「小説を音楽にする」をコンセプトにした大人気ユニット“YOASOBI”が7月30日に配信リリースした第4弾シングル「たぶん」の原作となった、しなのによる同名小説を原案とした短編映画『たぶん』が11月13日(金)に劇場公開される。

3組の男女の切ない別れを収めた本作で、同棲していた大学生カップルのカノンを演じた女優の小野莉奈とYOASOBIのボーカルを務めるikuraことシンガーソングライターの幾田りらは、実は中学生時代からの大親友。女優として、歌手として、「いつか一緒にお仕事ができたらいいね」と語り合っていた二人の夢が初めて重なり合った作品にかけた思い、そして、出会いを聞いた。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 冨田望

◆口を開けば、夢を語っていた。ちょっと他にはない、熱い関係だなって思う。

ーー おふたりは中学時代からの大親友なんですね。

【 小野 】 大親友って改めて言われると照れるね(笑)。

ikura 】 うん(笑)。中学3年生の時にクラスが初めて一緒になったんです。お互いに中2まで仲良くしてた子たちとクラスが離れちゃったので、誰と一緒にいたらいいんだろうっていう状態の時に私がロックオンして(笑)。

【 小野 】 クラス発表の時にりら……じゃない、ikuraちゃん(以下:中学時代からの呼び方のりらで統一)がちょっと遅れてきたんですよね。そしたら、物凄い勢いで走ってきて。「一緒になろ!」って言ってきたのがはじまりですね。

ikura 】 最初に名簿を見た時に、小野莉奈しかいないと思って。

【 小野 】 私も、この子しかないと思ってた。もう誰かと組んでたらどうしようと思ってたら走ってきて。

ーー ikuraさんはどうして小野さんしかいないと思ったんでしょう?

ikura 】 もともといじられキャラで、面白い人だったので、いつか仲良くなりたいなと思っていたんです。

【 小野 】 2人とも、わりとギリギリに登校する組だったので(笑)、ちょっと同じ匂いがしてたのかな。でも、同じクラスになって声掛けられた時は、仲良くなれるかなっていう緊張感もあったかもしれません。まだ、どういう子なのかあんまり知らなかったので。

ーー 仲良くなったきっかけはありますか。

ikura 】 休み時間に「ちょっと話したいことがある」って言われて。なんだなんだ? と思いながら、人がいないところを探して……確か、木工室の前だよね。

【 小野 】 (恥ずかしそうに)うんうん。

ikura 】 小さな空間があったんですけど、ドアも窓も全部閉めて。「実は私、女優さんになりたいんだよね」って初めて打ち明けてくれたんです。最初は驚きましたけど、本当に真剣な眼差しだったんです。「親にもまだ言えてないし、初めてりらに言ったんだ」って言ってくれて。目が本気だったし、これは応援しなきゃなと思いました。「一緒に今からできることをやってみよう」って言って、オーディションの写真を一緒に撮りにいったりしてました。

【 小野 】 当時、焦ってたんです。中3だし、そろそろ夢に向かって動き出さなきゃと思っていましたし、まず、誰かに言わないと始まらないような気がしてて。りらは中1の頃から音楽活動をしてたし、歌手を目指してることも知っていたので、私が夢を明かして、それをバカにしたり、笑う子じゃないっていう確信があったんです。だから、絶対にこの子に最初に言おうって。結果、私よりも行動してくれました。

ikura 】 自信なさそうだったんです。当時、ちょうど私も、歌のオーディションを受け始めている時だったので、手助け出来たらいいなと思って。今でも覚えているのが、オーディション用紙の自己PRを書く欄で、たまに変な敬語になってるところがあって。それを添削してあげてました(笑)。

【 小野 】 赤ペン先生みたいな感じだったよね(笑)。高2の時に受けた今の事務所のオーディション用紙もりらに添削してもらいました。

ikura 】 やりたいっていう気持ちを尊重してあげたかったので、自分にできることはしてあげたいって思ってました。

ーー お互いに夢を語り合って、背中を押し合ってきた存在なんですね。

ikura 】 そうですね。高校時代も日常的に、二人が一緒になれば夢の話をしてました。

【 小野 】 自然と、口を開けば、夢を語るっていう感じで。よく、学校帰りに、駅のパン屋さんでパンを買って、夢を語り合いました。

ikura 】 パンを1個買って、3〜4時間、長居して喋ってました(笑)。同級生の中でも女優や歌手を目指している人は私たち以外にいなかったし、やっぱり同士の方が語り合えることが多かったんですよね。

【 小野 】 私が事務所に入る前は特に、いろいろな不安があって。そういう時は、大体、りらと話すんです。りらは「りっちゃんなら絶対になれるよ」って、私よりも自信のあるように言ってくれる。そう言って欲しくて喋ってた部分もありますね。

ーー 小野さんを主人公にした曲があったりますか。

ikura 】 あります! 高1の誕生日の時に彼女に歌を作りました。「ライラック」っていう曲です。

【 小野 】 そうそう。井の頭公園にある野外ステージで歌ってくれました。その日は雨が降ってたんですけど、待ち合わせの時に、謎に後ろにギターを抱えてるなって思ってたんです(笑)。誕生日プレゼントはクマのぬいぐるみをくれたんですけど、「もう1つあるんだ」って言って、私だけに向けてギターを弾いて、歌ってくれたんです。シンガーソングライターっていう力を存分に生かしたプレゼントで感動しました。

ikura 】 音源にはなってないんですけど、ソロのライブで直接、彼女の前で歌ったこともありました。

【 小野 】 私への愛がすごい詰まってるから、ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。

ikura 】 ライラックの花言葉に「友情」とか、「思い出」とか、「青春の喜び」とか、すごくいい言葉がたくさんあったんです。しかも、私の「りら」っていう名前は、ライラックの日本名のことでもあるんです。

【 小野 】 熱いね。

ikura 】 うん。ちょっと他にはない、熱い関係だなって思いますね。

ーー そんなおふたりの関係はまず、小野さん主演の短編映画『アンナアンリの影送り』(18)の原案にもなってますよね。女優志望で頑張っていく小野さん自身の話がストーリーになってて。

【 小野 】 そうなんですよ。私が今、女優さんになっているのは、歌手志望で頑張っているりらちゃんっていう存在がいるおかげなんです、という話をしたら、監督さんが「それいいね」って言ってくださって。中学時代からの大親友とそれぞれの夢を叶えるために頑張るというストーリーになったんです。

ikura 】 「いつか一緒にお仕事ができたらいいね」っていう話はずっとしてたんですけど、私の存在自体で物語ができて、役名はあるにしても、本人が出演するって言うのを聞いたときは……本当に中3の木工室前で相談してもらえたことも嬉しかったし、それを応援してあげられて本当に良かったなって。そうやって形になって、作品になることが私たちにとって、1番嬉しいことだなって思いました。

ーー 同じく2018年の10月には小野さんがドラマ『中学聖日記』に出演して話題となりました。

ikura 】 私にとっても大きな思い出になっています。初めて世に名前が知れ渡るようなドラマに出たので、「ついに小野莉奈の時代がきた!」って思ったんです(笑)。自分の音楽活動は、まだ芽が出てるわけじゃなかったので、自分も頑張らなきゃっていう思いもありつつ、すごく頑張ってたし、悩みも聞いていたので、とにかく頑張ってほしいなって思ってました。

ーー 翌年となる2019年にYOASBIが「夜に駆ける」でデビューし、YouTubeの総再生回数1億回を突破するほどの社会現象となりました。

【 小野 】 私、最初は母から聞いたんです。お母さん同士の学校のグループがあって、そこで子供たちの情報を共有しているらしくて。初めて曲を聞いたときは、友達じゃなかったとしても、この曲が好きだし、絶対に聴いてたなって思いました。

ーー 仕事の内容を逐一報告したりはしてないんですね。

ikura 】 YOASOBIを始めたときは話したんですけど、世の中的にどんな感じになってるかは言ってなくて。お互いの具体的な活動内容よりは、今、どんなことに悩んでるかを共有してる感じでした。

【 小野 】 だから、朝のテレビ番組に取り上げられてるのを見てびっくりしました。「すごい! テレビに出てる」って(笑)。しかも、この前、電車に乗ったら、隣の人がYOASOBIを聴いてて。なんか感慨深かったですね。でも、中学生の頃からずっと音楽活動をして頑張っていたので、努力が報われたんだなっていう気持ちもあったし、私ももっと頑張らなきゃなって感じました。

◆映画『たぶん』のラストシーンは、繋がった。

ーー お互いの存在が刺激になってるんですね。そして、今回、ついに映画『たぶん』で初めて一緒に仕事をすることになりました。この話を聞いたときはどう感じましたか。

ikura 】 まだ夢の途中ですけど、1つの夢が叶ったなって思っています。中学生の時から「いつか一緒にお仕事できるように、そういう日がくるまで、諦めずに頑張ろうね」って言っていたので、その夢が叶ったことが感動的だなって思います。

【 小野 】 私、それこそ、朝のテレビ番組を事務所の社長さんと一緒に見てたんですよ。そこで、「この子に夢を応援してもらった」って話をしたら、「じゃあ、いつかこの子と仕事ができたらいいね」って言ってくれて。そうは言っても、数年後かなって思っていた矢先に、一緒に仕事することになって。こんな早くていいの! って思いましたけど(笑)、同時に誰かに言うことは大事だなって、改めて感じました。私の場合、最初にりらに自分の夢を話した時もそうだし、社長さんに「いつかこの子と仕事がしたいです」っていう話をしたこともそう。誰かに話すことがきっかけで動き出すなってことを改めて実感しました。

ーー ikuraさんは撮影現場にも足を運んだそうですね。

ikura 】 ずっと、彼女がどういうお仕事をしてて、どんなことで悩んでるかは聞いていましたが、現場でお仕事をしている姿を見たのは初めてでした。真剣に取り組んでる姿や、お仕事の顔を直近で見ることが出来て嬉しかったですね。お互いに一番頑張ってることは夢を追うことなので、その一番頑張ってる姿を、話だけじゃなくて、目で見れて、感じられたことがすごく嬉しかったです。結構、うるうるしてました。

【 小野 】 りらが来るって聞いたときは、保護者会みたいな感じがしました(笑)。すごく近くにいる存在だからこそ、変な緊張があって。でも、だからこそ、力みたくないというか、リラックスした状態でいつも通りやりたいなって思って取り組んだんですけど……やっぱり緊張はしましたね。

ーー 完成した映像を見てどう感じましたか。

ikura 】 本当に親バカみたいな感想になってしまいそうなんですけど(笑)、最初の(小野が)寝てるシーンから私はもう胸にきていて。今までも、彼女が出ている映画を観に行って、スクリーンに映っている彼女を見たことはあったんですけど、それが自分の関わってる作品っていう入り口だけで感動してしまって。映画も、「たぶん」という楽曲と小説の世界観がすごくリンクしていて素晴らしいなと思いました。役者さんたちも偽りがないというか、作った感じがなくて本当に自然だった。ありふれた生活感とかカップルのお別れの儚さとか、「たぶん」という言葉の曖昧さとか。小説、楽曲、映画、全てがまるで1つの作品のような空気感や温度感、色味を感じられて。1つ1つのセリフも小説や楽曲から引っ張ってきている部分があって。個人的には、楽曲の中でも<悪いのはどっちだっけ/たぶん>とか、セリフっぽく歌うところがあるので、小野莉奈ちゃんが「たぶん」って言った時に、同じセリフを言っている! と思って。女優と歌手っていう立場の違いはありますけど、同じセリフを言っているっていう感動がすごかったです。

【 小野 】 ネタバレになっちゃうから詳しくは言えないんですけど、その「たぶん」というセリフだけじゃなく、ラストのシーンから曲が重なるところで、最後、つながった感じがして。

ikura 】 それは私も思った!

【 小野 】 あのラストのシーンが感動的でした。

ーー ikuraさんが歌う<さよならだ>というフレーズからの小野さん演じるカノンの行動はぜひ劇場で確認して欲しいなと思いますが、まさに二人の1つの夢が叶った瞬間ですよね。

ikura 】 そうですね。でも、個人的には、幾田りらのソロの活動もあるので、いつか幾田りらとしても女優・小野梨奈と一緒に仕事が出来たら、もう一段階、素敵な夢だなって思いますね。

【 小野 】 りらちゃんは本当に真っ直ぐないい曲を描くんです! 世界に広まったらいいなって思いますし、私もいつか自分が出演する作品で主題歌を歌ってもらいたいなと思っています。

ikura 】 歌手としても、まだまだ夢の途中なので、もっともっと上に行けるように、その先でまた共演することが出来たら理想的だなって思います。

【 小野 】 お互い頑張りたいね。まだまだ目標を叶えていきたいよね。

ーー では、最後にお互いに向けてエールを送り合っていただけますか。

ikura 】 私は身内みたいなものなので、そういうフィルターはあるかもしれないですけど、最初に「女優さんをやりたい」って言った時から、目の色が違うなって思っていて。すっごい、やる気と根性がある人なんですよ。

【 小野 】 ……泣けちゃう。ちょっと泣いちゃうかも。ダメなんですよ、こういうの。

ikura 】 ふふふ。フラームさんのオーディションに合格して、一人暮らしになった時に、事務所の社長さんに「私は売れるまで帰りません!」って言ったって聞いたんです。すごい根性があるなって思って。そう思うことはできても、会社の人に面と向かって言うことって、本当に勇気がある行動だし、それは実現させるっていう思いが強いからこそできることだと思うんです。私は、小野莉奈は絶対にうまくいくと信じているので、これからも何かあれば言ってください。私もまた一緒にお仕事できるように頑張り続けないといけないなって思ってます。

【 小野 】 本当に私がまだ何も始めてない時から自分以上に私を信じてくれる存在だったし、その存在はやっぱり大きかったなって思います。そんな風に自信を持って、自分のことを大丈夫って言ってくれる子がいるなら、大丈夫かな、大丈夫かもって、気持ちの支えになってました。だから、私が支えてもらうことが多いんですけど……いつまでもそういう存在でいてください。

ikura 】 あはははは。逆のことを言うのかなと思った。「これからは私が支えます」って。

【 小野 】 ふふふ。私を支えてください!(笑) 

ikura 】 自由奔放ですよね。こういうところが好きなんです(笑)。

【 小野 】 私は自分のことに必死で、あまり相談にのれてないかなって思うんですけど、自分が頑張ってる姿を見て、彼女にいい影響を与えられたらいいなと思っていて。私が頑張る姿を見て、頑張ってください。……っていう特殊な支え方です(笑)。

ikura 】 (笑)。りっちゃんも私の悩みを聞いてくれたり、アドバイスをくれますが、やっぱり彼女が連ドラで頑張ってる時は、私自身、すごくメラメラできたんですよ。だから、そういう意味では、彼女が頑張ってる姿を見ることが一番頑張れるのかもしれないですね。お互いがお互いの仕事で頑張りながらも、重なり合える瞬間はきっとどっかにあると思うので、その時までお互いに頑張っていられたらいいなと思いますね。

(c)ソニー・ミュージックエンタテインメント

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掲載:M-ON! Press