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スカイアクティブX 試験場での直感

text:Kenji Momota(桃田健史

「なるほど、やはりそういうことだったのか」

マツダが2020年11月18日に公開した、「マツダ3」の商品改良で「新たな事実」が判明した。

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マツダが2020年11月18日に公開した、「マツダ3」の商品改良モデル。    マツダ

マツダは、筆者(桃田健史)を含む一部ジャーナリストを対象に2020年10月後半、美祢自動車試験場山口県美祢市西厚保町)で「マツダ3プロトタイプ」の試乗会をおこなった。

「ほぼ量産」の状態だったが、現地で公開された各種数値はプロトタイプとしての参考という扱いだった。

試乗の狙いは、新旧スカイアクティブXの比較である。

用意されたクルマは、新旧の2WD/6速ATのファストバック。そして、新旧の2WD/6速MTのファストバック。

以上4台を乗り比べた。

最初乗ったのが、改良前の2WD/6ATだ。

エンジンの雰囲気、そしてクルマ全体の動きは「じんわり」という落ち着き感がある。

表現を変えると、クルマ全体が少し重い感じもあるが「これがスカイアクティブX」という「思い込み」があった。

スカイアクティブXは、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの燃焼に対する考え方を融合した発想だ。

これまでこの形式、またはこの形式に近いエンジンを世界市場向けに大量生産したメーカーは、マツダ以外にいない。

だから「この走りを受け入れるべき」という、筆者としての思い込みがあった。

思い込みの原点 ドイツでの試験走行

筆者がそう思い込むには、ワケがある。

時計の針を、2017年9月まで戻そう。

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スカイアクティブXを組み合わせるプロトタイプ。    AUTOCAR英国編集部

ドイツフランクフルト郊外にある、マツダモーターヨーロッパ。ここで、スカイアクティブXの世界初公開と公道試乗会が実施された。

用意された試作車は前モデルのマツダ3(日本のアクセラ)。エンジンフードを開けると、直列4気筒ユニットにしては多くの補機類に囲われ、エンジンルームは満杯状態に見えた。

超希薄な燃焼を実現するため、吸気量を増やすスーパーチャージャー、また低回転域でのトルクを下支えするためのモーターまで搭載。

事実上のマイルドハイブリッド車であった。

試乗は一般道を通ってから、速度無制限エリアもあるアウトバーンへ。200km/h近くでエンジン性能をチェックした。

現地では、「ミスタースカイアクティブ」こと、人見光夫(現:シニアイノベーションフェロー)、また藤原清志氏(現:代表取締役副社長)といったマツダの技術系上層部が勢揃い。

マツダのクルマ作りにかける熱い想い、そしてスカイアクティブXの独創性について様々な側面から意見交換した。

そうしたマツダの実態を知る中で、スカイアクティブXが新たなマツダ3に搭載され量産化されること自体が、自動車産業における偉業だと感じていた。

ところが……。

エンジンだけではない 前部の軽さも

あれから約3年、美祢で体験したプロトタイプに乗ってみると「(初期量産モデルと比べて)これほど違うのか!?」と唸ってしまうほど”まったく別物”になっていた。

マツダ3の主査である谷本智弘氏は、試乗に際して2つのポイントを提示した。

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マツダ3の主査である谷本智弘氏は、試乗に際して2つのポイントを提示。1つは「自在感」。もう1つが「瞬発力」    マツダ

1つは「自在感」。ドライバーの思い通りに、クルマと意思が通じ合える、信頼感がある「相棒」のような存在を指す。

もう1つが「瞬発力」。アクセルに対するeスカイアクティブXの反応が、より敏感になった。

ゆっくり踏むと、描きたい走行ラインをきれいにトレース。強めに踏むと、狙った方向にスパッと行く。

技術的な改良点としては気筒内の燃焼制御を緻密化し、またモーターとスーパーチャージャーの連携を強化、さらにトランスミッションの制御も見直した。

数値的には、最高出力が180psから190psへ、最大トルクは22.8kg-mから24.5kg-mへのアップに留まるが、トルク特性は大きく変わり低回転域から中回転域で「自在感」と「瞬発力」を実感する。クルマ全体の動きのキレが良いのだ。

もう少し踏み込んで言えば、車体の前側が重く感じるフロントヘビーさが消えている。

これは、パワートレインだけではなくサスペンションの改良も加味されていることは明らかなのだが、この点についてプロトタイプ試乗会で技術詳細は開示されなかった。

日本もスカイアクティブXの存在感増

今回の正式発表の中で、ダイナミクス(運動性能)の改良について、フロントスプリングとフロントバンプストッパーの変更、それに伴い前後ダンパーショックアブソーバー)の減衰力も変更したことが明らかになった。

この改良と、パワートレインの改良との「バランス感」が絶妙なのだ。

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eスカイアクティブXのエンブレム。    マツダ

つまり、マツダが現在検討している、初期スカイアクティブXユーザーに対するソフトウェアのアップグレード「スピリット#1.1」だけでは、商品改良された今回のクルマと同じ動きにはならない。

ユーザーはこの点を十分に理解する必要があると思う。

現行マツダ3は2019年5月の開始から直近の2020年9月まで、日本での販売全数に占めるエンジン構成は、スカイアクティブGが69%と圧倒的に多い。次いでスカイアクティブDが25%、スカイアクティブXは6%となる。

ただし、スカイアクティブXが登場した2019年12月以降でみると、スカイアクティブGの比率はそのままで、スカイアクティブXが13%まで伸びている。

ちなみに、欧州でのマツダ3は、税制優遇や購入補助制度などの影響で、スカイアクティブXの販売比率が高い。

日本でもカーボンニュートラル実現に向けた新たなる施策の中で、eスカイアクティブXのさらなる拡販が期待できそうだ。


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