現代の民間機のエンジン配置といえば、主翼下、もしくは胴体最後部に備わるスタイルが一般的ですが、もちろんそれだけではありません。脚光を浴びた「ホンダジェット」以外にもあった、ユニークなエンジン配置のモデルを見ていきましょう。

ホンダジェットの走りみたいなジェット旅客機「VFW614」

現代の民間機といえば、主翼下にエンジンが吊り下げられたスタイルのものが、ほぼ一般的といえるでしょう。ボーイング777エアバスA380などの大型旅客機から、開発を「一旦立ち止まる」とした三菱航空機の「MSJ(三菱スペースジェット)」までこの形です。

なお、かつてのボーイング727ダグラス(現ボーイング)のDC-9シリーズ、その後継となるMD-80シリーズやボーイング717といった、いわゆる“往年の名旅客機”などでは、胴体の最後部にエンジンを配する「リアジェット機」も見られました。現代では、旅客機というよりは、サイズの小さいプライベートジェットなどでよく見られるスタイルです。

とはいえ、エンジンの配置ひとつをとっても、航空機の開発は一筋縄ではいきません。近年、商業用航空機でこの例外として脚光を浴びたのが、自動車で有名なホンダ(本田技研工業)の航空機事業子会社であるホンダ エアクラフト カンパニー(本社はアメリカ)が手掛けるプライベートジェットホンダジェット」でしょう。この飛行機は、主翼の上にエンジンを配置するというユニークな形態をとっています。これにより、客室面積の拡充や低騒音化などを実現しているといいます。

とはいえ実は、このユニークなエンジン配置はホンダジェットが世界初ではなかったようです。かつて同じようなエンジン配置を採用した飛行機に、ドイツ製のターボ・ファン・エンジン搭載のジェット旅客機「VFW614」がありました。初飛行は1971(昭和46)年で、生産機数18機、客席数は最大56席、最大離陸重量20t、航続距離2000kmといったスペックです。

VFW614のその後… 日本にもあった「そこにエンジン?」民間機

VFW614が開発された当時、地方間を結ぶローカル線の主役は、まだレシプロエンジン機からターボプロップエンジン機に変わりつつある時代でした。つまりいわゆる「プロペラ機」が全盛の時代だったのです。VFW614はそのエンジン配置だけでなく、「プロペラ機」全盛時代に、ターボ・ファン・エンジンを積んだジェット旅客機だったというのもポイントです。実は、この機体に搭載されたのはVFW614専用に開発されたエンジンで、ファンの段数が一段という特徴があります。エンジンをそのモデル専用に作り上げるというのも、少数派といえるでしょう。

とはいえ、VFW614はエンジン開発が遅れ、オイルショックもあったことで、少数しか生産されませんでした。しかし、そのあとヨーロッパでは、その後大手航空機メーカーのエアバスが創立。もしかすると、ヨーロッパ域内の製造分担など、エアバスとの関係もないとは言い切れないのかもしれません。

そして、上記のいずれでもない位置にエンジンを配したモデルもあります。日本人にとって最も馴染み深いのが、当時の航空宇宙技術研究所(現JAXAの一部)が1機のみ製造したSTOL短距離離着陸機)実験機「飛鳥」でしょう。

「飛鳥」のエンジンは、主翼が胴体の上部に取り付けられており、その上にエンジンが4発あるというユニークな形をしています。これは、主翼後縁のフラップ(高揚力装置)に空気を流すためで、同モデルの強みである短距離離着陸性能にも大きく貢献している点です。

なお、「飛鳥」同様のエンジン配置をしているモデルも過去にもいくつか見られますが、実際に国内空港で見ることができるのは、アントノフのAn-74くらいでしょう。まれに成田空港に飛来してくるのを筆者(種山雅夫:元航空科学博物館展示部長 学芸員)は見たことがあります。

ちなみに、プロペラ三発機で、うち一基のエンジンを機首に搭載したモデルや、旅客機ではありませんが、ジェット三発機で機首下面に二基のエンジンを搭載したモデルも、以前写真で見かけたことがあります。

旅客機がひしめく羽田空港。多くのモデルで、主翼下にエンジンが吊り下げられていることがわかる(乗りものニュース編集部撮影)。