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日産ノートの売れ行き「常識外れ」

text:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)

自動車業界には「新車効果」という言葉がある。

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これは、「どんなクルマも新車が出た直後が一番数多く売れる」のが常識であり、何世代も続くモデルであれば、「新世代の新車が出ることで販売台数を伸ばす」ことを指す。

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神村 聖

裏を返せば、新車登場から時間が経てば売れ行きは鈍ることでもある。

ところが現行型の日産ノートの歴史は、そんな常識を覆すものであった。まずは、その歴史を振り返ってみたい。

現行モデルの登場は2012年8月。確かに2012年後半と2013年は売れた。

2013年は通年で約14万8000台を売り、通称名別ランキングで年間4位につけた。

ところが、その後の売れ行きは年間10万台前後に低迷する。まさに新車効果が切れた格好だ。しかし、驚くのはその後である。

ノートは2016年11月に、「eパワー」と呼ぶハイブリッド・グレードを追加。

これが大人気となり、発売月である11月の国内販売ナンバー1を獲得。なんと、日産車が月間販売台数で1位を獲得したのは、1986年9月のサニー以来、30年ぶりの記録となった。

2017年を通しても販売は好調で、年間で約14万台を記録。ただし、ランキングではプリウスに次ぐ2位に甘んじる。

だが、ここで終わらなかったのがノートの常識外れの所以だ。なんと、翌2018年になって販売を回復。1~6月の上半期でランキング1位に返り咲く。

これが1970年サニー以来で48年ぶり。

その後も好調さを維持し、ノートは2018年暦年の車名別年間販売台数1位となる。これは日産車として史上初。

現行型のデビューから5年目の記録達成は、「新車効果」の常識を吹き飛ばす快挙であったのだ。

ハイブリッドと先進運転支援が貢献

ノートがデビューしてから長い間にわたって売れた理由の1つがデビュー4年後に投入された「eパワー」だ。

これは日産の現在のハイブリッドシステムの主流となっているもので、セレナにも搭載されている。

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EVはベストセラーカーになることはなく、世間はハイブリッドカーを求めた。遅ればせながら応えたのがノートの「eパワー」だった。    日産

ポイントはモーター駆動を主とするところで、エンジンは発電に徹する。いわゆるシリーズハイブリッドと呼ばれるもので、トヨタプリウスなどが使う方式とは異なる。

また、ホンダも日産と似た方式だが、モーター駆動以外にも高速走行でエンジン直結モードを利用する。

それに対して、日産の「eパワー」は、どんなシチュエーションでもモーター駆動で乗り切る。EVに力を入れてきた日産らしいパワートレインだ。

ちなみに、日産はリーフを発売するなど、2010年代初頭はEVに力を入れており、ハイブリッドには見向きもしなかった。

しかし、EVはベストセラーカーになることはなく、世間はハイブリッドカーを求めた。

そんなニーズに、遅ればせながら応えたのがノートの「eパワー」だったのだ。

また、ノートは、日産ラインナップのエントリーにあたるモデルながら、先進運転支援システムを積極的に搭載したのもヒットの理由だろう。衝突被害軽減自動ブレーキ(インテリジェントエマージェンシーブレーキ)をはじめ、アクセルブレーキの踏み間違いによる衝突防止をアシストする機能、クルマの周囲を確認しやすいインテリジェントアラウンドビューモニターなどが装備されている。

高齢ドライバーによる事故が社会問題化となる中で、ノートの安全性の高さは大きなセールスポイントとなったはずだ。

マーチとティーダのユーザーを吸収

「eパワー」と先進運転支援システムの充実は、ノートの大きな魅力だ。しかし、そうした商品力以外にもノートが売れた理由が考えられる。

それが日産のラインナップだ。

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2010年にフルモデルチェンジした日産マーチ。    日産

どういうことかと言えば、もともと日産のコンパクトカーカテゴリーは、ノートだけではなかった。

まず、日産コンパクトカーの伝統的なモデルであるマーチが存在する。

また、Bセグメントのハッチバックとしてティーダもあった。

ほんの10年ちょっと前の2000年代は、マーチ、ノート、ティーダという3モデルでコンパクトカーカテゴリーをカバーしていたのだ。

ところが、2010年にマーチがフルモデルチェンジする。日本ではなくタイ生産に切り替わるのだが、このタイ製のマーチの評判がよろしくなかった。

なんといっても、デザインが日本人受けしなった。

また、質感もイマイチ。グローバル市場を意識しすぎて、日本のユーザーにそっぽを向かれたという格好だ。

販売は今も続いているが、販売ランキングで言えば50位以下という残念な成績が続いている。

さらに現行ノートが登場する2012年に、ティーダがフェイドアウト。

この2012年の時点では、まだマーチがギリギリ頑張っていたこともあり、コンパクトカーカテゴリーは、マーチとノートに託された格好だ。

しかし、その後、マーチが落伍してしたため、結局、ノートだけが残されたことになる。

つまり、10年前までは3モデルでカバーしていたカテゴリーを、今ではノートという1モデルだけになってしまった。

言ってみれば、3台分の売り上げがノート1台に集約された格好である。

ノートのヒットには、マーチティーダという功労者(車)が存在していたというわけだ。

日産ファンの受け皿 他にない存在

また、世の中には「日産ファン」という存在がある。昔から日産一筋というユーザーだ。日産の歴史は長く、昭和の時代はトヨタと覇を競っていた。

スカイラインをはじめサニーなど、人気モデルは非常に多く、同様に日産ファンも数多く存在したのだ。

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日産スカイライン(2019年)    日産

そうしたファンが今も日産車に乗り続けているというケースは珍しくはない。

さらに言えば、日産の関連会社や、そうしたところと取り引きのある会社は、他銘柄ではなく日産車を選ぶことが多い。

つまり、そうした「買い物の条件が日産であること」というユーザーは、今も一定数が存在しており、そうした層の受け皿となるコンパクトカーがノートなのだ。

「eパワー」や先進運転支援機能などで商品力をアップしたとたんに販売ランキング1位を獲得できたということは、そもそもの潜在力があったということ。

次世代モデルが発表され、12月には発売も開始されるという。

日産ファンという固定客がそれなりに存在することを考えれば、その未来は楽観視しても良いのではないだろうか。


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