11月半ば、非常事態宣言下のバルセロナ中心部を歩いた。
現在、外国からスペインを訪れる人は少なく、国内移動も制限されている。観光客はおらず、目につくのは地元の買い物客くらいだ。本来ならクリスマスにむけて消費も活発になってくる時期だけに、どこか寂しい。
中心の大通り、グラシア通りを下っていく。ガウディ建築の代表作のひとつ、カサ・ミラの重厚な扉は閉じられていた。現在は週末と祝日だけの開館だという。通りをさらに下ると、右手に同じくガウディの作品であるカサ・バトリョが見えてくる。カラフルな建物にも人気はない。こちらは完全に休館中で、再開時期は未定。理由はより複雑だ。カサ・バトリョ館長のガリー・ゴーティエによると、契約する人材派遣会社との間で契約を巡るもめごとがあり、抗議するスタッフの一部から建物を破壊するという脅迫をうけたという。新型コロナウイルスがもたらした苦境は人の心をも蝕んでいるのかもしれない。
ちなみにサグラダ・ファミリアも現在は閉められている。10月末、「コロナにより客が少ないので」という悲しいプレスリリースとともに大聖堂は閉じられた。
街は過去とはまるで違う景色につつまれている。
スペイン、瀕死の飲食業界
レストランやバルが並ぶ、ランブラ・デ・カタルーニャ通りへさしかかる。いつもは賑わうテラス席、片隅にほこりをかぶったテーブルと椅子が寂しげに積まれていた。
いま、スペインでは飲食業界の危機が叫ばれている。
全土に非常事態宣言がでてから3週間が経った。感染者数を減らすため、最も厳しい規制を課した州のひとつがカタルーニャだ。中央政府から非常事態宣言が出される10日前に、思い切った厳格な対策に舵を切った。主なものは22時から朝6時までの夜間の外出禁止と全飲食店の閉鎖。飲食店は持ち帰りとデリバリーのみで、店内はおろか外のテラス席でも飲食はできない。飲食はこの規制により最も影響を受けた業界だった。
マドリードとバルセロナ、明暗分かれた飲食業界
興味深いのはスペインの二大都市、マドリードとバルセロナで大きく異なる規制が敷かれたことだ。マドリードは飲食店を閉鎖せず、店内での営業も認めたのだ。
実際にマドリードを歩いても街に悲壮感は漂っておらず、レストランも以前のように賑わっている。営業時間は短縮され店内の人数にも制限こそあるが、一見普段とは変わらないほどだ。変わったことといえば、外国人観光客の姿がみられないくらいだろうか。見慣れたバルの活気に日常を感じた。同じ国とは思えないほどだ。
マドリード市は飲食業界が被るであろう経済的打撃を考慮し、完全閉鎖の策を取らなかった。
両都市の異なる決断、この差に激怒しているのがバルセロナの飲食関係者たちだ。
「世界のベストレストラン50」の常連でもあるカタルーニャ州ジローナの『アル・サリェール・ダ・カン・ロカ』のシェフ、ジョアン・ロカは断言する。
「マドリードでは飲食店を閉めず、カタルーニャでは閉めた。それにも関わらず、コロナ関連の数字はマドリードよりもバルセロナの方が悪い。バルやレストランを閉める必要はないんだ」
カタルーニャでは飲食関係者の4万3000人以上が職を失ったとされている。スペインの中ではバレアレス諸島に次ぎ、コロナで最も影響を受けた州だ。元『エル・ブジ』の料理長フェラン・アドリアは「悲劇的な状況だ。ギリギリのところまで来ている」と悲観する。
地元紙ラバングアルディアが行ったアンケートでは67.98%が「飲食店への現規制に反対」と回答。スペインの二大都市は強烈なライバル関係にある。しかし少なくとも今はバルセロナ住民の多くがライバルのマドリードの施策の方を評価している。
“外飲み”容認の矛盾
11月に入りバルセロナでは感染者も微減となりつつある。現在のカタルーニャ州の1日の新規感染者数は2600人前後。集中治療室(ICU)の占有率は減っておらず、カタルーニャ全土で現在586人が集中治療室にいる。医療機関が理想とする300人まではまだ開きがある。今後も感染を防ぐ努力は必要だろう。マドリードのように飲食店を部分的に再開しながらその数を減らしていくことは可能なはずだ。
そもそも、スペイン人から友人や家族と楽しく飲み、食べる機会を奪うことなどできない。どれだけ規制しても、若者はテイクアウトで食べ物を、スーパーでビールやワインを買い、公園や広場に集まり地べたに座り飲み食いする。夕方のグラシア地区を歩くと広場にはそんな若者が大勢集っていた。途中、地面に座り酒を飲む人の集まりの横をパトカーが通りかかった。割って入って止めるかとおもいきや、警官は見向きもせずに去っていった。
けっして衛生的とは言えない地べたに大勢で座り込んでの飲食の方が、アルコール消毒され、距離と人数の保たれたレストランでの食事よりも明らかに感染の可能性は高いはず。事実、政府発表によると飲食店内での感染は感染全体のわずか3.5%と非常に少ない。
外食できずにストレスが溜まっているのだろう。若者たちはワイワイと楽しそうに座り込んで飲んでいた。宴はきっと夜まで続くのだろう。
「飲食業界は厳しい。とても」とフェラン・アドリアはいった。「最悪なのはこれからかもしれないが」
カタルーニャの17の市町村は州政府に飲食店を再開させるようにとする抗議文を送った。全土で、厳格すぎる規制への反対は高まっている。シェフたちの声が届いたのか、カタルーニャ州政府は11月23日より規制を段階的に緩和していくことを決定。ようやく店内での飲食も可能になるが、それでも総座席数の30%しか使用できないという。
今後、経営的に体力が続かなくなる店も出てくるだろう。コロナは落ち着き、規制はなくなったものの閉店――そんな店が出てこないことを願うのみだ。
[もっと知りたい!続けてお読みください →] 「放射能五輪」叫んだ韓国、今や「東京五輪利用論」
[関連記事]
コメント