(福島 香織:ジャーナリスト

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 香港の自由と自治を守る運動に8年以上携わってきた3人の民主活動家、黄之鋒、周庭、林朗彦の3氏が昨年(2019年6月21日香港警察総部前の“違法集会”に関与した罪で同年8月に起訴され、その最終公判が2020年11月23日に西九龍裁判所で行われた。3氏は起訴事実を争わず、違法集会を組織した罪、他人を惑わし違法集会に参加するよう煽動した罪を認めたとして、即時収監された。

 判決は12月2日に出る予定だが、「違法集会煽動の罪」は最悪禁固5年の重い刑が出る可能性もあり、世界中が3人の若い“政治犯”たちの身を案じて、この件を報じている。

デモ参加者に香港警察総部を包囲させた?

 黄之鋒氏は2014年雨傘運動における行動を理由に2017年8月に6カ月の禁固刑判決を受け即時収監され、2018年1月にも雨傘運動における当局のデモ排除の妨害をしたとして禁固3カ月の判決を受け収監されている。収監はすでに2回経験し、今回は3回目。林朗彦氏も2014年6月の立法会突入事件で2017年8月に禁固13カ月の判決を受けている。

 だが、周庭氏にとっては最初の収監でありうら若い女性とうこともあって、本人も不安そうであったし、私を含め、彼女を直接、間接的に知る大勢の人たちも衝撃を受けている。

 BBCの報道に即して説明すると、2019年6月21日午前7時からデモ参加者は香港特別行政区政府総部隣の立法会総合大楼に集合。3被告は11時ごろに現場に現れ、黄之鋒、林朗彦の両被告は群衆を扇動し200メートル離れたところにある香港警察総部を包囲させた。周庭被告は傍らで参与した。この集会は事前に警察の許可を得ておらず、15時間後の6月22時午前3時に収束した、という。

 2019年8月30日に、黄之鋒、周庭両氏はそれぞれ「人を惑わし違法集会に参加するよう煽動した罪」「明らかに違法集会とわかった上で参加した罪」の容疑者として逮捕された。黄之鋒については「違法集会を組織した罪」の容疑も加わった。林朗彦氏も同じタイミングで逮捕、起訴される予定だったのだが8月28日に香港から離れており、同年9月に香港に戻ってきた時点で逮捕された。3人は保釈金を支払い、司法当局の要求する条件に従い保釈されていた。

 今年6月30日に香港版国家安全維持法(国安法)が電撃的に施行されると、8月10日、保釈中の黄之鋒、周庭両氏らは国安法違反容疑で再逮捕される。だが、この件と今回の公判は別件である。

 今年7月6日2019年6月21日の件についての尋問で周庭氏は罪を認め、他の2人は否認していた。だが、11月23日の公判では3人とも罪を認めた。黄之鋒氏は11月22日夜、フェイスブックで、彼と林朗彦の2人が弁護士の意見を聞いたうえで罪を認めることに決めたと明らかにした。2人が罪を認めたことで、23日の公判では起訴事実を争わず、検察側が起訴状を読み上げ証拠を提出するだけであった。

 法廷では、検察側がニュース映像などを流し、黄之鋒氏、林朗彦氏が拡声器を使って群衆を警察総部に誘導している証拠とした。また黄之鋒氏、周庭氏が警察総部の外に登場して、群衆に向かって演説している様子、メディアの取材を受けている様子なども示した。検察は、さらに黄之鋒氏のテレグラム通信での会話のなかで、警察総部の包囲を指示するような部分を読み上げた。

デモ鎮圧は弾圧であり人権侵害

 3人は罪を認めたということだが、国際社会の視点からみれば、逮捕も起訴も不当である。普通選挙のシステムが完成されていない不完全な民主主義社会では、市民が政治的要求を訴える手段はデモしかない。

 2019年6月は、条例改正案撤回を求める市民デモに対して香港警察が過剰な暴力(ビーンバック弾、催涙弾など)を使い、デモ参加者を暴徒呼ばわりして逮捕し、不当にデモを鎮圧したことで、デモがエスカレートした時期だった。それまで認められていたデモの権利を警察暴力で鎮圧することで、さらに大きなデモに発展していったのである。

 そもそもデモの権利を求める市民の要求に政府が向き合わず、デモを許可しないこと自体が異常事態だ。

 香港は「一国二制度」というルールのもとで西側社会の英国から中国共産党体制に返還された都市であり、その一国二制度、つまり「中国の一部でありながら民主主義的な法治システム資本主義市場が機能している」という前提で国際企業、投資家は香港に投資し、経済活動を行い、市民たちも言論や集会の自由を行使していたのだ。それを突然、香港は中国の一部だから、という理由で、中国式全体主義ルールでデモを鎮圧し、市民を裁くなどもっての外と言うしかない。これは法治などではなく、特定の思想や言論、中国共産党が気に入らない人物などに対する弾圧、人権侵害である。

 また百歩譲って2019年6月21日の警察総部前集会が違法集会であったとして、その集会を黄之鋒氏、周庭氏らが組織、煽動したとニュースの切り取り映像を証拠に断罪するのも一方的すぎる。

 警察総部前で暴れた「勇武派」「抗争派」デモのメンバーたちは、もともと黄之鋒氏、周庭氏に対しては「考え方が生ぬるい」と、批判的な人が多い。私たちメディアが彼らをクローズアップして取材すると、たいてい不満げに、彼らが香港デモを代表しているわけではない、と訴える。警察総部前の抗議も、多くの参加者たちが、黄之鋒氏に煽動されたわけではない、と内心思っていることだろう。

メディアに対する見せしめという狙いも

 メディアが彼らに注目して取材するのはなぜかというと、さまざまな異なる立場の市民が「香港の自由を守る」という一点に共感してデモに参加し、リーダー不在で変容し続ける「水の革命」と呼ばれる運動中で、彼らが国際社会が共感しやすい良識やバランス感覚を持っているからだ。

 もともと彼らは運動において暴力肯定派ではない。むしろ、デモを繰り返すうちに高まる「勇武派」の存在感を認めざるを得なくなった、ということだと感じる。つまり、黄之鋒氏らが煽動したわけではなく、長い運動の中で黄之鋒氏らが「勇武派」の論理にも理解を示すようになったのではないか。

 ではなぜ、当局は彼らをあたかも扇動者、首謀者のように扱うのか。それは国際社会の知名度が高いからに他ならない。

 自覚的に破壊行動に従事する勇武派、抗争派デモ隊を裁くより、国際社会が共感し、応援している社会運動家を罰する方が運動に対する「委縮効果」が高い、と考えるのが中国共産党の弾圧手法だ。過激な活動家を裁くより、対話が可能にみえる人間を弾圧する方が、一般のデモ参加者にとっては恐怖である。「対話の余地は、まったくないのだ」ということを一方的に突きつけるに等しいからだ。

 さらに国際メディアに対する見せしめ的意味もあったのではないかと私は感じている。日本を含む西側メディアは、黄之鋒氏や周庭氏を英雄、あるいは女神として運動のアイコン的に報じてきた。運動自体は、リーダー不在であるが、外国語が堪能で発信力が高い彼らは香港問題に対する国際社会への関心を途切れさせないための宣伝塔の役割を自任して外国メディアの取材を引き受けていたと思う。実際、米タイム誌の表紙も飾る黄之鋒氏の存在感が米議会に影響を与え、香港自治法などを成立させる1つの力になったともいえる。

 中国共産党が外国メディアの取材を妨害する最もよく使う手は、取材対象に圧力をかけることである。外国メディアが取材したから、彼らが迫害されるのだと見せつけることでメディアの「委縮効果」を狙う。私もずいぶん昔のことだが中国国内で取材協力者が逮捕され拷問にあっていると聞かされ、取材の記事化を放棄したことがある。最終的には保釈金を支払い取材協力者の安全を確保できたが、こういうやり方は記者自身を締め上げる以上の効果がある。取材協力者から後に「覚悟の上の協力なのだから、記事を出してくれればよかったのに」と言われたとしても、それ以降、さらに慎重にならざるを得なくなる。

 私自身が何度か単独インタビューをしたこともある周庭氏は15歳から、社会運動に身を投じ、社会運動によって政治が変わり、自由で繁栄した香港を守ることができると信じて疑わない人だった。彼女の言葉で印象的であったのは、「私は、私に批判的な人の言論も守るために戦っている」ということだった。異なる価値観が共存でき、対立や分断に苦しみながらも、異論を排除しない社会こそが民主的な社会であり、私たちが理想とする開かれた自由社会の価値観だ。周庭氏は、中国から新しく来た新移民も香港市民だという考えであったし、彼らの親共産党的言論やデモを弾圧せよ、と主張したことはない。中国の体制を支持する人と同様、中国の体制を批判する人も、その言論を保障される社会でなければ、香港の繁栄は守られない、と言っているだけだ。

 全体主義によって異なる意見を封じ込め、恐怖政治で反論を抑えこんで、仮に分断や対立や争いがなくなったとしても、そんな見せかけの安定で満足できるほど人は単純ではない。だが、異なる価値観や意見が共存する社会は、まず民主と自由と法治が前提である。そこは譲れない。

私たちには何ができるのか?

 日本も含めて、世界は新型コロナパンデミックによる混乱に見舞われている。とくに中国共産党政権の横暴に対して最も批判的立場で実効的な措置をとってきた米国は、大統領選後、今なお迷走中だ。現在、香港の市民運動は国際社会からの援護射撃を以前ほど受けられておらず、そのスキをついて中国当局、香港当局は運動への弾圧を強めている。

 11月23日の公判前に、黄之鋒氏はメディアに対して「たとえ私たちが収監されても、香港人はこの民主化運動のどん底をお互い支えあって、あきらめないで」と訴えた。周庭氏は初めて収監に直面し不安でいっぱいであろうに、「私たちより多くの犠牲を払った仲間たちがいて、今も困難な状況に直面しているかもしれないことをどうか忘れないでください」と語った。林朗彦氏は「私たちがやったことが罪なのか、その答えは香港人の心の中にすでにあると私は信じている」と語った。

 各々が覚悟を決めた表情だった。この裁判の判決は12月2日に出る。どれほどの量刑なのか。執行猶予はつくのか。今は祈るような気持ちで見守るしかない。

 自分が取材でかかわってきた人物たちが中国共産党から迫害されるのは決して初めてではないけれど、黄之鋒氏は24歳、周庭氏は12月3日誕生日で24歳。林朗彦氏は26歳。日本人ならばこの年頃の多くが社会の苦労などまだほとんど経験せず、自分の未来を夢見る年ごろではないか。

 香港の自由を守るために、10年近い青春を投じ、ひょっとすると未来も犠牲にするかもしれない恐怖に対峙する彼らのために、彼らと同様に多くの犠牲を払って戦ってきた香港の若者のたちのために私たちに何ができるかを、今改めて一緒に考えてほしい。

 まず、1つできることは、香港問題を語り続けることであり、彼らの収監の不当性を訴えることだ。

 香港の運動を擁護することは、1つの都市を守るというだけでなく、私たちが信じる価値観の砦を守ることであり、それは異なる価値観との共存も守ることだと気づいてほしい。

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香港の裁判所に出廷した周庭氏(2020年11月23日、写真:ロイター/アフロ)