今年9月に航空会社ピーチ・アビエーション旅客機内でマスク着用を拒否した男性が11月、自身のブログで、長野県内のホテルでマスク着用をめぐり、宿泊拒否のトラブルが生じたと明らかにして話題となっている。

ブログによれば、男性は11月18日から、「Go To トラベル」を利用して、宿泊する予定の長野県にあるホテルを訪れた。ところが、マスク着用をめぐり、またもトラブルが発生。男性はホテルの夕食会場にマスクを着用せず入場し、係員のマスク着用要請も拒否したという。

弁護士ドットコムニュースの取材に応じたホテル側によれば、ルールを守ってもらえないとして、食事していた男性に、返金のうえ、宿泊そのものをお断りすると告げた。これに対し、男性は「旅館業法上、そんなことはできない」と主張したという。

その後も収拾がつかなかったため、ついには警察が出動する事態に発展した。結局、調書作成などの警察対応が深夜におよんだため、男性はホテルに宿泊。宿泊費も支払ったという。

ホテル側は、男性に対して当初「今後の宿泊を一切お断りする」と告げたことを認めたうえで、今後について「食事の提供方法などはグループホテル内ですべて統一しておこなっている。(男性の利用は事実上)難しいと考えざるを得ない」とし、マスク着用のルールを守ってもらえなかった点を重視しているようだ。

新型コロナウイルス感染拡大が続く中、ホテル側としては、利用客が安心して宿泊できるよう万全の対策をとりたいところだろう。マスク着用拒否を理由に、宿泊を拒否することはできるのだろうか。齋藤裕弁護士に聞いた。

●マスク着用拒否は「風紀を乱す行為」にあたりうる

——マスク着用しないことを理由にホテル側は宿泊拒否できるのでしょうか。

旅館業法5条は、(1)伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められる場合、(2)違法行為または風紀を乱す行為をするおそれがあると認められる場合、(3)宿泊施設に余裕がないとき・その他都道府県が条例で定める事由がある場合――を除いては、宿泊を拒んではいけないとしています。

新型コロナウイルス蔓延防止のために宿泊客のマスク着用が強く求められる状況ですし、旅館業法は宿泊施設に衛生確保を求めています。

したがって、食事会場などでマスクを着用しないことは(2)「風紀を乱す行為」に該当すると解釈できます。ホテル側が宿泊を拒否することは、旅館業法に違反しないと考えます。

——宿泊拒否にともなう法的な問題点は、ほかにもありますか。

マスク着用の有無で宿泊客を区別することが、憲法14条(法の下の平等)の趣旨に反しないかどうかが問題となります。

この点、憲法14条が禁止する「人種や性別等」による差別ではなく、マスクを着用しない人を宿泊させないことには衛生上合理性があることなどから、マスクを着用しない客の宿泊を拒否することは憲法14条の趣旨に反しないと考えます。

——男性はブログで、「宿泊拒否は『強要罪』に該当する」と主張しているようです。

強要罪は、人に危害を加えると伝えたり、暴行・脅迫がなければ成立しません。宿泊を拒否すると伝えただけでは強要罪とはならないでしょう。

——食事会場で起こしたトラブルがホテルに対する威力業務妨害罪などに該当することはありますか。

威力業務妨害罪が成立するためには、「威力を用いる」ことが必要とされます。「威力を用いる」とは、暴行・脅迫をしたり、地位・権勢の利用をするような場合を言います。

単に食事会場に入ろうとしたとか、出ようとしなかったというだけでは、威力業務妨害罪は成立しないと考えられます。

●約款や利用規約でマスク着用を定めることも有効

——今後、同種のトラブルを避けるため、ホテル・旅館などはどのような対策をすべきでしょうか。

多くのホテルはすでにおこなっているでしょうが、原則、マスクの着用が必要であることをしつこいくらい、かつ、わかりやすく周知することが重要です。

宿泊予約の際にマスク着用について了解を取る運用を行う、約款や利用規約でマスク着用について規定するなどの対策も有効だと思います。

【取材協力弁護士】
齋藤 裕(さいとう・ゆたか)弁護士
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。サラ金・クレジット、個人情報保護・情報公開に強く、武富士役員損害賠償訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブル相談ハンドブック』(新日本法規)など。
事務所名:さいとうゆたか法律事務所
事務所URL:https://www.saitoyutaka.com/

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