皆さん、ボンジュール

 ゲームをはじめとした日本のエンターテインメントをフランスに紹介している、パリ在住のライター、グレグです。

 ついに次世代機、プレイステーション5Xbox Series X/Sが発売となりましたね。

 日本でも購入に苦労していると聞いていますが、フランスはまた違った問題がありました。今回はそのことに関して、書かせていただきます。

取材・文/グレグ


ゲーム史上もっとも「異変」となった次世代機ロンチ

 年末最大の話題である次世代機がフランスでも発売されて1週間が経ちました。フランスでは、世界同時発売となったXbox Series X/S11月10日プレステーション5はアメリカと日本より1週間遅れての11月19日の発売でした。

 自分もフランス人でいながら、スーファミ時代からのベテラン(おっさん?)ゲームライターですので、いろんなゲーム機の発売日を体験したと自慢するのが嫌いではありません。ですが、ベテランくさい言い方に聞こえるかもしれませんが、今回の次世代機のロンチは、ゲームの歴史の中でもっとも「異変」と言えるものでした

1998年11月27日秋葉原で行われたセガ湯川専務が手渡しでドリームキャストを販売するという店頭イベントでの記念写真。左に映るのが私です。湯川専務との握手は、いまは遠い思い出ですね。

 「異変」の理由はもちろん、新型コロナウイルスのせいです。

 日本や東南アジアは昔から、たとえばインフルエンザに対しても大人っぽく対応していて、文句を言わずにマスクを付けたり、手をちゃんと洗ったりしています。新型コロナウイルスの感染拡大に関しても、ハグやキスという行為が常識外な社会ですからロックダウンまでにはいたっていません……。ですが、陽気で、スキンシップ好きで、デモを好むフランスはぜんぜん違います!

 11月のいま(原稿執筆時)、感染拡大のためフランスは第2ロックダウンの真っ最中でした。近未来的・軍事的な小説をよく読む人なら想像できると思いますが、「ロックダウンとは?」ということをまず説明させていただきます、ウイ。

 具体的には、特定の条件を満たさない外出は禁止です。すなわち、学校の行き帰りや食料や生活必需品の買いもの、介護が必要な親戚の手伝い、ペットの散歩、許可済みの通勤以外の外出は、基本的にダメです

 お店も「差別」されていて、営業可不可が政府に決められました。たとえば、食料を販売するスーパー、肉屋、チーズ屋、八百屋は可ですが、人が集まって長時間密着するレストランやバーは不可(持ち帰りなら可)。そして生活に必要な物を販売するお店もある程度は許されました。リモートワークに必要なパソコンやその周辺機器を販売するお店は可。

 ですが、ゲームや本などは生活必需品ではないので本屋もゲーム屋も「不可」にされました。「ワイン屋やタバコ屋が可なのに!?」と矛盾を突っ込んだフランス国民の怒りを避けながら、政府はその決意でロックダウンを進行しました。

 ゲームや本「も」扱うスーパーや家電屋は営業を続けられることになるので、専門店に対してアンフェアになると判断し、政府はスーパーや家電屋での生活必需品以外の販売は禁止としました。

Twitterで本やゲームの買えなくなったスーパーの状況をシェアする(プンプンな)ユーザーも多かったです。

 Xbox Seriesの発売日となる11月12日が迫ったころ、夏ごろに予約をしていたゲーマーたちが不安に陥りました。生きがいを失うかのように人類の未来を心配するよりも「年末に4K120fpsで新作が遊べるのか?」と不安にかられるようになったのです(ゲーム好きなら、共感できますよね)。

 というわけで、ロックダウン中、次世代機を最速で入手する手段はふたつしかありませんでした。

1. お店で事前に予約をして、当日にピックアップする。
2. Amazonなど、オンラインサイトで予約をして、当日に届くように祈る。

本体が買えなくても「戦利品としてコントローラーは買った」と報告する人がSNSで見受けられました。写真は日本でも人気のあるRazerの新コントローラー、Wolverine V2。

 そもそも新型コロナウイルス感染拡大の影響で、発売日に用意された台数が少なかったわけです。PS5は予約段階で完売となり、Xbox Series X/Sもほぼ完売でした。「いつものように」当日地方のスーパーやゲーム屋を訪れて並んで買うという「狩り」もできず、各ストアのサイトでキーボードのF5を連打しながら祈るしかなかったのです。

PS5が欲しすぎて、発売日にSNSでドヤ顔をするために、InstagramではPS5の箱を写真に合成するフィルターも作られていました。PS5が買えなくても「PS5ゲット」映えができちゃいます

 新型コロナウイルスの影響を受け、多数の会社が倒産するなど不況が続く中、ゲームのことを考える余裕や、日本円で50000円以上(欧州ではPS5スタンダードエディションは499ユーロ、デジタルエディションは399ユーロ。Xbox Series S299ユーロ、Xbox Series Xは499ユーロ)もする次世代機を買う余裕はないのでは? という考えもありますが、結果としてフランスではPS5Xbox Series X/Sともに全機種完売でした。

 日本人の考え方はわかりませんが、フランスでは辛い日々から逃亡するために、何かに夢中になりたい気持ちでいっぱいです。そして、ロックダウンのせいで軽い気持ちの買い物もできないからこそ、自分に「いい物」を買いたい、もしくは「がんばった自分へのご褒美」をしたいという気持ちを抱くことは珍しくはないのです。

フランス最大のゲームチェーン店Micromaniaの「持ち帰り」を説明するパネルです。予約したお店にゲーム機が届いたら「指定された日時にお店を訪れて持ち帰ってください」というもの。

倉庫が襲われて次世代機が奪われる事件も

 499ユーロは日本円で62000円ぐらいです。高価な商品ですので、フランスでも転売屋に目をつけられてしまいました。また、サービスのよい日本では考えられないと思いますが、フランスでは珍しくない、オンラインで注文した商品の失踪も問題になっています

 SNSではバイトの宅配業者が郵便物の中身を見たり盗んだりするところを撮影した、防犯カメラの写真や動画が流れています。Amazonなどで注文したら盗まれる、横取りされると心配した方も多かったです。

 若者たちに大人気で、新しいiPhoneと同じくらいのステータスがあり、高級な商品の印象が強いPS5フランスではPS5発売前日にSNSで提供されて話題になった映像があります。それは、とある県の全宅配バイトたちに送られたボイスメモ。内容はAmazon社員と思われる人物がPS5の量を徹底的にチェックした。だから明日お客さんから1台でも足りないと連絡があったら、全員即クビっす! つぎの日はハローワークにいってください!」と伝えたもの。

 もっと大変なことだけど、11月27日にはリヨン郊外のFedex倉庫にて、ストックされていたPS5などが武器を持った数人の男に強盗されました。彼らは準備万全で、顔を隠すマスクや武器、そしてそのまま逃亡できるようにクルマとワゴンを用意していて、いまでも逃亡です。

 PS5発売前日に流れて話題となった投稿。「1台も足りなかったら、即クビっす!」

ロックダウンでもゲーマーの熱量は高い

 ロックダウンがあったし、新型コロナウイルスの影響で用意された台数も限られていたので、ロンチは失敗だったのでは? と思うかもしれませんが、答えは「Non(いいえ)」フランスドイツイタリアでは、全機種すべてが完売で、いまでも入手困難な状態です。とくにフランスではプレイステーションブランドの人気が高く、PS5は今週からまた買えるようになりましたが届くのは約1ヵ月後……。一方、Xbox Series X/SSeries S は探せば買える可能性があるものの、Series X はPS5同様、いま買っても届くのは12月となるようです。

 ソニーマイクロソフトも、カンパニーポリシーとしてヨーロッパの国別の売上を発表していません。現時点で発表されているのはイギリスでのXbox Series X/S初日の販売台数のみ。こちらの発表によると、発売初日に15万5500台を販売したそうです。今後、大きな数字が出たら、ソニーマイクロソフトもきっと新しい情報を提供してくれるでしょう。

Auchanというフランスの大手スーパーのサイトのバーチャル列。PS5購入専用ページがなかったため、ふだんのお客さんも混ざった列となり、アクセスしたときには23000番目という結果に(汗)。
フランスS.E.L.Lの11月第2週の売上トップ5。世界中で大ヒットしている『あつまれ どうぶつの森』以外は、次世代機対応の『アサシンクリード ヴァルハラ」と『コール オブ デューティ ブラックオプス コールドウォー』。現行機で遊びつつ、次世代機を手に入れたら画質アップでそのままゲームを続ける、というわけですね。

 ロックダウン、強盗、配達トラブル……。ゲーム業界30年を知っている自分がスパイ大作戦』に勝る、こんな冒険的なロンチを体験できるなんて、人生なにがあるかわかりませんね。日本でも、フランスでも、次世代機はこれからも盛り上がっていくと思いますが、周りの親戚や友人を大切にしながら皆さんがゲームを楽しめますよう、フランスから願っています。

グレグ(Greg)
日本とフランスの架け橋を担うフランス人。16歳からゲームライターをしながら、通訳、日本のプロレスの実況、漫画編集など、フランスのエンタメ業界に日本を紹介するベテラン。1999年からファミ通グループの多数の雑誌に寄稿し、欧米のゲーム情報から、日本が知らない海外の日本好きぶりまでを紹介している。自称「ハンサムなオタク」。
【過去の記事例】パリ在住ライターから、テロとゲームについて少し