圧倒的な存在感、深みのある演技で観客を魅了し、ドラマ今日から俺は!!」や「この恋あたためますか」でお茶の間での知名度も広げるなど、“いま最も目が離せない俳優”となった仲野太賀。そんな彼が「この映画に参加して、俳優としての覚悟が完全に決まった」と語るのが、大人になれない青年のもがきを体現した主演映画『泣く子はいねぇが』(11月20日公開)だ。監督、脚本、編集を務めたのは、本作で待望の劇場長編デビューを果たす佐藤快磨。2人が「奇跡のような現場だった」という撮影の裏側を明かすと共に、快進撃の続く仲野が俳優業への熱い想いを語った。

【写真を見る】キリリとした眼差しで俳優業への想いを明かした仲野太賀

娘が生まれたものの、親になることからも、大人になることからも逃げてしまった主人公のたすく(仲野)が、過去のあやまちと向き合い、不器用ながらも青年から大人へと成長する姿を描く本作。佐藤監督が、自らが生まれ育った秋田県男鹿市の伝統文化“男鹿のナマハゲ”から着想を得て、約5年をかけてオリジナル脚本を完成させた。仲野と佐藤監督のタッグは、次世代を担う映画監督の発掘と育成を目指す文化庁による「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト 2015」における『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』以来、二度目のこととなる。

■「自分にしか撮れないものを」(佐藤監督)「これは、僕にしかできない役」(仲野)

本作で“父親になること”に戸惑う主人公を描いた佐藤監督だが、そこには自身の想いも投影されているという。

20代後半になって、同級生が父親になっていくことも増えて。自分も当たり前に父親になるものだと思っていたんですが、考えていた未来から遠ざかっていく感覚もあります。『自分は父親になれるのだろうか』と悶々としている僕が、父性をめぐる物語をつくった時に、なにか新しいものができるのではないかと思いました。脚本を書いている時は、たすくと一緒に父性を探しているような気持ちでした」と語る佐藤監督。

また「秋田を舞台にした『ガンバレとかうるせぇ』という自主映画を撮って、釜山国際映画祭に呼んでいただいたことがあって。その時に(当時の釜山国際映画祭エグゼクティブプログラマーの)キム・ジソクさんが、『あなたにしか撮れないものが映っていたから選びました。胸を張ってください』と言ってくださった」そうで、「それからは、『自分にしか撮れないものを』という想いで、映画づくりに臨んでいます」と意気込みを吐露する。

「すばらしい脚本だと思った」という仲野は、主人公たすくに「とても共感ができた」と話す。27歳の仲野にとって等身大のキャラクターだったようで、「僕も20代になってから、『なんでもっと大人らしく振る舞えないんだろう』とモヤモヤしている時期があって。なんならいまでも、“思い描いている大人”と“自分自身”との間にはジレンマがあって。10代のままの気持ちが、自分のなかにまだ図太く横たわっている感覚があるんです」と告白。

「脚本を読んだ時に、きっとたすくもそうだったんだと確信しました。父親になる覚悟ができないまま、父親になってしまった男で、妻のことね(吉岡里帆)からの期待にも追いつくことができなかった。この映画ならば、等身大の僕をいかんなく発揮することができると思った。これは僕にしかできない役だとさえ思いました」と、たすくに心を寄せる。

■「監督と俳優とのやり取りとして、健全でまっとうな伝達ができた」(仲野)

クランクインは2020年1月。約2か月の撮影期間において、仲野も佐藤監督も、お互いに相性のよさを実感したと話す。

仲野は「たくさんディスカッションをしました。吉岡さんからは、僕と監督が『イチャイチャしているみたいに見えた』と言われて」とニッコリ。「僕らは真面目に意見を交換していたんですが、そういう風に見えたみたいですね。佐藤監督とは、“補い合える関係”だったと思います。監督の演出は抽象的でもあり、でもその言葉を咀嚼して、具体的にしていく作業が、僕にとってはものすごく居心地が良くて。監督と俳優とのやり取りとしては、とても健全でまっとうな伝達ができた気がしています」と充実の表情を見せる。

佐藤監督は「僕は『ここの感情はこうです』『こう動いてください』などこちらから指定して演じてもらうお芝居よりも、もっと揺れているものを撮りたいし、役者さんの思っているものも大事にしたいと感じていて。僕の曖昧な演出って、俳優さんによっては『もっとはっきり言ってほしい』という人もいると思うんです。でも太賀くんは、100パーセント理解して、向き合って、真正面からぶつかってきてくれた」と仲野に感謝しきり。

また、若手中心のスタッフが集った撮影現場は、活気あふれるものだったと声を揃える。脚本に惚れ込んだ是枝裕和が企画として参加しているが、佐藤監督は「自主映画を撮っていた僕が、オリジナル脚本で商業映画デビューをできたのは、是枝さんに背中を押していただいたから」としみじみ。ただ「是枝さんに甘えてはいけない」という想いもあったそうで、「自分たちで作り上げたという実感があります。それを是枝さんがしっかりと見守ってくださった。そういった環境での映画づくりは、なかなか体験できるものではありません。本当に幸運です」と喜びを噛み締める。

■「太賀くんのお芝居に心震えた」(佐藤監督)「公開作が続いてハラハラもするけれど…」(仲野)

佐藤監督は、脚本を書く当初から、たすく役には仲野をイメージしていたという。佐藤監督にとって、仲野の俳優としての魅力とは?

佐藤監督は「役者としても人間としても信頼できる人」と口火を切り、「表現の幅がとても広い」と分析。「太賀くんは演じるキャラクターの濃淡を、役に寄り添ったまま、繊細に表現できる。たすくというキャラクターは、口ではカッコいいことを言っていながらも、それを行動に移す覚悟がなかったりと、自分自身のなかに曖昧さを抱えているところがあって。真面目に演じても、滑稽に演じても、どこかで破綻してしまう役。それを成立させることができたのは、太賀くんだからこそ」と全幅の信頼を寄せる。とりわけ佐藤監督が仲野の力量に驚いたのが、「ラストシーン」とのこと。「自分がつくった作品でこう言うのもなんなのですが、心震えるような想いがしました。僕自身、感動しながら撮ることができました」。

仲野は「最初に脚本を読んで、なによりもラストシーンがすばらしいと思った。このシーンがやりたくて、オファーを受けさせてもらったくらいです」と述懐。主人公の成長を表現した圧巻のラストシーンはぜひスクリーンで確認してほしいが、仲野はこう続ける。

「たすくの覚悟、娘への愛情など、いろいろなことが凝縮されているシーンで、どうやって彼の心の叫びを表現するかは、僕にとっても大きな挑戦でした。また全編を通して、たすくは“受け”の芝居をすることが多く、笑ったり、怒ったり、泣いたりという大きな感情表現ではなく、細かい機微を表すことが必要でした。たすくの心が見えるような表現とはどんなものだろうと、佐藤監督と一緒に模索したような気がしています」。

2020年は本作以外にも、『静かな雨』『生きちゃった』と主演映画が公開。仲野が愛すべきおバカ、今井役として参加している人気ドラマ劇場版今日から俺は!!劇場版』も大ヒットしたほか、放送中のドラマ「この恋あたためますか」では視聴者をキュンとさせる演技も披露している。まさに破竹の勢いで活躍中だが、仲野は「今年は、参加した映画やドラマ一気に公開、放送されるタイミングになった年でもあります。いつも『どうやって受け入れられるんだろう』って、ハラハラします」と微笑みつつ、「でもそれは、不安というものではないんです」とキッパリ。

その理由を聞いてみると、「『泣く子はいねぇが』は今年の3月に撮影が終わりました。コロナの影響で『今後どうなっていくんだ?』という心配が少しずつ映画界にも広がり始めていましたが、そんななかで本作を撮り切ることができたことが、僕にとってすごく大きな自信になったんです。そこで俳優としての覚悟が完全に決まった」と本作が俳優業の醍醐味を実感させてくれたからだそう。

「監督をはじめみんなとディスカッションして、もっといいものをと模索していた。そこで、僕にしかできないと思える役をつくり上げることができた。本当に奇跡のような現場で、こういう環境で映画づくりができたことは、僕の誇りです。今作を引っ提げて、胸を張りたい気持ちでいっぱいです」と情熱をあふれさせる。佐藤監督も「僕もこの現場を体験できたことは、これからの自分にとって支えになる。この現場がこれからの基準になる気もしています。みんなでつくったという、その熱がこの映画にきちんと映っていると思っています」と本作が宝物のような作品になったことを明かしていた。

取材・文/成田おり枝

仲野太賀、ブレイクの心境は?佐藤快磨監督と語り合う!/撮影/野崎航正