(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 新型コロナウイルスの発生からちょうど1年が過ぎたいま、「ウイルスの発生源は中国ではない」と訴える中国政府の大キャンペーンが再び活発になっている。

 米国ではそうした中国側のキャンペーンに対して改めて激しい反発が起きている。中国の官営メディアは諸外国の専門家の言葉をゆがめ、自国に都合よく利用する政治宣伝活動を強化しているが、米国で、そんな中国側の動向に対する超党派の反撃が強まってきた。

現地調査を求めるオーストラリアに強く反発

 昨年(2019年12月に中国の湖北省武漢で発見された新型コロナウイルスの“真の発生源”をめぐっては、「中国 vs. 国際社会」とも呼べる対立が当初から起きていた。

 新型コロナウイルスが武漢市内で最初に確認されたことは、欧米諸国だけでなく世界保健機関WHO)もほぼ公式に認定していた。

 しかし中国当局はこれを決して認めず、中国政府の外務省報道官は「このウイルスは米軍の将兵により武漢地域に持ち込まれたようだ」などと訴えていた。

 中国政府は、ウイルスの発生源の調査を求める諸外国からの要求に対しても激しい反発をみせてきた。たとえばオーストラリアスコット・モリソン首相が「国際調査団を武漢へ派遣して、徹底した現地調査を実施すべきだ」と唱えると、中国政府は強い抗議を表明し、オーストラリア産品の中国への輸入を大幅に削減する措置をとった。中国の官営新聞「環球時報」の紙面では、編集主幹が「オーストラリアは中国の靴の底についたチューインガムだ」とまでののしった。

ワシントン・ポストが報じた中国の宣伝戦

 そんな背景のなか、中国当局は11月から12月にかけて官営テレビ局や新聞を総動員する形で、ドイツのハレ市にある「生物安全保障研究所」所長のアレグザンダー・ケクル氏の言葉を引用して「中国は無実だった」とする大キャンペーンを開始した。

 11月ヨーロッパテレビインタビューに応じたケクル所長は、新型コロナウイルスが最初に中国の武漢で発見されたことを明言する一方で、イタリアなどヨーロッパ諸国の政府レベルでの対応が遅かったため大感染が引き起こされた、という趣旨を述べた。すると中国側は、ケクル所長のイタリア政府への批判を捻じ曲げて、同所長がウイルスの発生源はイタリアだったと示唆した、と報道したという。

 この種の中国政府の最近のプロパガンダ攻勢について、米国の大手紙ワシントンポスト12月6日付)が「中国がコロナウイルスの起源を曖昧にする虚偽を広める」という見出しの記事で詳しく報じた。新型コロナウイルスが発見され1年が経ったことを機に、中国が「真の発生源は中国ではない」とするプロパガンダ・キャンペーンを内外で強化し始めたとする報道だった。

 同記事は、中国側の虚偽宣伝の実例として以下の具体的な事例を伝えていた。

・中国の国立「中国疫病予防管理センター」の首席研究員の呉尊友氏は、11月に「新型コロナウイルスの真の発生源は中国ではなくインドだ」という趣旨の論文を発表した。呉氏は22ページに及ぶ同論文で、インドで発生したコロナウイルスが人の国境を超える移動によって中国内に侵入し大流行を起こしたと述べていた。この論文は中国内で多数のメディアによって大々的に報道された。

・中国政府の輸出入食品安全局の畢克新局長は11月記者会見で、「諸外国から輸入した冷凍食品に新型コロナウイルスが検出された」と発表し、「ウイルス発生源は中国ではない」という説を強調した。同局長によると、ドイツ産の豚、エクアドル産のエビ、ノルウェー産のサケなどの冷凍食品からウイルスを検出したという。同局長のこの発表も、中国内で各種メディアにより広範に報道された。

 一方、前述のドイツのケクル局長やWHOマイケルライアン医師によると、新型コロナウイルスが中国の武漢で最初に発生したという事実には疑いがなく、それを否定することは「医学以外の要因による政治的な陰謀論のような推測に過ぎない」という。

 さらに同記事は、「習近平政権にとって、新型コロナウイルス対策の失敗をカバーすることは、国内で追い詰められている政治状況を挽回するために大いに必要な措置なのだ」という米国やオーストラリアの専門家たちの解釈を紹介していた。

 同記事のなかで、豪シドニー大学のウイルス学者、エドワードホームズ教授は、「このウイルスが中国以外の地域で発生したとする説が政治的な意図により中国でまた拡大しているようだが、科学的根拠が欠落しており、前から存在する陰謀説を繰り返すことに等しい」と一蹴している。しかし中国共産党政権が「ウイルスの発生地は中国ではない」という主張を今後さらに強めていくことは確実とみてよさそうだ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「やっぱり」のCNN報道、中国の公式発表に真実なし

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新型コロナウイルスの発生から1年が経ち多くの人で賑わう中国・武漢の市場(2020年12月7日、写真:ロイター/アフロ)