第2次世界大戦中、イギリス海軍が用いた空母搭載機は、艦上戦闘機にしろ艦上爆撃機にしろ、愛称の付与について、ある一定の規則性がありました。それは魚雷を積む艦上攻撃機にも、もちろんあったのですが…

敵艦撃沈の切り札だった航空雷撃

今日、対艦攻撃兵器といえば誘導ミサイルや誘導爆弾が主流ですが、第2次世界大戦当時は無誘導の爆弾と魚雷による攻撃が基本でした。特に艦船の水線下に孔を穿って浸水させる魚雷は、命中すれば爆弾よりも敵艦に致命傷を負わせることができるため、航空機への搭載も早い段階で考えられるようになります。そのような流れから、魚雷を積んで敵の艦船を空から攻撃できる艦上攻撃機は、空母搭載機として早い段階から各国とも力を入れていました。

なお、魚雷は推進装置を内蔵するため、爆弾と比べると一般的に大きく重いです。そのため、艦上攻撃機は大きな積載能力が求められます。そこで魚雷に替えて予備の燃料を搭載すれば航続距離を延ばすことができ、しかも乗員もパイロット以下2~3名が乗っているので「目視偵察」も効果的に行えるため、艦上偵察機の代用としても多用されました。

このような理由から、空母を実戦に投入した各国とも、艦上攻撃機を重要なマルチロール(多用途)機として用いていたのです。

第2次世界大戦で空母を実戦に投入した国はイギリス、アメリカ、日本の3か国のみでしたが、そのなかで前出した艦上攻撃機に関して、イギリス機はある法則性を持って愛称が付与されていました。

見事に魚の名前ばかり イギリスの艦上攻撃機

日本海軍の艦上攻撃機の場合は、太平洋戦争前に制式採用された機体は採用された年(これは時期によって和暦と皇紀で異なる)の末尾ひと桁もしくはふた桁から「〇〇式」と呼ばれるのが一般的です。ただ開戦後に制式化された機体は、後に制定された海軍機の命名付与基準に則り、魚雷を運用する攻撃機には「山」を使うというところから、たとえば「天山」と名付けられています。

一方、アメリカ海軍の艦上攻撃機の場合、アルファベットと数字からなる制式番号、いわゆる「型式」が付与され、それに加えて「デヴァステイター」や「アヴェンジャー」などの愛称が付けられました。

それらに対し、イギリス海軍では第2次世界大戦前夜から、雷撃能力を備える艦上攻撃機には、魚の名称を与えるようになりました。

フェアリー社が開発した艦上攻撃機には「ソードフィッシュ」や「アルバコア」、「バラクーダ」といった名称がつけられましたが、これらはそれぞれ「メカジキ」「ビンナガマグロ」「カマス」といった魚種の英名です。

さらに、第2次世界大戦が終結したため試作のみで終わった同社の「スピアフィッシュ」も魚の「マカジキ」の英名であり、いずれも外洋性の回遊魚の名前が与えられています。また、アメリカから輸入したグラマン製のTBF/TBM艦上攻撃機にも、アメリカが付けた名称「アヴェンジャー」とは別に、イギリス海軍は独自に「ターポン」という愛称を付与しました。ちなみに「ターポン」とは「タイセイヨウイセゴイ」の英名です。

複数人乗りの艦上攻撃機の終了で魚名の艦上機も消滅

とはいえ、第2次世界大戦の末期になると、レシプロ・エンジンの著しい出力向上により、艦上戦闘機と艦上攻撃機を兼ねる機体も登場するようになりました。ゆえに純粋な艦上攻撃機ではないことから、そのような能力を持って生まれた艦上戦闘機攻撃機である、ブラックバーンファイアブランド」(松明または扇動者、火付け役)およびウェストランドワイヴァーン」(空想上の翼竜)は、どちらも魚の名前を付けられていません。

なぜ魚の名称を与えるようになったかについては、はっきりとした理由は不明であるものの、筆者(白石 光:戦史研究家)が考えるに、ソードフィッシュ以降、イギリス海軍の艦上攻撃機フェアリー社が連続して開発しているため、同社における命名の方針も影響していたと思われます。それに加えて、英語圏では魚雷の俗称が魚を意味する「フィッシュ」なので、このことも関係しているのかも知れません。

だからなのか、イギリス海軍第2次世界大戦後に開発された誘導魚雷に「タイガーフィッシュ」(アフリカ大陸に生息するタイガーフィッシュ)や「スピアフィッシュ」(マカジキ)の名称をそれぞれ与えています。

なお、「スピアフィッシュ」魚雷は2020年現在、イギリス海軍で現役運用されています。「スピアフィッシュ」は前出したように、試作で終わったものの一連の魚名がつけられた艦上攻撃機と同一名称なので、ある意味、いまでもしっかりとイギリス海軍のなかに、魚名を命名に利用する概念は受け継がれているといえるのかもしれません。

イギリス海軍の艦上攻撃機、フェアリー「ソードフィッシュ」。複葉の古色蒼然とした機体ながら第2次世界大戦では全期間にわたり多用された(画像:イギリス帝国戦争博物館/IWM)。