新型コロナウイルス感染者11月18日に全国で初めて2000人を超え、過去最多を更新しました。菅義偉総理は11月20日に行われた全国都道府県知事会議で「感染拡大地域では原則4人以下で飲食をすることについて検討を要請している」と話しました。

 これを受けて、各都道府県、そして、企業でも「会食4人以下」というルールが設けられていくに違いありません。しかし、このルール、取り扱いを一歩間違えば、組織運営を危うくすることになりかねません。その典型的な事例がプロ野球チームの阪神タイガースです。

ルールの有名無実化で組織崩壊

 阪神タイガースでは、不要不急の外出は控える状況下にあった3月に12人が食事会に参加し、藤浪晋太郎投手ら3人に陽性反応が出ました。その後、「会食は4人以下」という内規がチームとして設けられたにもかかわらず、9月には、福留孝介外野手をはじめ8人が会食。その後、チーム内では5選手の感染が判明し、濃厚接触者を含めて10人が出場選手登録を外れることになったのです。

 そして、こともあろうに、矢野燿大(あきひろ)監督が内規の4人以下を大幅に上回る人数の選手やスタッフと会食をしたことが10月、夕刊紙やスポーツ紙によって報じられています。球団は「事前に許可をしているのでルール違反には当たらない」とし、メンバーや人数など詳細は明らかにしていません。

ルール破りで選手の意欲が低下

 これは「会食4人以下」のルールが有名無実化する典型例です。内規といえどもルールであるのに「事前に許可があれば違反してもよい」という曖昧な取り扱いをしているわけですから、ルールが守られるわけがありません。

 ルールは組織を統率する重要な役割を果たしますが、「会食4人以下」という1つのルールが有名無実化すれば、他のルールを徹底しようとしても抑止力が働かず、組織の統率力は一気に低下してしまいます。

 そもそも、「会食4人以下」のルールは感染拡大を抑止して選手の安全を守るとともに、感染による選手の出場機会逸失や球団のビジネス縮小といったリスクを防ぐことが目的であるはずです。

 このルールを組織のリーダーである矢野監督が守らなかったということは、矢野監督は「選手の安全に配慮しません」「選手の出場機会が失われてもよいと考えています」「球団のビジネスが滞っても問題ありません」と言っているようなものです。球団が事前に許可を出したということは、球団そのものがそう言っているようなものです。

 組織のリーダーに、こう言われていることに匹敵する行動を取られたら、「リーダーについていこう」という気持ちが低下するのは当たり前です。リーダーシップは機能しなくなり、組織として機能しなくなり、ひいてはメンバーのモチベーションも低下し、パフォーマンスが上がらなくなることは目に見えています。

処分されないことの不幸

 こうした状況下でも組織を機能させるには、どうすればよいのでしょうか。

 1つはしっかりと、そして、公平に処分することです。処分することによって、内規違反については一件落着として、十分に反省をして心機一転再スタートを切ることができるようになります。しかし、球団はここでも間違いを犯しました。福留選手らには制裁金を科したにもかかわらず、矢野監督らには制裁金などの処分をしませんでした。

 処分の公平性を欠くこと、また、矢野監督が処分の機会を得られなかったことが再スタートを阻んでいます。ここまでくると、人の入れ替えによる再スタートしか組織再生の道はないというレベルだと言わざるを得ません。矢野監督交代論が収まらないのは当然のことと思えます。

「会食4人以下」というたった1つのルールといえども、ルールの有名無実化は組織の統率力を低下させ、組織本来の目的を損なうようなメッセージを伝え、リーダーや組織が機能しなくなるという深刻な事態を招きかねません。このことは阪神タイガースだけでなく、どこの企業でも、組織でも起こりかねないことなのです。

モチベーションファクター代表取締役 山口博

矢野燿大監督(2020年6月、時事)