11月3日、法と正義による中絶禁止法案への反対デモで集まったポーランドの女性たち。彼女たちはスマートフォンやランタンを手にして、「WYBÓR(選択)」という文字を作った。(Photo by Omar Marques/Getty Images)

 コロナショックのなか、中絶禁止法案と反対デモに揺れるポーランド。はたして女性たちは、フェミニズム、そして彼女たちの権利についてどう思っているのか? 現地に暮らすポーランド女性たちを直撃した。

◆過去には先進的だったポーランド
 これまで当サイトでも紹介してきたとおり、ポーランドでは女性の中絶する権利が厳しく制限され、コロナが猛威を奮うなか、各都市で数千、数万人規模のデモが発生する事態となっている。

 こうしたポーランド政府、そして与党である「法と正義」の姿勢には、EU人権監視機関からも厳しい批判が相次いでおり、女性の権利に関して悪い意味でヨーロッパの注目国となっているのが現状だ。

 しかし、そんな保守的なイメージとは裏腹に、同国では1918年に女性の参政権が認められるなど、長い歴史のなかでは革新的な出来事や人物も少なくない。現地に暮らす女性たちは、同国の現状やフェミニズム女性の権利、そして日本人女性についてどのような印象を持っているのだろう?

 「多くの女性は数あるなかの『選択肢』を求めて中絶禁止法案に反対していると思います。つまり、権利を求めているんです。ポーランドの中絶に関しての法律は、他国と比べてすでに厳しいものですから。

 社会的に女性が低く見られるかどうかは、仕事をしているか、既婚か子どもがいるかなども関わってきます就職や育休に関してはまだ平等とは言えませんし、私も夫が病気がちで看病をしていたことでクビにされた経験があります。フェミニズムやこうしたデモは、母として、女性としての権利の問題なんです」(Aさん・30代)

◆権利と対応を求めることは矛盾していない
 ポーランドでは、女性に対して席を譲るなど所謂「紳士の文化」が根強いが、そうした文化も時とともに変化を遂げているという。

 「男性からの心理的な支えが少ないように思います。たしかに、ジェントルマンの文化はありますが、それはフェミニズムとはまた別の問題。また、そうした文化も衰えています。権利と女性への対応、両方を求めることは矛盾していません

 若い男性は女性の支援に積極的です。というのも、男性にも母や妻、彼女がいるわけですから。男性は8時間働いたら、ビールテレビ。女性は仕事のあとにご飯を作ったり掃除育児をしなければいけないという格差は間違いなく存在します」

 また、日本でのフェミニズムや女性の生き方については、意外にもポジティブな反応が返ってきた。

 「日本人女性については報道記事や映画でのイメージしかありませんが、文化的に日本のほうが高い印象です。日本では平和に仕事をしていて、男女で協力しているのではないでしょうか。ただ、日本人女性は見た目に気を遣うイメージです。

 ポーランドでは、政界に女性はいるので女性たちの声は聞こえますが、宗教は教育と政治から分離されるべきです。これまでの歴史や社会主義国だったことも関係していますが、以前と教会の立場が逆転しているように思います。社会主義時代は、民主化を積極的に支援していたので。こうしたことも影響して、年上世代とのギャップが広まっています。『伝統だから変えるべきではない』と。歴史か宗教、どちらに重きを置いているかですよね。若い人たちは、伝統は変えられる歴史は作れると思っています」

◆「伝統」は「親の言うこと」の言い換え?
 キリスト教、特にカトリックの影響力が政治と強く結びついたポーランドでは、中絶禁止法案にせよ、より幅広い女性の権利についても、宗教を抜きにしては語れない。しかし、こうした意見がある一方で、次のような声もあがった。

 「正直、特にデモには興味を持っていませんし、私の周りでは女性同士でもあまり日常的にはフェミニズムについて話しません。今回のデモでは、政府や教会が結びついているということと、中絶という特定のテーマがあったから盛り上がったのだと思います。ただ、女性の稼ぎのほうが低いといった格差はあると思います。

 また、職場でも女性が話すと真面目に取り合ってくれなかったり、『女性に言われたくない』といった事態に遭遇することもあります。こうした問題は、宗教が関連しているのかもわかりません。ただ自分の親がそうだったからという。それを伝統と言うのかもしれませんが」(Sさん・30代)

 宗教だけでなく、家庭環境も大きく影響するというのは日本にいる我々にも他人事ではない話だ。

 「現政権が女性はどうでもいいと思っているのは明らかです。何かコンプレックスがあるのか、女性たちと意思疎通ができていないので、デモが起きたりするのは当然ですよね。女性同士の世代間ギャップについては、あまり母とは女性の権利やフェミニズムについて話したことはありませんおばあちゃんは信心深くて、『ディオマリア』(保守的なことで知られるカトリック向けのラジオ局)が大好きなので察してください(笑)。伝統的な価値観が染みついていて、旦那が何か手伝ってくれるのを見るだけでショックを受けています。『やけに手伝うのは離婚したがっている前兆だ』と(笑)

◆女性の権利と政治は別問題
 では、同国の男性たちの姿勢については、どう感じているのだろう?

 「体感としてはデモについても、フェミニズムについても、賛否は半々といった感じです。旦那や父はデモも支援していましたが、それは反政権だからという面も強いと思います。女性の権利についての問題と、政治がごっちゃになっているんじゃないかと。ただ、友達を見ていても、より多くの男性が支援にまわっているような気がします」

 また、日本の女性については、前出のAさんとはだいぶ違った印象を持っていた。

 「女性は仕事をしないで旦那の帰りを待っている男性は帰ったらビールとメシ……そんなイメージです。女性の権利や生活が充実しているようには思えません

 日本人女性がポーランド人女性にあまり明確なイメージを持っていないように、日本についての印象はまちまちなようだ。

フェミニスト間でも広がる分断
 宗教や各家庭の教育と同じように、地域性なども強く影響していると答えたのはMさん(30代)だ。

 「女性の権利についての盛り上がりは地域によります。場所によっては、保守層はむしろフェミニズムなどに対抗しているぐらいです。ポーランドフェミニズムの現状については、連帯がなく分断しているように思えます。左寄りで考えのないフェミニズムといったイメージが広がっているのは、個人的には悔しいです。

 デモについても、権利や平等についての問題なのに、叫んでいる様子や野蛮な振る舞いをしているとことばかりに焦点が当てられています。参加者には若い人が多いですが、右寄りの人たちの間では『若くて叫んでばかりいる』というステレオタイプが蔓延していて、悲しいです。政治的な立ち位置に関わらず、お互いが同じ偏見を抱いているように思えます」

 また、日常的に女性が虐げられていると感じるのは、やはり仕事に関連した状況だとMさんは話す。

 「間違いなく男女の格差はあります。私も就活中に『子どもを産む予定はあるか』と聞かれたことがあります。そういったことを聞くこと自体が差別ですし、違法です。また、知り合いでも男性から嫌な気持ちになる冗談を言われることがあります。たとえば、『昇級したのは上司がお前を好きだから』とか。

 こうした現状には、宗教の影響がものすごく大きいです。政治にも力を及ぼしていますし、教会は現政権とも密接に結びついています。ただ、今回のデモに関して言えば、私の周りの男性はみんな支援していますメディアや政権の支持派は言葉遣いの汚いスローガンや教会への落書きなど、一部を取り上げてスケープゴートを探していますが、そうであるべきではないと思います」

日本人女性は「薄っぺらくて男性の添え物」
 男女間、世代間、政治的立ち位置などによって深い溝が生まれているポーランド。女性の権利やフェミニズムに関しては、特にそれが顕著に表れているように思えてならない。

 「たとえば、中絶禁止法案について支持している男性は、『障害を持って生まれても自分が育てる』と言いますが、これは母体の問題です。こうしたテーマについて話す機会は少なくないですが、私の周りにはリベラルな知り合いが多いので、ポジティブな反応が返ってきます。強く反対したり、女性に対して高圧的なのは、やはりネット世論ですね」

 ネット上が差別的な言葉や高圧的な人間で溢れかえっている……その一点に関しては、世界共通なのかもしれない。日本人女性の生き方やフェミニズム事情については、どう思っているのだろう。

日本人女性は静かで綺麗でいることを強いられているように感じています。『女は三歩下がって歩け』と。私はアニメが好きでよく観ているのですが、それを観る限りでは、すごく薄っぺらくて男性の添え物でしかないですよね。甘くて若くて無垢であるべきだというのが、日本人のなかの女性観なのかもしれません。一人一人の女性はそうじゃないんでしょうけど、こちらで目にする情報からは、そういった印象を受けます」

 さて、読者の皆さんはポーランド人女性たちの声を聞いて、どのように感じただろうか? ご覧いただいたとおり、人の数だけ意見があるポーランドでは、女性の権利という一点にしても、宗教政治地域性教育家庭環境などが複雑に絡み合ってくる。

 しかし、女性の権利やフェミニズムポーランドだけの問題ではない。また、女性はもちろん、母を娘を、姉を妹を、妻を彼女を持つ男性にも当然無関係ではない。遠い異国に暮らす女性たちとはいえ、彼女たちの声に耳を傾けることで何かを思い、感じるはずだ。その気持ちに目を向けることが、女性の権利やフェミニズムについて考える一歩なのかもしれない。

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】
ライター編集者日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

11月3日、法と正義による中絶禁止法案への反対デモで集まったポーランドの女性たち。彼女たちはスマートフォンやランタンを手にして、「WYBÓR(選択)」という文字を作った。(Photo by Omar Marques/Getty Images)