Go Toトラベルの見直しが行われるにあたり、政策を担当する官邸関係者や厚労省国交省の皆さん方も夜を徹して政策立案の作業に追われているとの報道がありました。

 え、もしかして菅義偉さん肝煎りのGo To政策のパッケージ100%正しいという前提になっていて、「もし駄目だったらこうしよう」というプランBというか代替の計画立ててなかったんですかね。ま、立ててなかったから徹夜して頑張っているんでしょうけどね。

 それって「この戦争には絶対に勝てます!」「そうですか」と言って、大東亜戦争に突入した戦前の大本営とたいして変わらなくないですかね?

 んで、なんかこう爆撃機がやってきてはじめて「やべーよ」とか言い始めるアレですか。我が国の、いつもの

Go ToトラベルがGo Toヘブンに

 すでに報じられている通り、札幌を中心に北海道コロナ感染が拡大。次いで東京都大阪府でも感染者数が激増に転じ、その他府県でも冬のコロナ第三波到来は待ったなしの情勢です。

 そこへ来て、北海道新聞が政府の感染症対策のエース・国立感染症研究所長の脇田隆字さんのインタビュー付きで「道内の感染状況を加速させた可能性がある」と指摘したのを皮切りに、今度は我らが8割おじさんとして著名な西浦博さんも「Go Toが感染拡大の原因になったことを示す論文を近く発表する」ということで、Go ToトラベルがGo Toヘブンになっているとの指摘が相次いでおります。政府は政府で「Go Toトラベルが原因で感染を広げているということはない」とか西村康稔さんが言っちゃったもんだから、引っ込みがつかなくなったんではないでしょうか。困りましたね。

 もちろん、科学的に「Go Toトラベルが国内のコロナ感染者拡大に一役買った」とうっかり証明されてしまうと我らがガースー黒光り政権は大ピンチであります。政治的に持たないと思うんですよね。私たちの菅義偉さんが死んじゃう。でも、Go ToトラベルやGo Toイートをやらなければ、それはそれで国内経済は壊滅していたことも考えると、政策的にギリギリのところを、リスク承知で踏み込んでいった結果、リスクが表出したのだと言えましょう。

コロナ対策の手詰まり感・待ったなしで感染が広がる現実

 これを自民党支持者は「ガースーありがとう」となり、野党支持者は「この無能政権め早々に倒れろ」と右と左に分かれて大論争になるわけでございますが、いざ状況が悪くなり、具体的にコロナ感染者数だけでなく重症者数も増えて医療機関のベッドがどんどん埋まって大変なことになったぞとなると、責任の押し付け合いが国家と都道府県知事の間で勃発するのも我が国の新たな伝統行事となったのでありまして、五輪どころじゃなくなっている昨今本格的な政争へと発展していくわけであります

 正直、臨床レベルでは当然のことながら国民に「接触機会を減らせ(外出するな)」「手を洗え」「マスクをしろ」「密になるな」という話をする一方、公衆衛生レベルでは言われているほどコロナ検査数は増えず、追跡しきれない感染者の割合も大きくなってコロナ対策の手詰まり感が強くなります。ぎゅうぎゅう詰めでもマスクをしていて、大声で喋ったり歌ったりしない満員電車はそれほど感染源とはならない割に、ススキノで本番サービスをやったり老人会でカラオケ大会でも催されようものなら待ったなしで感染が広がる現実に国民は慄くのであります

コロナは怖いんだけど、予約しちゃって解約できない

 こうなると、どう評判や威信に傷をつけず、支持率を下げないようにしてそっと看板政策であるGo Toを降ろすのかが大事になってくるわけですけれども、残念なことに「コロナ感染が冬に向けて再拡大しかねないことは予見されていたのに、Go To政策を見直す準備はなされていなかった」ようです。

 結果として、この3連休はあまり外出させないようにしなくては感染がさらに拡大する危険があったにもかかわらず、Go To政策を一部降ろすのに手間取ったばかりか、国民からすればGo Toの見返りよりも痛い「直前キャンセル料」に対する補填もなされないため、感染が広がっていることを知りながら予約してしまった旅行は決行するという選択を取る人多数になったのです。

 いや、まあ、コロナは怖いんだけど、予約しちゃって解約できない旅行はそりゃ行くわね。

多くの業界が年末商戦に年間の売上を依存

 当然、医療関係者は政府の無策にブチ切れたり呆れたりしているようですが、政治的な混乱はこれからが本番なんじゃないかと思うんですよね。世間的にはジャブジャブにおカネが供給されているので、29年ぶりの日経平均高値とかやってますけれども、足元では有効求人倍率は下がり、おそらく冬に向けて倒産件数も増えて具体的な不況がドーンとやって来る可能性も否定できません。景気は悪いのに株価だけ上がっていくとか、これってどういう経済なんでしょう。

 ハロウィン商戦が不発に終わるのは仕方がないとしても、年末商戦に年間の売上を依存している業界は多く、とりわけ忘年会シーズンキャンセルどころかまったく予約の入らない駅前居酒屋のような業態を中心に本当にどんどん死んでいくことになりかねません。

 そして、経済苦を理由に自ら命を絶ってしまう人も増えてきました。自殺者数を減らすためにもGo Toを継続しろという話はありますが、常識的にはGo Toで一息つける人がいたとしても、税金投入がどこかで止まったらその人も死んでしまいます。本来は事業に行き詰まって借金を抱えてしまっても、死ななくてもよい制度を作るほうが大事なんじゃないかと思うんですけどね。

民主主義の恩恵を受けて自由に発言してきたけれど

 そういうことになってしまったのは政治が悪いからだ、と政権批判をするのは簡単ですが、それまで馬鹿だ無能だと罵っていた中央官庁の官僚の皆さんや官邸詰めの政治家が織り成す政策にぶら下がるしかない人たちが実は多かったこともまた事実だったと思うんですよ。中国みたいな専制政治だったら感染者は全員隔離しちゃうからさっさと流行おさまって感染症の問題など起きなかったのに、と民主主義の恩恵を受けて自由に発言してきたメディアが「中国を見習え」的な話までしかねません。

 さらに言えば、外国からの入国制限が緩和になり、9月に比べて10月はほぼ倍増の2万7,000人あまり、約半数がベトナム、中国、韓国からの来日者で、国内ではGo Toを絞らなければならんような状況なのに海外からは入国制限緩和を続けて本当に大丈夫なのかという議論も今後は出てくるのではないかと思います。でもたぶん、入国は絞らないんじゃないかと思うんですよね、オリンピックもあるから。

もう全体的にこれはもう駄目なんだろうなというモード

 要は、政策的に五輪や移民、インバウンド観光など「やりたいこと」はたくさんあるけど、コロナのお陰で全部ダメになっていくプロセスを私たちは見ていて、菅さん以下アテが外れて呆然としながらも徹夜して弥縫策を考えているという残念な敗戦模様を演出していると思うんですよ。

 でも、負けを認めたら支持率も下がるし政権も倒れかねないので、精一杯突っ張りながら「大丈夫です! 大丈夫です!」と言っているところに西浦博さんは「Go Toのお陰で感染が広がったっすね」と涼しい顔と頭髪で事実を突きつけ、大阪は大阪でイソジンワクチンだと馬鹿なことをしているし、和解したはずの小池百合子さんは「国のせいだ」「バーカ」と煽ってるし、もう全体的にこれはもう駄目なんだろうなというモードになっちゃっているのが痛いですね。

 国民がマスクしてくれるし外出もまあまあ控えてくれるので、諸外国よりは感染の程度がマイルドなのが救いですが、日本のこれからがどうなるかは誰にも分かりません。

「駄目だったときの政策も考えておきましょうよ」

「経済を回しながらコロナ対策をやる」ことについては、夏ごろから有識者は口をそろえて対策を強化しようと言い続けてきていたわけで、まあ手遅れになった部分は仕方ないけれども、これからでも意味のある活動を推し進めて感染拡大で亡くなる人、後遺症で悩む人が一人でも少なく済むといいなと思います。

 それもこれも、菅義偉さんが官房長官時代から肝いりで進めてきたGo Toは、政策として確かに必要だったのは間違いないんだけれども、それがコロナ拡大で駄目だとなったときに早々に次のプランに移行できるような、そういう仕組みがあったほうが良かったんじゃないですかね。

 もちろん、仕える側の人が「大将、その政策は素晴らしいんですが、駄目だったときの政策も考えておきましょうよ」とか言うと、「おまえ、俺の考えてるプランが駄目だったときなんて考える必要があると思ってるのか」とか言い返されると、やっぱこう、スガーリン的な展開が起きたりするものなんでしょうか。

 宮仕えってホント大変ですね。

(山本 一郎)

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