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どんなクルマ?

text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)

世界ラリー選手権WRC)のトップカテゴリー(WRカー)への承認を受けるために開発されたモデルが、GRヤリスだ。

【画像】GRヤリス 全モデルを比べる【レース参戦用RCも】 全114枚

もちろん、WRカーはパワートレインや駆動システムも含めて大幅な設計変更が加えられるので、あくまでもベースモデルとしての開発である。

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GRヤリスRZハイパフォーマンス(プラチナホワイトパールマイカ)    前田恵介

と言えば、WRカーとは「中身は別物」となってしまうが、WRCだけがGRヤリスの目標ではない。日本ラリー選手権のトップカテゴリーへの参戦も前提とする。

ナンバー付き車両で争う国内ラリーでは大幅改造は不可。素の戦闘力が物を言う。国内ラリーを前提にすれば正に闘うために生まれたモデルなのだ。

大きく張り出したフェンダーを備えた専用3ドア・ボディに、272psの最高出力を生み出す専用開発の3気筒1.6Lターボを搭載。

サスはストラット/ダブルウイッシュボーンを採用するがヤリス用ではなく、前後とも上級クラス用をベースにしている。4WDシステムには多板クラッチ式の電子制御カップリング(ECC)を用いる。

ただし、価格面でエントリーに位置するRSは、ヤリスと同じくNA 1.5L/CVTを搭載したFFとなっている。

ターボ車は、RZ/RZハイパフォーマンス/RCの3モデル構成。全モデルともサスチューニングを違えるなど、各モデルのキャラに最適化した設計を採用している。

4WD トルク配分に注目

RZ/RZハイパフォーマンスに標準のECCによるトルクスプリット4WDは、今や4WDの標準的システムだが、GRヤリスは違っている。

トルク配分は最大で前輪30/後輪70まで制御。

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2名乗車にすれば、225/40R18サイズのタイヤ4本に加え、さらに積載スペースも確保できるトランク。    前田恵介

FFベースの4WDで後輪に多く配分するのは何とも不思議だが、その秘密は前後輪最終減速比。リアデフが約73%も速いのだ。

ECCの締結力が高まるほど後輪へのトルク配分が増加し、完全に締結する直前で後輪伝達トルク最大になる。

通常のECCとは異なり、完全締結状態にはならない。そのためカップリングとデフは容量に余裕のあるRAV4をベースとし、クラッチの枚数増加やフェーシングの変更などが加えられている。かなり斬新な設計だ。

試乗した印象では、一般的なECCの締結力を高い領域で制御しているような感じ。

RZ系のハンドリングを試す

RZハイパフォーマンス

低負荷の2WD走行時以外は、駆動系の緩みがほとんど感じられない。

とくに、前後輪ともにトルセンLSDを装備したRZハイパフォーマンスはその感が強く、減速を残したターンインから定常円、立ち上がりまで前後輪負荷が安定。

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GRヤリスRZハイパフォーマンス(プラチナホワイトパールマイカ)    前田恵介

揺れ返しなどの不要な挙動も極めて少ない。

この傾向は、4WD制御モードのノーマル/スポーツ/トラックの順で強くなる。

軽快感は逆になるのだが、基本特性が速度制御でコーナリングラインをコントロールするタイプなので、負荷バランスの変動が抑えられた「トラック」が最も好ましく感じられた。

RZは、どんな感じ?

同じ4WDシステムを採用するRZは、サスチューンが多少マイルドになり、前後ともにオープンデフを採用。

同じモードを選択しても、RZハイパフォーマンスに比べると多少軽快な印象を覚えるが、細かな揺動が目立つ。

基本操縦特性は共通しているのだが、駆動系ダンピング感やサスの収束感が落ちている。効率的限界走行を考えると多少劣るのだが、本質を換えずに操る手応えを高めたのは現実的。

ファントゥドライブ派向けとも言える。

パワートレインと動力性能

3気筒といえばヤリスでデビューした1.5L(M15A)の発展型のように思えるが、型式名を見ても分かるように専用開発されたエンジンである。

ボア×ストローク比は約1.03で、わずかにロングストローク。高過給圧稼働での効率を求めた設定だ。

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GRヤリスRZファーストエディション(プレシャスブラックパール)    前田恵介

許容回転数はメーター表示で約6900rpmとなっている。ミッションはダウンシフト時の自動回転合わせ機能を備えたiMTの6速のみの設定である。

どれほど熱いエンジンかと思えば、そこはダイナミックフォースエンジンの系譜。極低負荷域から従順。クラッチも操作力は軽く、繋がり方も滑らか。駐車場での扱いも容易。

iMTを作動させていれば、シンクロを押すくらいのタイミングで自動ブリッピングで、ダウンシフトも簡単。要するに拍子抜けするほどふつうに扱えるのだ。

巡航回転数を2000回転前後に保つ今風の走り方でも力強く、アクセル操作にも素直に追従する。カローラスポーツのMT車(1.2Lターボ)よりもゆったりと走れてしまう。

そんな走り方をしていてもつまらないので、踏み込み&回転上げ。

アクセルを踏み込むほどにターボに乗って加速も上昇。しかも、3000rpmくらいからレブリミットまでトルクの落ち込みをほとんど感じない。

6000rpmを超えて約30kg-mのトルクを維持するのだから当然。しかも、大トルク領域が幅広く、優れたコントロール性を維持しているので、ギア選択の自由度が高い。

トルクを縦横無尽に扱って走りをアレンジする能力の高さこそが、実戦志向の高性能なのだ。

RS ヤリスとは別物

一方で、GRヤリスのなかでも「RS」の搭載パワートレインは、ヤリスの1.5L車と共通。

車重はヤリスよりも100kg強重くなり、タイヤ径も5%強大径化しているが、最終減速比を約12%低くして対応。

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GRヤリスRS(エモーショナルレッドII)    前田恵介

エコ/ノーマル/パワーのドライブモード・セレクトや10速手動変速/パドルシフトも装備し、動力性能やパワートレインのアレンジ能力はヤリスとほぼ同じ。

街乗りもリズミカルなスポーツドライビングも楽しめる実用型。ちなみに、WLTCモード燃費はヤリスの約16%減となっている。

深いサスストロークをしなやかに使う。とくに前後サスともに沈み込みを感じさせるロール感が心地よい。

ロール軸は体感ではほぼ水平。前輪に荷重を預けてしまうようなFFっぽさがあまりなく、リアサス使いがヤリスとは別物。

多少強引なアクセルオンでも、コントローラブルな弱アンダーステアを維持する。

GRヤリスでは最もソフトなサスとは言え、コーナリングのポテンシャルは高く、乗り心地の質感も高い。

コンパクトスポーツとしての洗練度はかなりのもの。パワートレインにGRらしさはないものの、シャシーの差がよく分かるモデル。

ヤリスとは違うのだよ、ヤリスとは!」なのだ。

「買い」か?

RZ系は実戦力の高い動力性能だが、体感回転数が低くなる3気筒ゆえもあってエンジンフィールがイマイチいかさない。

前席座面高がヤリスと大差なく、前端部が高いためクラッチ操作との干渉でドラポジが制限されやすい。とくにクッションが専用シートのRZハイパフォーマンスが気になった。

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GRヤリスRZハイパフォーマンス(内装色:ブラック ウルトラスエード+合成皮革)    前田恵介

前席シート取付け周りはヤリス流用の感が強い。と多少の難はあるものの、コンパクト・スポーツとして出色の出来といっていい。

価格はRZハイパフォーマンスの456万円~RSの265万円。

RSを同エンジンのヤリスと比較すると100万円くらい高い見当になるが、カローラスポーツ・ターボの最上級仕様とは30万円くらい。

性能追求型の4WDスポーツなら、400万円以上は相場。

気軽に楽しむスポーツハッチを求める向きには価格的にも性能に対する考え方でも勧めにくいのだが、スポーツ度と走りの熟成度を考慮するなら納得できる価格設定である。

GRヤリスRZハイパフォーマンス スペック

価格:456万円
全長:3995mm
全幅:1805mm
全高:1455mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:13.6km/L(WLTCモード)
CO2排出量:171g/km
車両重量:1280kg
パワートレイン:直列3気筒ターボ1618cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:272ps/6500rpm
最大トルク:37.7kg-m/3000-4600rpm
ギアボックス:6速マニュアル
駆動方式:4WD

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GRヤリスRZハイパフォーマンス(プラチナホワイトパールマイカ)    前田恵介

GRヤリスRS スペック

GRヤリスRS
価格:265万円
全長:3995mm
全幅:1805mm
全高:1455mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:18.2km/L(WLTCモード)
CO2排出量:128g/km
車両重量:1130kg
パワートレイン:直列3気筒1490cc
最高出力:120ps/6600rpm
最大トルク:14.8kg-m/4800-5200rpm
ギアボックス:CVT
駆動方式:FF

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GRヤリスRS(エモーショナルレッドII)    前田恵介

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