「ネットオークションで落札したビデオデッキが動かない」「オークションで落としたコントローラが不良品だった」。

ネット上には、オークションで不良品を落札してしまったという投稿がしばしばみられる。

弁護士ドットコムにも、「実働バイク」と書かれていたバイクを落札したところ、エンジンがかからない「不働」バイクが届いたという相談が寄せられている。

相談者によると、出品者とは「ノークレーム・ノーリターン」「現状販売」の同意書を交わしたため、このまま諦めるしかないのかと不安を抱えている。

このような同意書を交わした以上、返金を求めることはできないのだろうか。消費者問題に詳しい半田望弁護士は「原則として契約を解除することや、売主の契約不適合責任を問うことはできないが、場合によっては契約が無効になり、返金を求めることは可能」だと話す。

「ノークレーム・ノーリターン」「現状販売」というネットオークションによくあるトラブルの対処法を、半田弁護士に詳しく聞いた。

●「ノークレーム・ノーリターン」「現状販売」ってなに?

ーー「ノークレーム・ノーリターン」「現状販売」とはどのような条項なのでしょうか。

「ノークレーム・ノーリターン」または「現状販売(以下総称して「現状販売」といいます)」とは、目的物に何らかの不具合や問題があった場合でも、売主は返品やキャンセルを受け付けない、という条項です。

ネットオークションやフリマサイトでは、特に個人間の売買においてこのような条項が設けられることが珍しくありません。

ーーなぜ、ネットオークションやフリマサイトでは、このような条項が設けられているのでしょうか。

通常の売買契約では、売主側は契約の内容にしたがい不備のない商品を引き渡す義務を負います。

専門業者が売主となる場合には当然に商品のチェックをして不良の有無を確認しますが、素人が売主となる場合に一切の不具合がないかどうかを確認することは困難です。

特に中古品の場合、売主も予想しない不具合が隠れていることもあり、売主としては予期しない不具合があった場合に責任を負うことは避けたいと考えるでしょう。

そこで、このような現状販売、すなわち「契約不適合責任の免除」および「契約不適合を理由とした解除の制限」条項を入れることが一般的になされています。

契約不適合責任は当事者間に特別の合意がない場合に効力を有する事項(任意規定)ですので、契約当事者の合意で免除することも問題ありません。また、解除事由についても合意で制限することは可能です。

●民法改正で「瑕疵担保責任」→「契約不適合責任」に

ーー「契約不適合責任」とはどのような責任をいうのでしょうか。

「契約不適合責任」は、目的物の不具合や数量不足、品違い等により目的物が契約の目的に適合しない場合の債務者(売主)の責任を定めるものです。

改正前の民法では目的物の不具合がある場合の責任として「瑕疵担保責任」がありましたが、「瑕疵」という言葉が分かりにくいことや、契約責任に関する考え方の変更を受けて今年4月施行の現行民法において「契約不適合責任」という規定に改められました。

これにより契約不適合責任と契約の解除が両方可能とされたほか、代金減額等の規定が新たに設けられるなど、より契約当事者の意思に合致する規定になるよう改正がされています。

ーー目的物に不具合(品物違いや不良品・数量不足など)があった場合、買主は売主に対してどのようなことができるのでしょうか。

このような「契約不適合」があった場合は、売主の落ち度(帰責事由)の有無にかかわらず買主は契約を解除できます(民法(以下、略)564条、541条、542条)。

また、「契約不適合責任」として売主に対し代替物や不足分の引き渡し、または目的物の修補を求めることができます(562条1項)。これを買主の追完請求権といいます。

買主は売主に対して相当期間を定めて履行の追完を請求し、その期間内に履行の追完がなされない場合には代金の減額を求めることもできます(563条1項)。

また、履行の追完が不可能な場合や売主が履行の追完を拒絶する場合など、催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかな場合には、催告なしで代金の減額を請求することもできます(同条2項)。

ただし、契約不適合が買主の責めによるべき事由である場合には代金減額請求はできません(同条3項)。

なお、契約不適合責任は買主が不適合の事実を知ったときから1年以内に売主に通知しなければ行使できません(566条)。

オークションなどで契約を解除できるのはどんなとき?

ーーネットオークションやフリマアプリで売主が落札条件として「現状販売」を掲げている場合は、契約の解除や売主の責任を問うことはできないのでしょうか。

この場合には、買主もそれを了解して売買契約を締結したことになります。そのため、商品にトラブルがあったとしても、原則として契約を解除することや、売主の契約不適合責任を問うことはできません。

ただし、売主が不具合を知っている場合にまで責任を免除することは、いかに合意があったとしても正義に反します。

そこで民法は契約不適合責任について、売主が「知りながら告げなかった事実」については免除の合意があっても責任を免れない(572条)と定めています。解除権の制限については直接の規定はありませんが、同条の趣旨から、同様に売主が不適合を知っていた場合には制限できない、と理解すべきでしょう。   もっとも、売主が不具合を知っていたかどうかは買主からはなかなか分かりにくい部分もありますが、故障箇所などから「通常であれば知っていたはず」と考えることができる場合もあると思われます。

特に「実働品」という前提で出品している場合には、売主が出品前に実働を確認しているはずであり、事前のチェックでは発見できない故障でもない限り、売主が「故障を知らなかった」という主張をしても認められにくいのではないかと考えます。

このような場合でなければ、残念ながら売主が同意しない限り契約の解除や代金の減額・目的物の修補を求めることはできません。

ーー売主である出品者が個人ではなく、事業者だった場合でも返金を求めることはできないのでしょうか。

売主が事業者だった場合は、消費者契約法10条が適用されます。契約不適合責任の免除条項は同条により無効とされると理解されているため、この場合は「現状販売」でも契約不適合責任を問うことができます。

また、消費者契約法8条2項は契約不適合の場合の事業者の責任を免除する規定の効力を否定しています。そのため、解除権の制限も認められないこととなります。

不働品であれば契約目的を達成できない場合にあたりますので、解除して返金を求めることができます(民法542条)し、契約を維持したまま修補や代金減額を求めることも可能です。

●個人売買の際には、慎重な判断を

ーーネットオークションやフリマアプリを利用する場合には、どのような点に注意すべきでしょうか。

個人売買での商品のトラブルは珍しくありません。ネットオークションやフリマアプリでの個人売買を利用する場合には、このようなトラブルが生じ得ることを理解して、それでも取引をする価値があるかどうかを慎重に判断するほかないと思われます。

なお、契約不適合責任における「不適合」があるかどうかは「契約の性質、契約目的、契約に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定める」とされています。

そのため、「現状販売」ではない場合でも、たとえば代金が市場価格に照らして極めて安かったり、商品の写真等から何らかの不具合が合理的に予想されたりするような場合などでは、不具合の内容によっては「契約不適合はない」とされる可能性があることにも注意すべきです。

【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:http://www.handa-law.jp/

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