(髙橋 義明:中曽根平和研究所・主任研究員)

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 政府は「Go Toが感染拡大の主因というエビデンスない」と主張していたが、筆者はエビデンスそのものを政府が適切に収集・分析していないことを指摘した(「Go Toとコロナ第3波、本当に関係があるのか?」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62899)。

 しかし、感染者数の急拡大により、政府もとうとうGo Toの見直しに舵を切ることとなった。11月24日、政府はGo To Eat食事券の新規発行停止の要請、札幌市大阪市を目的地とするGo Toトラベルの停止を決定した。「緊急事態宣言も視野」との声も聞かれるようになった。

 本稿ではGo Toの対象地域の見直しについて、自治体などのデータから何が言えそうかをみてみたい。

10月中旬から感染が拡大した札幌市、大阪市

 新規感染者数が11月に入って急増したことからGo Toとの関係性に否定的な意見も聞かれる。

 しかし、日々発表される新規感染者数は感染 →(発症 →)医療機関診療 → 検査→ 陽性判明 → 公表という手続きを経て発表される。したがって、実際に感染してからマスコミに発表されるまでに時間を要する。

 そこで感染推定時期に最も近い発症日での感染者数の推移をみてみると図1の通り、北海道札幌市では10月16日頃から、大阪府大阪市10月19日頃から上昇トレンドに入っている。新型コロナの感染から発症までの平均潜伏期間が平均7.35日であること(Lauer, et al. 2020)を踏まえると10月上旬から感染が拡大していたと推察できる西浦博京都大学教授も厚労省の会合において、北海道・大阪では10月11日時点で実効再生産数(1人当たり何人に感染させるか)が感染拡大傾向を示す1を越えた、と報告している。

 10月1日にGo To Eatのポイント還元開始、Go Toトラベル対象地域の東京追加、空港検疫についても留学、家族滞在等の在留資格保有者についてすべての国・地域からの新規入国が許可された。さらに10月14日からGo To Eat大阪キャンペーン、11月10日からGo To Eat北海道キャンペーンが開始されるようになった。

 ただし、直近の北海道感染者数の動きをみると札幌市では頭打ちになり、むしろ北海道全域で高くなってきている。

ドイツのロックダウン基準は?

 今回のGo Toの見直しに関して、多くの知事から「都道府県単位ではなく、より小さい地域での制限を」との主張が聞かれた。この点は筆者が従来から地域コミュニティで感染状況を把握すべきという主張と一致する(「エピセンター化した新宿から感染が広がる実態と原因」)。

 一方、その基準については秋冬の感染爆発は予想されていた以上、Go Toにしろ、緊急事態宣言にしろ、どうした場合にどのような制限を行うかは、本来、5月の緊急事態宣言解除時、Go Toの設計時に国と地方で合意しておくべきであった。残念ながら現時点でもこうした合意はない。

 ドイツでは連邦政府と州政府が5月のロックダウン解除時に合意した「市・郡単位の1週間の新規感染者が10万人当たり50人」というシンプルロックダウン基準を設定している(ドイツなどの基準などは「新型コロナウイルス政策における証拠に基づく政策決定(EBPM):日本の政府・自治体の主要政策指標は正しい政策判断に資するのか」参照)。ちなみに第2波の際の新宿区7月5日に50人を越え、約2週間で7月22日には98.5人に達した。そこで、この基準でまず北海道の状況を確認してみたい。

 直近1週間(11月19~25日)の10万人当たり感染者数は、札幌市(53.2人)が50人を越え、旭川市(47.9人)が水準に迫っている。また、人口が少ないために数人でも数値が跳ね上がる町村部では月形町(96.1人)、利尻富士町124.7人)が50人を越えた状態である。さらに、北広島市(41.3人)、千歳市(25.5人)が急増レベルである10万人当たり25人を上回っている。

 ただし、北海道において「より小さい地域での制限」を検討する上で重大な3つの問題がある。問題の1つ目は、上記の算出の際に含めなかった65人という居住地非公表の存在である(62人が札幌市公表分、3人が旭川市公表分)。

 例えば、札幌市公表の62人全てが札幌市在住であれば札幌市の数値はさらに高くなるが、札幌市周辺の居住者分であれば周辺市町村の数値が跳ね上がりうる。もしくは道庁公表の際には千葉県神奈川県居住者などとして公表されるが、同様に非公表分が道外の居住者であれば札幌訪問時の感染を意味する。非公表分の居住地が実際にどこかによって地域の状況が大きく相違する。

 問題の2つ目は道庁の居住地公表の仕方が「石狩振興局管内」と「石狩振興局管内(北広島市)」というように市町村名を含むものと含まないものの2種類あることである。

 そこで例えば、市町村名を含むものと含まないもの全てを「石狩振興局管内」として計算すると10万人当たり感染者数は35.0人と石狩振興局も50人基準一歩手前であり、石狩振興局管内全域の制限を検討する必要があるかもしれない。しかし、「石狩振興局管内」として公表された者のほとんどが1市に集中しているのであれば当該市の数値が跳ね上がりうる。詳細を明らかにしないことが逆に地域の状況に沿わない結果を生みかねない。

 問題の3つ目は、首都圏政令市と違って札幌市が区別の感染状況を公表していない点である。例えば、横浜市の10万人当たり感染者数は16.9人だが、区別にみると南区(36.3人)と急増レベルを越えている一方、栄区(1.7人)、瀬谷区(4.1人)などと感染者が少なく、区で感染状況が大きく違う。札幌市全域で感染が拡散しているのか、中心部に集中するのかで政策対応も大きく変わりうる。

 そこで代替手段として感染者が出た場合に個別に自治体や企業などの公表資料から消毒などを実施している店舗・オフィス・学校などの施設の所在場所でみてみたい。その代替手段で札幌市周辺の状況をみてみると、図2の通りである。感染が家庭内感染、会食での感染など施設の場所で感染が起こったわけではないケースが含まれること、さらにクラスターが起きているとされるすすきのでの公表が少ないなど感染が起こっても非公表の施設も存在することには注意が必要である。しかし、図2の中心部に位置する札幌駅周辺部で多く、周辺部では少ないことがみてとれる。

 以上からも分かる通り、道庁・札幌市市町村別、区別公表をしていない状況において、「より小さい地域での制限」を市民・事業者に理解してもらって実行するのは難しい。

感染が大阪市以外にも拡散する大阪府

 一方、大阪府についても直近1週間(11月19~25日)の10万人当たり感染者数でみると50人を超える市町村は現状ないが、多くが急増レベルの25人を越えている。大阪市(44.1人)、泉大津市(44.4人)が50人に迫っているほか、寝屋川市(29.3人)、岸和田市(27.6人)、大阪狭山市(27.2人)、守口市(25.3人)などとなっている。その他でも箕面市(24.9人)、泉南市(23.4人)、八尾市(22.2人)、羽曳野市(23.0人)、豊中市(21.9人)、貝塚市(21.2人)、東大阪市(20.3人)、和泉市(20.0人)と25人基準に近い市町村が多い。

 また、大阪府札幌市と同様に大阪市の区別感染者数を明らかにしていない。大阪府の担当者に確認したところ、大阪府は「区別居住地情報を大阪市から入手していない」との回答であった。

 そこで札幌市と同様に消毒などを実施している施設の所在場所から大阪市周辺の状況をみてみると図3の通りである。梅田駅難波駅周辺が多いものの、札幌市に比較するとまんべんなく分布している。

 さらに大阪府の問題は、府庁が11月16日から、年代、性別、職業などの個別の患者の状況を示す患者個票の公表を全国で唯一、廃止したことである。その理由として「保健所の負担軽減」が挙げられている。しかし、患者情報の公表は感染症法第3条1項における「感染症に関する情報の収集、整理、分析及び提供」の一環として都道府県の責務と考えられる。

 患者情報は、例えば厚労省アドバイザリーボードも重視する発症日が公表されなくなったこと、感染経路不明、重症者を市町村毎に把握できなくなったことなど、住民の行動変容や感染状況の評価に不可欠であった。市町村レベルでは大阪府が公表する個票により確認していたが、市町村でも確認できなくなったようで、寝屋川市が独自に患者個票の公表を始めた以外は多くの市町村が患者数のみの公表に移行している。こうした状況は的確な把握が遅れ、逆にさらなる感染拡大に寄与してしまう可能性も否定できない。患者情報の公表は人員の統計部局などからの追加配置などより本来、優先すべき業務であり、府庁は再考すべきであろう。

 また、少なくとも保健所設置市は自ら感染症発生届を受理しており、寝屋川市と同様に独自に患者情報を公表することは可能である。特に大阪市豊中市高槻市、八尾市、東大阪市、吹田市は上述の通り、感染率からみて現状、感染が制御できていない状況にあり、保健所設置市としての役割が問われている。

他の都道府県でも急増レベルの地域が多数発生

 北海道、大阪以外に目を転じると、東京都では港区(47.8人)、中央区(48.4人)、渋谷区(42.0人)、新宿区(36.1人)、中野区(28.4人)、足立区(28.2人)、沖縄県では浦添市(25.9人)、那覇市(27.8人)、埼玉県ではふじみ野市(42.5人)、富士見市(29.9人)、兵庫県では龍野保健所管内(48.9人)が急増レベルの10万人当たり25人に達している。これら市町村で持続的感染拡大につながるのか注視が必要である。

 政令市では名古屋市(24.5人)が25人に近いが、それ以外は仙台市(4.4人)、横浜市(12.6人)、川崎市(11.6人)、相模原市(9.1人)、さいたま市(10.2人)、千葉市(8.7人)、堺市(18.1人)、神戸市(11.9人)など感染爆発レベルには達していない。ただし、区別にみると前述した横浜市では南区が36.3、川崎市でも川崎区が21.0人、さいたま市では大宮区が19.5人と高くなっている。

 また、上述した札幌市大阪市に加えて仙台市、堺市、神戸市は区別の感染情報を公開していないため、人口当たり25人や50人を越えている区がある可能性もある。名古屋市は筆者の情報公開請求も受けて区別患者数を公表するようになったが、月に1度の公表に留まる。感染爆発に手遅れにならないよう戦略的対応を検討するためにも、政令市は区別の患者数を日々公表すべきであろう。

政府と都道府県の真摯な合意が不可欠

 以上は感染者数からの分析であり、この他にも旭川市では医療機関で100人超のクラスターが発生しているなど、地域によっては検査能力や医療施設の逼迫度も勘案する必要があろう。

 また、例えば、北海道北広島市の人口当たり感染者クラスターの発生から50人近くなっているが、北広島市市中感染が起きた結果なのか、札幌市への通勤・買物などで感染が連鎖していたのかを明らかにする必要がある。通勤などが要因であれば仕事のリモートへの切り替え推進が求められる。いずれにしても自治体データ整備・公表が前提になるが、現状、機動的なデータ分析に対して不十分である

 一方、繰り返しになるが、政府もどのようなケースでGo To事業などに制限をかけるかを事前に自治体と合意しておくべきだった。Go To トラベルの停止はそれがない状態で決定された。11月になって北海道大阪府などで死者数が急増しているが、札幌、大阪両市を目的地とする「Go To トラベル」の一時停止には、基準が曖昧な中で決まってしまった。このことは3週間後とされる再開検討時に再開か停止継続かの判断でまた混乱を生じかねない。

 感染症法も第3条2項において「国及び地方公共団体は、地域の特性に配慮しつつ、感染症の予防に関する施策が総合的かつ迅速に実施されるよう、相互に連携を図らなければならない」と述べている。一刻も早い国と都道府県の連携が求められている

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