最近、我が家の炊飯器の調子が悪いと思っていたら、先日とうとう壊れました。セットしたのにお米が生煮えという残念な結果に。慌てて家電量販店に買いに行きましたが、種類が多すぎて、即決できません。

 最近の電気炊飯器は進化がめざましく、高機能製品が次々と登場してきており、価格帯も1万円弱から10万円以上する高額なものまであります。しかも、どの炊飯器にも、「ふっくら」、「もちもち」、「つやつや」、「シャッキリ」、「ムラなく」炊けるとか、「保温しても美味しい」など、ありとあらゆるウリ文句がついています。

 家電製品に詳しくない筆者にとっては、逆にどれも似たり寄ったりに思えてクラクラしてしまいました。そんな時、ふと料理好きの知人が言っていた「電気炊飯器より、“文化鍋”を使って炊くほうが、断然おいしいと思う」という言葉を思い出したのです。文化鍋というものを、みなさんはご存知ですか? 恥ずかしながら、筆者は知りませんでした。

ガス用の象印の文化鍋。一番小さい2.5合炊き。レトロな感じで可愛い
ガス用の象印の文化鍋。一番小さい2.5合炊き。レトロな感じで可愛い

 調べてみると、文化鍋とは、戦後の昭和25年に発売された、炊飯用のアルミ鋳造鍋のこと。この“文化鍋”以前は、かまどにお釜をのせて、薪を燃やして炊いていたので、ガスと鍋だけで短時間に美味しく炊ける文化鍋は、ニッポンの一般家庭で一世を風靡。しかし、昭和45年以降、ガス炊飯器や電気炊飯器が広く流通したことにより、文化鍋は衰退していったんだそう。

 というわけで、家電量販店の炊飯器売り場で呆然と佇みながら、「それなら、文化鍋を買ってみよう」と思ったのです。

 オンラインショップで調べてみると、一番小さいサイズ(直径16cm)で2.5合炊き、お値段は4730円。電気炊飯器よりずっと安いし、我が家にとってはピッタリサイズ。しかも炊飯だけでなく鍋としても使えるようなので、損はないと思ってポチッと購入してみました。

文化鍋のご飯はめちゃくちゃ美味しかった!

文化鍋で炊いたご飯。ツヤッツヤでものすごく美味しいです
文化鍋で炊いたご飯。ツヤッツヤでものすごく美味しいです

 購入してみて分かったのは、普通の鍋とは違い、文化鍋はお米を美味しく炊くための様々な工夫がほどこされているということでした。

 例えば、厚手のアルミ鋳物製のため、熱伝導・蓄熱性に優れ、熱がゆっくりじわじわと柔らかく伝わり、一定温度が保たれるため、ご飯が均一に加熱されます。

白くパリパリしているのが、蓋の上にできるウォーターシール現象
白くパリパリしているのが、蓋の上にできるウォーターシール現象

 また、特殊な蓋の形状により、吹きこぼれ防止を実現すると同時に、鍋ブタに薄い水の膜ができる「ウォーターシール現象」が発生。これが酸化を防いでくれるため、お米の味と栄養価を損なうことがないそうです。

 ただ、気になるのは、炊くのに手間がかかるのでは? ということと、保温機能がないため、冷えたごはんはどうするかの2点です。ともあれ、やってみたほうが早い、ということで、さっそく炊いてみることにしました。

2合を炊いてみました
2合を炊いてみました

 手順は、お米を研いだら約30分弱浸水。蓋をして強火にかけ、沸騰したら弱火にして15分。火を止めてさらに15分蒸らします。2回ほど火加減を調節する手間はありますが、電気炊飯器の通常モードと時間的には差がありません。そして出来上がったご飯がこちら。

蒸らしたあと、蓋を開けたところ
蒸らしたあと、蓋を開けたところ

 蓋を開けるとお米の香りがフワッと立ち、ご飯粒がツヤツヤと輝いているのがわかります。食べてみると、ご飯の粒立ちがよく、水分の含み具合も最高。噛むほどにお米の旨みがじわじわと染み出してきます。

 これまで何十年も電気炊飯器でご飯を炊いてきましたが、正直言って、文化鍋で炊いたご飯は、風味も食感も明らかに炊飯器を凌駕しています。土鍋もご飯が美味しく炊けますが、それと同等か、もっと上かもしれません。なにより土鍋より軽いのが最高です。今まで自分で炊いたご飯の中で一番美味しいです。

ご飯が美味しいと、明太子やしらすだけでも最高のご馳走です
ご飯が美味しいと、明太子しらすだけでも最高のご馳走です

 ただ、前述の通り、文化鍋は保温ができないのがなぁ…と思っていたのですが、文化鍋に入れっぱなしにしていたご飯を、外出して6時間ほど経って帰宅してから再び食べてみると、もちろん温かくはありませんが、水分を保っていてツヤツヤのまま。

 そしてこの冷やご飯、炊きたての時より甘みや旨みなどの味わいが、よりくっきりわかるのです。さらに、残ったご飯をラップに入れておにぎりにし、翌日、電子レンジでチンして食べても美味しい。これは、前述したウォーターシール現象により、お米の栄養素の損失が少ないからなのかもしれません。これなら保温機能なんて別にいらないや、とひと安心。

冷えても美味しい文化鍋で炊いたごはん
冷えても美味しい文化鍋で炊いたごはん

 というわけで、文化鍋のご飯の美味しさを初めて知って、感動しきり。ただし、電気炊飯器のように炊き上がり予約をしたり、スイッチを押してほったらかしにできたりする便利さはありません。でも、この文化鍋のごはんを知ってしまうと、そんな程度の利便性は、たかが知れているように思えてきます。

 もちろん、炊飯用だけでなく煮物などをしても通常の鍋よりも美味しくできると思います。炊飯器の購入を考えている人は、ぜひ「文化鍋」も選択肢に入れてみてください。後悔しないと思いますよ。

(撮影・文◎Jeriko Tsucchina)

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