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クラウン、そんなに売れていない?

text:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)

先だって「クラウンセダン生産終了で調整 トヨタ、22年に新型投入」との驚きのニュースが、トヨタのお膝元である中日新聞から発せられた。正確に言えば、クラウンそのものがなくなるのではなく、「セダンではなく、スポーツタイプ多目的車(SUV)に似た車形の新型車として2022年に投入する方向」と言う内容だ。セダンではなくSUVに似た車形、つまりはクロスオーバーになるということだろう。

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ここで気になるのは、現行のクラウンは、それほどまでに売れていないのだろうか。歴代モデルと比較して、その売れ行きの是非を考察してみたい。

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現行型クラウン。本年(2020年)1~6月は1万1826台。コロナ禍と言うことを考えれば、半年で前年の3分の1を達成したという数字は、それほど落ち込んだとは言えないだろう。    トヨタ

まず、現行型クラウンの登場は、2018年6月。ほんの2年ほど前のことだ。発売後1か月で約3万台の受注を獲得。「月販目標(4500台)の約7倍の好調の立ち上がり」とトヨタは発表している。

そして、2018年を通しての販売台数は5万324台。先代モデルを発売していた2018年1~6月の販売が1万2344台だったことを考えると、新型が登場してからの年の後半で3万7980台を売ったことになる。

前半戦の2倍以上で、1か月あたりでは約6300台。4500台という月販目標をクリアしている。

そして、翌2019年の販売は3万6125台。1か月あたりは約3000台で、残念ながら当初の月販目標を、さっそく下回ってしまった。

しかし、本年(2020年)1~6月は1万1826台。コロナ禍と言うことを考えれば、半年で前年の3分の1を達成したという数字は、それほど落ち込んだとは言えないだろう。

各世代 販売台数を振り返ってみた

2020年前半戦の売り上げの数字を見る限り、2020年を通しての現行クラウンの販売は、3万台を超えることは難しいのではないだろうか。

下手をすると過去最悪の数字になるかもしれない。

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マイナーチェンジを果たしたばかりの15代目トヨタ・クラウン。    トヨタ

しかし、今年は、コロナ禍という特別な理由がある。今年だけの数字で判断するのは、早計だろう。

では、昨年のデビュー翌年で年間約3万6000台という数字は、過去のモデルと比較するとどうなのであろうか。

そこで過去30年ほど遡り、6世代分のクラウンのデビュー翌年の年間販売台数をチェックしてみた。それが次の数字だ。

1991年登場の9代目クラウン 1992年の年間販売台数

15万5744台

1995年登場の10代目クラウン 1996年の年間販売台数

13万7676台

1999年登場の11代目クラウン 2000年の年間販売台数

10万1000台

2003年登場の12代目クラウン 2004年の年間販売台数

11万6614台

2008年登場の13代目クラウン 2009年の年間販売台数

4万0216

2012年登場の14代目クラウン 2013年の年間販売台数

8万2701台

残念ながら世代を重ねるごとに販売台数が落ちているのが、クラウンの置かれている状況だ。

ちなみに数字を挽回している12代目は通称「ゼロクラウン」と呼ばれるモデルで、先代の14代目は大胆なグリルデザインとピンクのボディカラーが話題になったモデルだ。

そして、過去30年、6世代の歴史を振り返れば、デビュー2年目で3万6000台という現行モデルの数字は、残念ながら30年中最悪となっているのだ。

年間販売 最も少なかったモデルは

では、現行のクラウンの売れ行きは、過去最悪であろうかというと、意外や、そうではないともいえる。

実は、クラウンは過去に何度も年間販売台数3万台以下という残念な数字を残しているのだ。

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トヨタ・クラウン(13代目)    トヨタ

それが先々代13代目の2011年の2万9927台、2012年の2万9963台、そして先代14代目の2017年の2万9085台。

つまり、先々代から常にモデルライフ終盤になると、年間で3万台以下にまで販売台数が下がってしまっていたのだ。

ちなみに、過去30年で最も売れていないのが先々代=13代モデルで、発売翌年と3年目が約4万台、4年目と5年目は約2万9000台という成績。

現行モデルは、デビュー年が約5万台、2年目で約3万6000台、そしてコロナの本年では、間違いなく3万台を切るだろう。

そういう意味では、過去最悪になる可能性は非常に高い。

そして、過去30年を振り返れば、クラウンというモデルは、年間の販売台数を15万台から3万台以下にまで落としてしまったのだ。

現行クラウンは「失敗作」なのか?

2018年に登場した現行モデルは、「革新と挑戦」を謳い、ユーザーの若返りを狙っていた。

それも当然のこと。オーナーの平均年齢は、世代を重ねるごとに、どんどんと高まっており、現行モデル登場の直前は、70歳を超えていたという。いくらなんでも高齢すぎる。

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2018年に登場した現行クラウンのセンターコンソール上スクリーン。    トヨタ

若返りを狙って「初代コネクテッドカー」とまで名乗った。70歳を超える人に、コネクテッドといっても心を寄せられるはずがない。新たな若いユーザーを目指したというわけだ。

しかし、デビューしてから、これまでの2年で販売台数を挽回することに失敗。それが、今回の「生産終了」報道につながったのだろう。

だが、報道された内容は2つの側面がある。

1つは「古き良きセダンクラウンが終わる。残念無念」というもの。

そして、「人気の車形になって名前を残し、未来のヒット車を目指す」という、もう1つのポジティブな見方もある。

実は、セダンからSUVになって大成功を納めたモデルが存在する。

セダン→SUV 方向転換で大成功

セダンからSUVになって大成功を納めたモデル、それがキャデラックだ。

かつてはラグジュアリーセダンの象徴的存在であったキャデラックだが、1990年代になると人気に陰りが見え始める。

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キャデラック・エスカレード(2020年型)    キャデラック

そこで登場したのがSUVキャデラックとなるエスカレードだった。エスカレードはゴージャスなクルマとして大人気になり、キャデラックの名声を取り戻すことに成功している。

トヨタほどビジネスが上手で、しかも抜け目ないメーカーであれば、クラウンという歴史ある名前を簡単に手放すとは考えづらい。

本気で、SUVとしてクラウンをヒット車に復活させることを考えているはずだ。

セダンという慣れ親しんだものが消えてしまうのは悲しいけれど、しかし一方で、新しくなるのが挑戦である。

そしてクラウンは、挑戦するクルマでもある。2022年に登場する「SUVに似た車形」のクラウンに期待しよう。


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