各国におけるAI開発に向けた競争は熾烈になっている。ロシアウラジーミル・プーチン大統領は「AIを制する者が世界を制する」とまで発言している。

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 このような状況で、トップを走るのは米国だが、中国も国家を挙げてAIの開発に邁進し、着実に成果を上げている。

 その背景には、習近平主席が宣言した「2030にAI世界一を目指す」という野望がある。

 中国で注目されるのは、AIを軍事のあらゆる分野に応用して、「AIによる軍事革命」を実現しようとしている点だ。

 筆者は「自衛隊は中国人民解放軍に敗北する!?」(扶桑社新書)を上梓した。その中で、AIの軍事利用の優劣が将来戦の趨勢を決定すると指摘した。

 そして、この分野で米軍や人民解放軍に大幅に出遅れている自衛隊に奮起を促した。

AIの軍事利用分野

 AIの軍事利用が世界的な潮流になっている。軍隊のすべての業務は、AIにより業務の効率化・省人化などの効果が期待できる。

 AIの有事における軍事適用については、米軍がこの分野でトップを走っているが、中国人民解放軍も米軍に肉薄している。

 中国は、①AIを将来の最優先技術と位置づけ、「2030年までにAIで世界をリードする」と宣言し、②習近平主席が重視する「軍民融合」(軍と民の技術の融合)により、民間のAI技術を軍事利用して「AI軍事革命」を目指し、③とくにAIと無人機システム(無人のロボットやドローンなど)の融合を重視し、これにより戦争の様相は激変すると信じている。

 一般的に、AIの軍事適用の分野は人事、情報、作戦・運用、兵站、衛生などの「あらゆる分野」であり、まとめると以下のようになる。

・AIを無人機システムに搭載することにより、兵器の知能化(自律化)を実現する。例えば、AIドローン、AI水上艦艇、AI無人潜水艇、AIロボットなどだ。

サイバー戦における防御、攻撃、情報収集のすべての分野で、AIが活用できる。

電磁波戦における電磁波の収集、分析・評価、周波数配当にAIを活用できる。

・情報活動分野、例えば、AIによるデータ融合、情報処理、情報分析だ。とくにAI自動翻訳機が日米共同作戦や国際情勢分析に大きな影響を与えるであろう。

・目標確認、状況認識の分野でAIを適用できる。例えば顔認証、海洋状況認識(MSA:Maritime Situational Awareness)、宇宙状況認識(SSA:Space Situational Awareness)だ。

ウォーゲーム、戦闘シミュレーション、教育・訓練の分野にAIを活用できる。

・指揮・意思決定、戦場管理の分野にAIを活用できる。

・兵站および輸送分野でも活用可能だ。例えば、AIによる補給、整備、輸送などの最適な兵站計画の作成などだ。

・戦場における医療活動、体と心の健康の分野も活用可能だ。意外にも、AIがカウンセラーを代用する案は有望だ。

フェイクニュースなどの影響工作に対処するためにAIは有効だ。

 以上のようなAIの軍事利用は、米中に限らず日本にも当てはまる普遍的なものだと思う。

「有人機と無人機チーム」による作戦

 AIの軍事利用では米国が世界の最先端を走り、中国が米国の動向を注視し、米国のやり方を模倣する確率は高い。

モザイク作戦

 自律型ドローンは今後ますます進化すると、有人のシステムと無人のシステムが連携して戦闘チームを編成し、任務を遂行する作戦が重要になる。

「有人と無人のチーム」の作戦については、DARPA(米国国防高等研究計画局、Defense Advanced Research Projects Agency)の「モザイク作戦(Mosaic Operation)」に注目したい。

 無人のシステムである自律型無人機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)が有人機(例えば「F-35」や「F-15」)の前方や側方を飛び、様々な任務(情報収集、警戒監視、電子戦、攻撃など)をこなして有人機の作戦を支援する。

 人間のパイロットは、UAVから送られてくる情報に基づき、UAVに新たな任務を付与したり、自らの行動を決定していく。

 UAVは、その任務をどう達成するかについて、あらかじめ定められた行動の選択肢の中から最適の選択肢を自ら決定し、予期せぬ脅威やチャンスに対応することもできる。

図1「モザイク作戦の一例」

●米空軍の「スカイボーグ」計画

 このDARPAモザイク作戦を受けて、米空軍は「スカイボーグ」計画を推進している。

 スカイボーグは、①UAVに搭載するAIを指す言葉として使われたり、②AIを搭載した自律型無人機を指す言葉として使われることがある。ここでは、自律型無人機としてのスカイボーグの意味で使うことにする。

 米空軍はスカイボーグと有人航空機との統合を検討している。

 スカイボーグが低コストで使い捨ての航空機と統合されていれば、パイロットは敵が満ちて混雑した空域にそれを送り込み、危険を回避することができる。

 AIは、人間のパイロットよりも迅速に脅威に対応できる場合もある。

 スカイボーグのコンセプトは、有人機(例えばF-35)に対して、忠実なウィングマン(僚機)の役割を果たすように設計されており、オーストラリア空軍と共同で開発されている。

 スカイボーグは、完全な消耗品ではなく再利用するが、厳しい環境下での運用にともなう損失を予期し許容しているシステムだ。

 スカイボーグの候補としては、クラトス社(Kratos Defense & Security Solutions)のステルスUAVである「XQ-58A ヴァルキリーValkyrie)」で、2020年7月にスカイボーグ計画のUAV機体部分の契約を獲得した。

ヴァルキリー」は、F-35の半分くらいの大きさで、一機200万~300万ドル(約2億から3億円)で、F-35の約1億ドル(約100億円)と比較するとはるかに安価だ。

 2019年3月に初飛行に成功してから4回連続試験飛行に成功している。

図2「XQ-58A ヴァルキリー

●自律型無人機の長所

 自律型無人機は、空中・地上・海中のいずれにおいても、有人機を凌駕する利点を提供する場合がある。スタッフの人件費を節約し、しばしば人間よりも大胆で粘り強い。

 彼らは、疲れないし、恐怖を感じないし、飽きないし、怒りもしない。彼らは、有人機よりも安く、小さい。

 なぜならば、敵の攻撃から人を防護する必要がないからだ。しかもより多くの数をより危険な状況で運用可能だ。

 自律型UAVは、様々な任務(偵察や攻撃など)を遂行できるようになり、(現代戦には)不可欠な存在になっている。

 とくにステルスUAVは、最新の防空網を突破する槍の役目を果たし、あるUAVは、敵が現れるのを上空で待つようにデザインされている。

 自律型のレーダー攻撃用ドローンは、数時間空中を飛行でき、敵の防空レーダーが作動し電波が出た瞬間を狙って攻撃する。

 また、自律型高高度UAVは、衛星が破壊されたときのバックアップデータリンクまたは敵のミサイルに対する固体レーザーの母機として研究されている。

 大型のUAVは、空中給油機や輸送機として使用される。ヴァルキリーも一時空中給油機としても実験されていた。

●その他の無人システムへのAIの搭載

 無人水中ビークル(UUV)は、様々な困難で危険な任務、例えば機雷の除去、敵海岸近くにおける機雷の敷設などから、係争海域における対潜水艦センサーネットワークからデータを収集したり、アクティブソナーを装備してパトロールしたり、攻撃原潜よりもはるかに安価に自らがミサイルの発射母機になったりする。

 これらの開発は技術的な困難さはあるが、開発が加速している。

 また、自律型のロボットは、電子機器やスケルトン(外殻)を装着することで機械的な強さや防護力を付与され、特殊作戦部隊とともに行動することも考えられる。

 戦争の形態における最大の変化は、多くの無人機を同時に運用することから起きる。

 UAVのスウォーム(大群)は、軍事作戦に劇的で破壊的な変化を起こすだろう。スウォームは、大量、共同調整、知能化、スピードの特性をもたらす。

 UAVスウォーム制御技術は、米国の大きな問題を解決すると期待されている。

 米軍は、非常に能力がある反面、非常に高価で、多任務を遂行し、紛争時に失うと代替が効かない母機に依存している。

 例えば、F-35は1機で1億ドル以上、原子力潜水艦は27億ドル、フォード級空母は搭載航空機も含めると200億ドルだ。UAVスウォームは、これらの母機を代替できる可能性がある。

 米国には「低コストUAVスウォーム技術」計画があり、あたかも対空砲が何百発もの弾丸を発射するかのように、一つの筒から空中にドローンを迅速に放出する。また輸送機などから空中放出するスウォームもある。

2030年までにAIで世界をリードする中国

 中国は、AIを米中覇権争いにおける最優先技術に指定し、2017年7月に「新世代のAI開発計画」を発表した。

 その中で「中国は、2030年までにAIで世界をリードする」という野心的な目標を設定した。

 習近平主席は、「AI技術で先頭に立つことは、グローバルな軍事力・経済力の競争において不可欠だ」「中国がAI技術において世界的なリーダーとなることを追求すべきであり、外国技術の輸入に依存すべきではない」と主張しているが、適切な認識だ。

 中国は、「AIは米中二大国間における競争だ」と認識し、国家ぐるみで米国に勝利しようと努力し、米国との差を大幅に縮めてきた。

 中国は、すでに米国に次ぐAI先進国であり、中国のAI投資額は米国を凌駕し世界1位、AIの特許出願数において米国に次ぐ2位であり、AIに関する論文数では米国を上回っている。

 中国は、多額のAI予算の投入、自由にアクセスできるビッグデータの存在、最も優秀な人材を集め教育する能力などにより、AI分野で米国を追い越す勢いであり、米国は手強いライバルと対峙することになる。

 中国は、AIの軍事利用に関連して、「AIは米国に対する軍事的優越を提供する。ビッグデータの活用や軍民融合戦略の観点から、中国はAI開発を軍事利用することに関して、米国より有利である」と認識している。

 中国におけるAIの軍事適用の分野は人事、情報、作戦・運用、兵站(補給、整備、輸送)、C4ISRなどの「あらゆる分野」である。

 AIは今後の米中の軍事および戦略関係に大きな影響を及ぼすことになる。とくに中国のAIと自律化(autonomy)への取り組みは、将来のAIによる軍事革命に大きな影響を及ぼす。

 中国は既に(AIを搭載した)武装自律無人航空機と監視AIを諸外国に輸出している。

●最終的な姿はAIによる無人の戦場?

 中国では、AIが戦争を情報化戦争(Informatized Warfare)(戦争の本質を情報ととらえた表現)から知能化戦争(Intelligentized Warfare)(戦争の本質をAIによる知能化ととらえた表現)へシフトさせると確信している。

 AIは戦場における指揮官の状況判断を手助けでき、中央軍事委員会の連合参謀部は、軍に対して指揮官の指揮統制能力を向上させるためにAIを使うように指導している。

 AIはまた、ウォーゲーム、シミュレーション、訓練・演習の質を向上させる。これは、実戦経験のない人民解放軍にとって非常に重要な意味を持つ。

 中国の専門家は、AIと無人機システム(無人のドローン・水上艦艇・潜水艦・ロボットなど)が普及すると、「戦場におけるシンギュラリティ」が到来すると予想している。

 このシンギュラリティに達すると、人間の頭脳ではAIが可能にする戦闘における決心のスピードに追随できなくなる可能性がある。

 そのため、軍隊は人を戦場から解放し、彼らに監督の役割を担当させ、無人機システムに戦いの大部分を任せることができるようになる。つまり、戦場の無人化だ。

自衛隊のあらゆる業務にAIを適用すべき

 自衛隊は、米中に比較するとAIの軍事利用が大きく遅れている。このままの状況が継続すると、人民解放軍の知能化戦争に敗北する可能性がある。

 まず、平時における自衛隊のすべての業務にAIが適用でき、AI化により平素の業務の効率化・省人化を図るべきだ。

 平素の業務のAI化により、自衛隊員がAIに慣れ、AIの開発に必要なデータの重要性を学ぶことから始めるべきだ。

 つまり、AIをめぐるボトムアップのアプローチだ。

 本来ならばトップダウンのアプローチも不可欠だ。そのためには、防衛省のAI研究所を設立し、AI戦略を確立すべきだが、その機運は見当たらない。

 米軍は、各軍がAI研究機関を持っているし、中国人民解放軍は少なくとも2つのAI研究所を持っている。

 防衛省にAIの研究所がないということは致命的だ。この状況においてとりあえずボトムアップのAIの業務への適用を進めるべきだと思う。

 そして、平素の業務へのAIの利用と同時並行的に無人機や有人機プラットフォーム(陸車両、海の水上艦艇・潜水艦、空の航空機)へのAI利用を行うべきだろう。

 米軍も人民解放軍もこのプラットフォームへのAI搭載をどんどん進めている。

 そして、米国の例で紹介した「スカイボーグ」のような有人機と無人機の連携による作戦を空のドメインだけではなく、陸・海・宇宙・サイバー電磁波というすべてのドメインで遂行できるようにすべきだ。

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