監視カメラ、スマートフォン、ドローンなど現代に根付いたテクノロジーハッキングすることをゲームの主軸に置き、既存のオープンワールド系ゲームと差別化して世界中で多くのファンを獲得した『ウォッチドッグス』。そのシリーズ最新作『ウォッチドッグス レギオン』が発売された。今回の記事では、前2作から舞台や時代設定を変えたことでストーリーやゲームシステムともにスケールが大きくなった本作の魅力を紹介していきたい。



文 / マンモス丸谷

ロンドン市民全員が主役のレジスタンス活動

本作『ウォッチドッグス レギオン』は、『ウォッチドッグス』シリーズ3作目にあたる。街の隅々まで監視システム“ctOS”が張り巡らされた都市を舞台に、ハッカーとして巨悪に立ち向かっていく……という基本コンセプトは引き継がれているが、今回は時代設定を大胆に変更。現代(1作目は2013年のシカゴ、2作目は2016年のサンフランシスコ)が舞台だった過去2作に対し、本作でプレイヤーがさまざまなミッションに挑むのは『ウォッチドッグス2』から数十年ほど経過した近未来のロンドン。そのため登場する多くのクルマには自動運転機能が搭載され、ロンドンの上空では多数のドローンが飛び交っているなど、少しでも街を探索してみると現代より各種テクノロジーの進歩した世界が舞台だということがわかるようになっている。

舞台となるロンドンでは、そういった近未来を感じさせる技術のほぼすべてが“人間を抑圧するため”の方向に利用されており、ストーリーや世界観、ゲームシステムに影響を及ぼしているのが大きな特徴となっている。まずストーリー面では、キャンペーンモード開始直後に始まるチュートリアルを兼ねたプロローグで、ロンドン全体を巻き込む爆破テロが発生。その結果、ロンドンは治安維持の名目でctOSによる監視体制が強化され、さらに街のいたるところに民間軍事会社“アルビオン”の武装した兵士&ドローンが常時巡回しているというディストピアへと変貌している。プレイヤーはそんなロンドンを解放するために、『ウォッチドッグス』シリーズでおなじみのハッカー集団“デッドセック”の一員として活動していく。

デッドセックは爆破テロの首謀者として仕立て上げられ、プロローグの時点でほぼ壊滅。生き残ったメンバーもロンドンには近づけない状態からスタートする。この設定をゲームシステムとしてうまく活用しているのが、ロンドンで生活する市民をデッドセックへ勧誘し、プレイアブルキャラクターとして操作できるようになるスカウティングシステム。登場するほとんどのキャラクターはデッドセックのメンバーとしてスカウトすることができるうえ、それぞれに職業や身体能力に応じたスキルが設定されており、誰を仲間にするかをプレイヤーの裁量で決められる。

デッドセックの一員にしたロンドン市民の“誰”でミッションに挑むかによって、目標達成までの行程に大きく差が出るのが特徴的。例えば潜入したい建物があった場合、これまでの『ウォッチドッグス』シリーズであれば、まずはプレイヤーキャラクターもしくはドローンが進入できるポイントを探してミッションを遂行していくというのがセオリーだった。しかし今回は進入方法ひとつを取っても、操作しているのが建設作業員であれば建設ドローンを呼び出して屋上から潜入することができるし、元アルビオンの職員なら制服を着用することで警備の目を欺きつつ建物内の捜索が可能。仮に正体がバレたとしてもアルビオン支給の強力な武器でのゴリ押しで目的を達成する……といったような、キャラクターの個性を活かした攻略法を考えて実践できるのが楽しいのだ。

極悪人の敵と頼れる相棒AIが物語を引っ張る

ロンドン市民を誰でもプレイヤーキャラクターにできるというシステムを採用したため、『ウォッチドッグス レギオン』には1作目のエイデン・ピアース、2作目ならマーカス・ホロウェイのような特定の主人公は登場しない。この点が過去2作のキャンペーンモードの高いドラマ性が好きだったという人には懸念材料になるかもしれない。しかし本作のキャンペーンモードがあっさり風味かといえば、まったくそんなことはない。デッドセックと敵対しているロンドンの支配者たちが手を染めている犯罪行為の質が、「これぞZ指定」といった感じのタチの悪さ(ドラッグの売買、ロンドン市民への苛烈な弾圧、移民を殺害しての臓器売買、犯罪者を“予測”して監視や暗殺を実行するドローンの開発etc……)で、「ちょっとこれは見逃せない、許せない」と義侠心的なものに駆られて昼夜を問わずキャンペーンモードを進めてしまった。

かなりハードなシナリオが展開されるわけだが、プレイヤーが普通にミッション進行を楽しめるようにゲーム全体の雰囲気が暗くなりすぎない工夫もなされている。その最たるものが、なにかと話しかけてくるAIのバグリー。彼のセリフはミッション遂行に役立つかどうか? という観点から見ると、“次に行くべき場所がマップに表示された”ことを音声で伝えるツールでしかないのだが、そのセリフのほとんどにディストピアと化したロンドンや権力者を揶揄する皮肉が添えられており、AIながら本作で最も人間味にあふれた話しっぷりを見せてくれる。さらにバグリー以外のキャラクターのセリフはもちろん、フィールド上に置かれたデータを回収することで聞けるポッドキャストのやり取り(クルマでの移動中に流れ、ゲーム内で頻出する用語や世界観にまつわる設定などをさりげなく説明してくれる)など、本作は音声ローカライズの言い回し全般が映画的で気が利いている。音声パック(無料)をダウンロードするというひと手間はかかるが、日本語音声でのプレイをおすすめしたい。

◆嫌すぎる近未来描写が生み出す!? サイドミッションへのモチベーション

豊富に用意されているサイドミッション(ロンドン市民をスカウトできる採用ミッションも含む)にも触れておきたい。サイドミッションの数自体はシリーズ1作目から充実しているが、本作はサイドミッションに挑もうとプレイヤーに思わせるモチベーションの誘導が見事だと思う。キャンペーンモードで言及したことと重なるがディストピア描写が秀逸で、ロンドンが目に見える地獄だという点が刺さる。過去2作のシカゴサンフランシスコも悪辣な監視システムが敷かれた都市ではあったが、表面上は平和だった。しかし舞台となるロンドンの路上は、100m歩くごとにアルビオンの警備員や兵隊に尋問、拘束、暴行されている市民と遭遇するような状況であり、バッキンガム宮殿やビッグベンといったロンドンの観光名所には、漏れなくアルビオンやブルーム社(ctOSの開発元)のプロバガンダ映像がでかでかと投影されている有様。こういった状況はロンドン中に点在するアルビオンやブルーム社の施設の破壊、犯罪行為を行なっている証拠写真の収集、市民の弾圧に手を貸すVIPを撃退するといった行為を繰り返し、周辺エリアの反抗度を上げていくことで改善できる。

都市の反抗度を上げたり、サイドミッションをこなすことで得られる見返りが大きいのも魅力的。デッドセックの評判が上がっていくと、キャンペーンモード序盤ではスカウトに応じなかったタイプのロンドン市民の態度も軟化していき、特殊なスキルを持ったキャラクターをデッドセックの一員として迎えることも可能になる。筆者が仲間にしたメンツだとスパイスパイガジェットによる攪乱とサイレンサー付きのピストルが便利)、ドローンエキスパート(敵を追尾するホーミング弾発射のショックドローンを呼び出せる)、eスポーツ競技者(素早くハッキングを完了する技術と、なぜか強力なライフルを持つ)あたりは使い勝手がよく、また固有スキルがユニークだったので印象に残っている。

シリーズ伝統の自由度の高いオープンワールド探索&ミッション攻略を発展させたうえで、本作でしか味わえないような尖ったストーリーや世界観を提示してくれている『ウォッチドッグス レギオン』。デッドセックの起ち上げから犯罪組織や軍事企業との対決、国家を揺るがすテロを再度画策するゼロデイとの最終決戦など、キャンペーンモードだけでも十分なボリュームを備えていて多くのゲーマーにおすすめできる一本だが、2020年12月の無料アップデートではオンラインマルチプレイへの対応とマルチプレイ向けの新ミッションが実装予定。さらにシーズンパスでは新シナリオの追加、初代『ウォッチドッグス』の主人公エイデン・ピアース、『ウォッチドッグス2』の人気キャラクターであるレンチの登場も発表されている。今年の年末はもちろん来年に入っても十二分に遊べそうな勢いなので、腰を据えて遊べるゲームを求めている人はぜひ本作を手に取ってみてほしい。

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ディストピアロンドンを探索・解放する快感『ウォッチドッグス レギオン』自由度の高いオープンワールドにハマるは、WHAT's IN? tokyoへ。
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掲載:M-ON! Press