手乳業メーカーの粉ミルクには、北米をはじめ、オセアニアや欧州から輸入された原料が使われている。

 バイデンはトランプと違って、地球温暖化、気候変動の環境問題に、積極的に取り組むことになるだろう。パリ協定への復帰も明言している。だが、大統領が代わっても、日本人の食の安全環境は変わらない。米国向けのダブルスタンダードはこれからも健在である。

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*写真はイメージ