「やる気」や「目覚め」といった言葉のあとに使う「スイッチ」というフレーズ。多くの場合、そのスイッチは「オン」をするためのものになります。

 しかし、普段の生活では、あえてスイッチを「オフ」したいときもあるもの。そんな「スイッチオフ装置」を作成された方がいると聞き、筆者は「開発者」会いにいってきました。

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 大阪府大阪市北区中崎。大阪市の中でも、古くからの民家が多く残るこの町にて、「開発者」の方の取材をすることになった筆者。大阪メトロ谷町線中崎町駅から、北へ徒歩5分ほど歩を進めたところにある「ギャラリーカフェ きのね」がインタビュー場所となります。

 それにしても、中崎の変貌ぶりには少々驚きました。先述した通り、古くからの民家がひしめき合うのが中崎の特徴。なんですが、実は近年の中崎は、民家そのものは維持しながら、その装いをリノベーション(改装)することで、多くの内装は一変。元ある雰囲気を残しつつ、現代要素も取り入れたレトロ感あふれるものになりました。この変貌ぶりは、在阪メディアでも幾度か取り上げられているのですが、実際に目をすると感銘を受けてしまいました。

 立ち尽くしていても仕方ないので、きのね店内に入ってみると、そこには「ギャラリーカフェ」と銘打っているだけあり、個性豊かな作品がずらり。

 その中にあったのが、今回Twitterで話題になった、「スイッチストラップ」の姿も。全部で10種類以上もの豊富なラインナップを取り揃えています。

 「現物」を目にし、思わず手に取ってみました。そこには、差込口である「コンセント」のデザインが裏面に。「本当のコンセントみたいだ。これに差込プラグを挿入すれば『起動』するのかな?」と、秀逸なデザインに見とれてしまいます。とはいえ「まずは話を聞かないと」ということで、作者である「さば電子氏」の待つ2階へ駆けあがりました。

 2階は座敷スペースになっていました。奥には作者のさば電子氏が待っているはずなのですが?「こんにちは。本日はよろしくお願いいたします」と声をかけてみると……

 小学校でよく見かけた銀のバケツに、白いフードつきの服、そして赤いストールと、どこかのSF漫画に出てきそうなさば電子氏が待ち受けていました。さらに手元には、先ほどの「スイッチストラップ」に、車輪とマイコンのようなものが取り付けられた「ぞうさんのじょうろ」。

 「一体これは何なんだろうか」と筆者は、浮かび上がる数多の疑問をまずはいったんシャットアウトしつつ、「さば電子」氏こと「さばかん」氏に話を伺いました。

■ 自分が面白いと感じたものを作っている

――本日はよろしくお願いします。ところでこのじょうろは一体……?

 さばかん氏「よろしくお願いします。これはぞうさんって言います。ちなみに動くんですよこれ。(タブレット端末から操作をして動かす)」

――こりゃスゴイ!どういう原理で動いているんですか?

 さばかん氏「内蔵している通信モジュールを、マイコンで操作する仕組みですね。他にも色々な画面が出せますよ。(様々な画面を起動してもらう)」

――QRコードつきのTwitterアカウントやInstagramまで!これもぜひ記事にしたいやつです!

 さばかん氏「ありがとうございます(笑)ちなみに、この赤いやつは7代目なんです。『初代』は5年前に制作して、いずれも、同じメーカーさんが販売している『ぞうさんじょうろ』で作りました(スマホ画面で今までの作品群を見せてもらう)」

――5年も!?機械工学の世界だとかなり大きい変化じゃないですか?

 さばかん氏「そうなんですよ。使用パーツとかも本来は大きく変わります。ぞうさんに関しても、初代が『ラジコン』なら、7代目は『ロボット』くらいの違いはあります。でも『ぞうさんシリーズ』は、使用している部品は同じで互換性は高いんです。5年という期間でも、『古い→新しい』のパーツ互換は、そこまでハードルは高くないんですが、『新しい→古い』のパーツ互換が出来るのがこれの強みですね。ぞうさんだけに『増産』可能です(笑)」

――上手いこと仰る(笑)それにしても、構造はハイテクなのに、見た目の親しみやすさもあって、多くの人が興味をひく作りになっていますね。

 さばかん氏「そこはかなり意識しています。『ロジック』で作ったものって、誰しもがやっていることで『目新しさ』が得づらくて。なので私が作る作品は、『意外性』や『オリジナリティ』を重視しています」

■ 身近なもので面白いものを作る

――それでは、さばかんさんのご活動についてお話いただけますでしょうか。名刺には「バケットガーデン」という記載がありますね。

 さばかん氏「『バケットガーデン』は、電気と機械で遊ぶ活動をしている『ものつくりサークル』で、『さば電子』というのは、アーティストとしてのソロ活動用の個人名義なんです。各々のメンバーが、自分の面白いものや好きなものを作っていて、イベントに出展したりしています。ただ現在は、新型コロナの影響で、SNS中心の活動で主に動画で配信しています(参加したイベントの様子を見せてもらう)」

――これだとイメージしやすいし、分かりやすいですね。しかしこのバケツのお面?で良いんでしょうか。実に個性的です。何かコンセプト的なものはあったんですか?

 さばかん氏「いや、特にないんですよ(笑)ただ、私の作る作品って、『そこいらにあるもの』を材料にしているんです。もちろん電子的な部分は専門的なものですが、『外観』になるものは、誰でも容易に手に入るものにしています」

――なるほど。確かに「スイッチストラップ」も含め、見た人が一度は手にしたことがあり、イメージしやすいものです。さばかんさんは、「ジャンク屋」といったところでしょうか?

 さばかん氏「あーそんな感じかも?見ている人に、分かりやすく伝えるということは重要視してますね」

■ きっかけは「カチカチ感」

――さて、本題のスイッチストラップです。

 さばかん氏「実はこれ、『オフ状態』が“デフォ”なんですよ」

――確かに、カロリー「オン」というのはおかしい(笑)

 さばかん氏「そしてこれ、ウチ(バケットガーデン)のメンバーの『願望』がきっかけです(笑)あと、このスイッチの『カチカチ感』が私好きで(笑)」

――確かにこの感触はクセになりますね。それにしても、どのアイテムも願わくば「オフ」であってほしいものばかり。ちなみに、このストラップはどのような構造なんですか?

 さばかん氏「これは、市販されている『本物』の電気工事用のスイッチを加工して作りました。『ネーム部分』に関しては、『ネームスイッチ』という種類のスイッチを使用しました。本来は、『お手洗い』『寝室』『玄関』といった部屋のネームカードに入れて使用します。それと、ちょうど私が『電気工事士』の資格を取るタイミングでして、それを手に取る機会があったというのもありました」

――「カチカチ感が好き」というのは、そういう背景もあったからなんですね。そういえば、きのねさんの店内に入ったとき、販売されていました。

 さばかん氏「『スイッチストラップ』シリーズは、ネット通販でも販売してるんです。これが、専用のパッケージに包装した『EC(通信販売)』版です」

――しっかりと包装されていますね。それにさりげなくデザインも。SNS上での一連の反響で、影響もお有りになったのでは?

 さばかん氏「一部のアイテムは、売り切れになりました」

――売り切れとはスゴイ。「SNS効果」恐るべしですね。

 さばかん氏「ホントそう思いますね。あ、せっかくなんで、きのね店内もご紹介しますよ」

――本当ですか!?ありがとうございます。

 そんなわけで、大方の話が終わった後、筆者はさばかん氏に連れられ再び1階へ向かい、今回の取材場所である、きのね店主に引き合わせていただきました。元々さばかん氏とは「常連客かつ常連作家」ということで、今回取材を申し込むにあたっても快くご対応いただいたのですが、折角の機会ということで、「きのね」についても詳細を伺うことに。

 冒頭でも触れましたが、きのね店内は、少々手狭なスペースながらも、さばかん氏の「スイッチストラップ」以外にも、楽器の「シンバル」で作ったアート作品や、レジンで作ったハンドメイドといった作品が店内に陳列。シンバルに関しては、形状の「名残」は残しているものの、全く違った様相のものとなっています。

 また、1階2階いずれのスペースには、様々な絵画の姿もあり、まさに「ギャラリーカフェ」との名の通りの展示品。

 さらには、きのねにて過去開催された作品展である、「牛乳パック展」「エビフライ展」についてもお話しいただくことに。店主曰く、いずれも「とりあえずやってみよう」といった感じで開催され、「牛乳パック」「エビフライ」という「題材」も特に深い理由はないとのことです。

 「どんな作品を作ったんだろう」と気になった筆者でしたが、残念ながらきのね店内にその姿は見当たらず。そこに、横で話を聞いていたさばかん氏が、「あとでお送りしますよ」と、自宅に保管している作品画像を送っていただくことに。後日、お送りいただいたそれは、形状は「牛乳パック」ではあるものの、両サイドにコンセントの差込口のついた「配線接続器牛乳パック」に“変貌”。さばかん氏の独創的な発想力に改めて感嘆いたしました。

 余談ですが、さばかん氏含めて、きのね店内にいた方は、いわゆる「若手クリエイター」と呼ばれる方たち。どの方も、自らの作品などを楽しそうに語らい合っているのが、今回とても印象的でした。

 関西的にいう「おもろいものを作る」ことに特化しているからか、確かにその作品は、専門的な技術やノウハウを取り入れているものの、いずれも「見る人が興味をひくもの」。

 商売となると、色々と「すり合わせ」が必要になってくる部分もありますが、マーケティングの仕事にも従事している筆者から見れば、彼らの持つ「熱」は余人に代えがたいものでもあります。今回の取材で、大いに刺激を受けたことを、最後にこの記事を読んでいる方にご報告いたします。

<取材協力>
さば電子@ぞうさんじょうろ飼い主さん(@Zo3_ERC)
カフェギャラリー きのねさん(@kinone_cg)

(向山純平)

材料は身近なもの SNS上で話題の「おもしろ作品」開発者に話を聞いてきた