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インディアナポリスで示した高い性能

text:Martin Buckleyマーティン・バックリー)
photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
ライカミング製V8エンジンを搭載するコード810。ユニットは当初から、スーパーチャージャーに対応する設計になっていた。4.5psiの過給圧で、172psの最高出力を獲得した。

最高速は160km/h以上で、パンフレットにも堂々と記載。太い低速トルクで、1000rpm程度でも40km/hでの走行が可能だった。

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コード810 ビバリー(1935年1937年

若き実業家で、複数の自動車ブランドを経営するエレット・コードは、タイムズ誌の表紙を飾るほどだったが、取締役会はプロジェクトに異議を唱えた。1936年が終わる頃には、エレットの自動車への情熱も冷めていた。

彼は、ラジオとテレビ業界で新ビジネスをスタートさせるため、カリフォルニア州へ移住。コード・コーポレーションの持ち株の、ほとんどを売却してしまう。

残されたコード810はマイナーチェンジを受け、1937年に812へ進化。1936年に売れ残っていた150台も、812シリーズに改められた。

同時に3454mmのホイールベースを持つ、カスタム・ビバリーとカスタム・ベルリンという仕様を追加。リアシートの空間が広げられ、トランクリッドも後ろへ伸ばされた。

インディアナポリスボンネビルでは、性能の高さも証明。アメリカ製のストックカーとしてコードが打ち立てた、24時間の平均速度162.5km/hという記録は、17年間も破られることがなかった。

しかし、コード・ブランドは存続できなかった。オーバーン工場での自動車製造は打ち切られ、残っていたコード812は、ディーラーが安価に買い取った。工場でキッチン・キャビネットの製造が始まると、コード用のボディ製造機械も売りに出された。

ボディの成形型は日本に流れたという噂

今はなき自動車メーカー、アメリカのグラハム・ペイジ社とハップモビル社は、協力してコードの後継モデルを計画する。ハップモビル社がボディの成形型を取得したものの、単独では資金が足りず、グラハム・ペイジ社も製造することで合意した。

どちらのクルマも、技術的にはトラディショナル。直列6気筒エンジンに後輪駆動という組み合わせで、フロントグリルは一般的なデザインが与えられた。ヘッドライトも固定式とされた。

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コード810 ビバリー(1935年1937年

ハップモビル・スカイラークと、グラハム・ハリウッドとして発売されると、一定の関心は集めた。しかし、利益を上げるのは難しいと判断され、翌年に2台とも姿を消してしまう。

噂では、ボディの成形型は日本へ流れ、1960年代まで生き残っていらしい。今日でも、生産ラインの60%以上は現存すると考えられている。コード810の価値が、早い段階から認められていた証拠といえるだろう。

コード810は、数台が英国にも輸入された。スーパーチャージャー版で、995ポンドという驚くほどの安価だった。今日、スーパーチャージャー付き2シーターのスポーツマン・コンバーチブルなら、25万ポンド(3375万円)はくだらない。

4ドアサルーンの方は、まだ落ち着いている。ダニー・ドノバンのコレクション、1937年式コード810ビバリー・セダンは、6万9950ポンド(944万円)という希望価格が付いている。

エキゾチックな容姿で高い注目を集めることを考えれば、理解できる値段だといえる。ニュージーランドレストアを受け、今でも輝きは失っていない。

ソファーのようなシートに柔軟なV8

ボディサイズは大きいが、威圧感は少ない。ヘッドライトのないフロントエンドに、コフィン・ノーズ、背の高いルーフラインは、少し不気味にも見える。

リアヒンジのスーイサイド・ドアを開き、上品なブルーのシートに腰を下ろす。着座位置は、この頃のクルマにしては低い。

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ゆったりとした肘掛け付きのソファーが2脚、フロントに並ぶ。ダッシュボードの造形も見事。贅沢な旅を予感させる。

フロントガラスは、左右分割式。換気のために開くことができる。視界はあまり良くない。太いピラーと、楕円形のリアウインドウも、多くの死角を生んでいる。

ステアリングホイールには、クラクションを鳴らせるホーンリングが付く。ダッシュボード中央の多くのスイッチ類は、航空機のコンソールに影響を受けている。

ヘッドライトの回転スイッチは、ダッシュボード下。反時計回りに回すと、約5秒で目を開く。

クラッチペダルを床に踏み込むと、エンジンに火が付く。1速から2速へ、まっすぐスライドさせる。次にクラッチペダルを踏み込んだタイミングで、変速が行われる。

変速を急いではいけない。ハンドブレーキのかわりに、ギアを入れっぱなしにもできない。しかし、普通に運転している限りは、良く機能する。

落ち着いた質感のV8エンジンは、積極的にシフトアップしたくなる。目立った特徴はないものの、滑らかでフレキシブル。第二次大戦以前の英国では難しかったが、オーバードライブに入れて、快適なオープンロードでのクルージングが楽しめるだろう。

先進的でありながら未完成だった

オースチン・セブンやモーリスエイトのドライバーは、流線型の低いボディを見て、どう感じただろうか。

1930年代の北米でも、州をまたぐ高速道路の整備はこれから。しかし、新しい道路環境に対応できる余力が、コードにはあった。当時の多くのドライバーが知ることのなかった、安定性と落ち着いた走りを、すでに獲得していた。

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コード810 ビバリー(1935年1937年

乗り心地は硬めだが、豪奢で肉厚なシート・クッションが丸めてくれる。現代のスポーツ・サルーンと呼ぶような素性を、自然に生み出している。

コーナリング時のロールは小さく、力強く前輪がボディを引っ張ってくれる。加速時でも、ステアリングホイールを握る指先には、手応えが伝わってくる。

素晴らしいクルマだ。しかし、コード810は先進的でありながらも、未完成だった。

カリスマ性を備えていても、多くの人々は高級車に、さらに大きなボディを期待していた。美しいスタイリングをまとい、高い技術的を備えていても、信頼性の悪さがすべてを否定してしまった。

仮にコード810に熟成期間があったのなら、もう少しの成功は得られたかもしれない。でも、均質化が進む1940年代から1950年代のアメリカ自動車産業の中で、コードらしさを長く保てたとも考えられない。

それゆえにコード810には価値があり、特別なのだ。

コード810 ビバリー(1935年〜1937年)のスペック

価格:新車時 2545ドル/現在 7万ポンド(945万円)以下
生産台数:1174台(812は1146台)
全長:4953mm
全幅:1803mm
全高:1524mm
最高速度:157km/h
0-97km/h加速:20.1秒
燃費:24.1km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1685kg
パワートレインV型8気筒4729cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:126ps/3500rpm
最大トルク:30.7kg-m/1700rpm
ギアボックス:4速セミ・オートマティック


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