フルパワーで放たれる歌声と渾身のパフォーマンス。何よりそのド級の熱量に、何度息を呑み、目を見張ったことだろう。そんなものはなから存在していないと言わんばかりに画面を突き抜け、配信ライブの枠をも飛び越えて、観る者の眼前に迫ってくる。日々の鍛錬により仕上げられた分厚い胸板、躍動する筋肉。天を突く拳、カメラに向かって真っ直ぐに差し伸べられた手は、画面の向こうにいる一人ひとりの心をしっかりとつかんで引き寄せんとするかのようだ。11月21日にオープンした日清食品 POWER STATION [REBOOT]、同会場にて3日間に渡って開催されたこけら落とし公演“『日清食品 POWER STATION [REBOOT]』こけらおとし 3DAYS (OPENING SPECIAL NIGHT)”、その記念すべき初日のステージに立った西川貴教の圧倒的歌唱力と存在感は、生まれ変わったPOWER STATIONの新たな歴史の幕を見事に切って落とすと同時に、コロナ禍に塞ぐ人々の心をも確かに奮い立たせたに違いない。歌を、その声に込めた想いや祈りを、全身全霊をかけて届けんとする勇姿。それは重く垂れ込めた暗雲を割るほどのエネルギーに満ちて、さらにはその雲間から射す光そのものにも思えた。

取材・文 / 本間夕子

◆日本初の配信型ライブハウスプラットフォームとして、約22年ぶりに“[REBOOT](再起動)”した日清食品POWER STATION [REBOOT]

ここで“日清食品 POWER STATION [REBOOT]”について簡単に説明しておこう。前身となるのは、1988年から約10年間東京・新宿区に所在し、“パワステ”の相性で親しまれた伝説的ライブハウス、NISSIN POWER STATION。そのパワステを、ニューノーマルが叫ばれる今の時代に呼応すべく日本初の配信型ライブハウスプラットフォームとして、リアルのバンド、アーティストはもちろんVチューバーバーチャルアイドルなど、次元を超えた幅広いラインナップで展開されるライブを、スマートフォンやパソコンを通じて体験できる場となって、約22年ぶりに“[REBOOT](再起動)”したのが日清食品 POWER STATION [REBOOT]というわけだ。配信に特化した無観客ライブハウスがコンセプトとあって、独自のシステムが多々導入されており、なかでも特徴的とされるのが、ステージ後方に設置された巨大な透過型LEDパネルと、床一面に敷かれたLEDフロアパネル。これらを駆使した立体的な映像表現には驚かされた。壮大な映像から幻想的なもの、ワイルドにもキャッチーにもことごとく対応して、唯一無二の世界を創り上げる西川貴教がこけら落としの一発目を飾ったことで、その凄さをよりいっそう視聴者に印象付けることができたのではなかろうか。

◆堂々たる足取りで、ライダースのセットアップに身を包んだ西川が姿を現す

開演時刻の19時を回るとカウントダウン映像に切り替わり、画面が暗転。OvertureSINGularity」の荘厳な調べが鳴り渡るなか堂々たる足取りで、ライダースのセットアップに身を包んだ西川が姿を現した。左手を高く掲げ、短く息を吐くのを合図に演奏が迸る。日清食品 POWER STATION [REBOOT]に轟いた最初の歌は「Roll the Dice」だった。彼の太く伸びやかな歌唱は重厚なアンサンブルにも全くもって呑まれることなく、むしろそれを凌ぐ出力で場内の空気をダイナミックに震わせているのが、デバイスにつないだスピーカー経由でもはっきりと伝わってくる。曲中、「行くぞ!」とマイクを握った拳を突き上げ、画面の向こうにシンガロングを誘いかける西川。続く「His/Story」でも“Wow…”のコーラス前に「いけるよな!」と耳に手を当てる仕草をしては直後、「聴こえてるよ」と笑みを浮かべ、「俺にはオンラインとか関係ねぇぞ。さあ、歌えよ!」といっそう煽り立てるのだからたまらない。場を共にできずとも俺たちはつながれる、一つになって共鳴し合えるんだと証明してみせるかのように、西川の歌にもますます熱が帯びてゆく。

「ぶっ放そうぜ!」と突入した「REBRAIN In Your Head」では、エフェクトのかかったボーカルと生の声との絡み合うような押し引きで、スリリングかつアグレッシブに駆け抜けたかと思えば、「Hear Me」では切実なまでに真っ直ぐな歌声を飛ばして「失うばかりの1年でした。できなかったこと、叶わなかったことも多かったけど、でも俺たちだったらこれから先、必ず変えられる。そう信じて、この想いをこの声に換えています。届けよ…」とメッセージを視聴者に手渡す。そうして歌い上げられた“ミライを描きながら”という一節の、なんと力強いことか。「書いた当時は思いつかなかった歌詞の意味を改めて今、感じています」と明かしてなだれ込んだ「HERO」、明るく開かれたサウンドに乗って届く一語一句はまさに彼の言う通り、今この状況であるがゆえの意味を含んで聴こえてくる。ここで感じ取ったその“意味”は、きっと今のこの状況を切り拓く推進力となるはずだ。そんな確信めいた想い、勇気に似た感情が、俄然沸き立つ。西川貴教の歌、音楽はやはり、人を鼓舞する力を宿しているようだ。そして、それは配信であろうと決して損なわれないのだと、この日改めて知らされた。

◆「彼女と一緒にやれたことで本当にいろんな刺激を受けました」と、ゲストアーティストにASCAを呼び込む

「2月から全くライブができないまま、今年ももう11月。そんななか、こけら落とし初日という素晴らしい日に西川貴教を選んでくださった関係者の皆さん、間違いない! 本当にありがとうございます!」

折々にメッセージを挟みながらも、ほぼノンストップ状態で7曲目「UNBROKEN(feat. 布袋寅泰)」まで畳み掛けた後の、やっとのMCでそう冗談めかしつつ感謝の意を表した西川。9月には自身が主催するイベント“イナズマロック フェス”をオンラインで開催した彼だが、バンドメンバーを擁してのライブは実に9ヵ月ぶり、このステージに懸ける意気込みにも並々ならぬものがあっただろう。ついつい脱線しがちなMCにも喜びが滲んでいる。思うような活動はなかなかままならなかったものの、リリース作品では様々なコラボレーションができたのが印象的だったと今年を振り返り、「彼女と一緒にやれたことで本当にいろんな刺激を受けました」と、ゲストアーティストにASCAを呼び込む一幕も(視聴者からは歓喜のコメントが殺到、チャットシステムと連動してステージ上のLEDパネルに次々と表示されていくのが斬新だが、これも日清食品 POWER STATION [REBOOT]ならではの新機能の一つだ)。2人は、今年5月に”西川貴教ASCA”としてシングル「天秤-Libra-」をリリース、本来ならばそれに先駆けた3月のイベントで初披露される予定だったが、コロナの影響で中止になってしまったという。「なので11月にこの歌を歌えるとは思ってなかったので本当にうれしいです」と声を弾ませるASCAに、西川も「せっかくこうやって場所を与えていただいたわけですから。思いっきり歌って届けていこう!」と提案。ついに「天秤-Libra-」の生共演が実現した。ASCAの白いドレスと西川の灼けた肌のコントラストを、歌詞の“白か黒か”になぞらえて和気あいあいと笑い合っていた2人だが、いざ曲が始まれば真剣勝負。お互いに一歩も退かない迫力と息ぴったりな掛け合いで、楽曲の世界を体現してみせた。

◆「これだけ苦しい想いをしたんだもん、今度はめちゃくちゃハッピーなことが世界中に起きるはず。だから、それまでみんなで生き抜きましょう」

ASCAを送り出した後は、これまた今年のコラボレーション曲、J×Takanori Nishikawaの「REAL×EYEZ」「Another Daybreak」を立て続けにパフォーマンス。「REAL×EYEZ」のタフな疾走感、「Another Daybreak」にみなぎる朗々たる生命力。画面に食い入っているだけで明日への活力がみるみるチャージされていくように感じられたのは筆者だけではあるまい。

「みんなの声をこうやって文字で見ることになるなんて思わなかったし、去年の今頃は世界がこんなことになるなんて誰も思ってもいなかったことが起きて、そんな状況のなか、自分ができることは何かなってもう一回考えたりすることも多いんですけど……そうしたなかでも、誰かのことを想って生きていく瞬間ってすっごく素敵なことだと思うんです。例えば今、みんながやってくれていること、3連休の大事な時間にこうやって家とかでこのオンエアを観てくれてるわけじゃないですか。それって充分、感染症対策だったりすると思うんですよ。僕はそういうみんなの想いがきっと報われて、次のデイブレイクを迎えられると信じているし、その想いをこういった形を通して伝えることができて本当によかったです。これだけ苦しい想いをしたんだもん、今度はめちゃくちゃハッピーなことが世界中に起きるはず。だから、それまでみんなで生き抜きましょう」

画面の向こうにそう語りかけ、ラストに初披露となる新曲「As a route of ray」をプレイ。3周年を記念したコラボレーション・アーティストとして、西川がゲームに登場する美少女キャラクターに扮したCMも大きな話題を呼んだスマホゲームアプリ『アズールレーン』の曲を生で聴けるとは! 間奏で激しく頭を振り、咆哮する西川のテンションも最大級に振り切れ、最後の最後には一糸まとわぬ上半身を惜しげもなく晒して、なおも勢いを加速させる。当然ながら視聴者も大興奮、チャット欄はこの日いちばんの大盛り上がりを見せてクライマックスを迎えた。

◆「パワステ」と西川とのコラボレーションが生んだ化学反応は、配信ライブの可能性と新たな選択肢としての魅力を明示した

終演後に設けられたアフタートークで西川は、当時組んでいたバンドでNISSIN POWER STATION時代のステージに立った思い出を語り、さらに、1時間という長い尺で行うオンラインライブは今回が初めてであること、そのため、始まるまではどう楽しめばいいのかと頭の中でシミュレーションをしていたことを告白。「でも、めちゃくちゃ楽しかったです。オンラインってどうしてもお客様が見えないので閉鎖的な感じに思えちゃうけど、この会場はこうやってたくさんメッセージをもらえるので」と言葉を続け、久々のライブをしっかり堪能できたと笑顔で明かしていた。

コロナ禍の収束は残念ながらまだしばらく先になるのだろう。ライブの醍醐味とは、言うまでもなくアーティストとオーディエンスが一体となって空気を作り上げていくことにあり、配信ライブがそれに取って代わることはおそらくないだろうと思う。だが、新しい表現の形、新たなコミュニケーションの場として、ますます進化を遂げていくことは間違いない。今回、日清食品 POWER STATION [REBOOT]と西川貴教とのコラボレーションが生んだ化学反応は、配信ライブの可能性と新たな選択肢としての魅力を明示したのではないだろうか。

◆2020年11月21日
日清食品 POWER STATION [REBOOT]』こけら落とし3DAYS
DAY.1(OPENING SPECIAL NIGHT)

〈SET LIST〉

M00. SINGularity
M01. Roll the Dice
M02. His/Story
M03. REBRAIN In Your Head
M04. Hear Me
M05. HERO
M06. Elegy of Prisoner
M07. UNBROKEN(feat. 布袋寅泰
M08. 天秤 -Libra-
M09. REAL×EYEZ
M10. Another Daybreak
M11. As a route of ray

西川貴教 伝説のライブハウス「パワステ」復活を祝う全身全霊のパフォーマンスは、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press