日本にたどり着いた最初の人類は漂流者ではなく冒険者だった

日本にたどり着いた最初の人類は漂流者ではなく冒険者だった /iStock

 私たち日本人の歴史は、3万8000年前に大陸から日本列島に渡ってきた後期旧石器時代の人たちによって始まったと言われている。

 そんな日本の黎明期について1つ大きな謎がある。それは、最初の祖先がどうやって海を渡ったのかということだ。はたして彼らは海を漂流した結果、偶然新天地にたどり着いたのか? それとも自らの意思で海を渡ってやってきたのか?

 日本と台湾の人類学者・海洋学者グループによると、どうやら後者の可能性が濃厚であるようだ。

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日本人の祖先は漂流者か、冒険者か?

 民俗学者の柳田國男氏は、海岸に流れ着いたヤシの実を目にして、日本人の祖先は黒潮に乗って南方の海から沖縄の島伝いに日本列島にやってきたのではないかと考えた。

 だが琉球列島を流れる「黒潮」は、幅最大100キロ、秒速1~2メートルという世界でも有数の海流で、ついでに水平線の向こうに陸地が見えないような海峡もある。そのような海を流れに身を任せたまま漂流して、偶然沖縄にたどり着くことなど本当にあり得るのだろうか?

 そこで海部陽介氏をはじめとする東京大学と国立台湾大学の研究グループは、フィリピンや台湾から流された漂流ブイのデータから、古代人が黒潮に乗って沖縄にたどり着いた可能性について検証してみることにした。

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左)台湾とルソン島(フィリピン)の沿岸(東部海岸10km圏内)から流れた138の漂流ブイの軌跡。色がついているのは黒潮を横断した6つのブイ。島の周囲の円は海岸から20km圏内を示す。右)黒潮の流路。色は流速を示していてオレンジ~赤が秒速1~1.9メートル(海洋研究開発機構 JCOPE-Tにより作図)。★は3万5000~2万7500年前の遺跡がある奄美大島以南の島

沖縄の20キロ圏内に近づいたのは3%のみ


 合計138個の漂流ブイは1989年から2017年にかけて台湾とルソン島から流されたもの。

 そのデータを調べると、黒潮に乗って北へと流されたブイは127個あったが、95%は黒潮を横断できず、できたのはわずか6個のみ。そして横断したもののうち、沖縄の島の20キロ圏内に到達したのはわずか4個。全体では3%だけだったという。

 スーパーコンピューターの解析では、黒潮を横断したブイは、いずれも台風の影響や北風で黒潮に乱れが発生したために横断できたことが判明している。

 天候が荒れているときに船出するとは基本的に考えにくい。しかし晴れた日に海に出て、そのまま漂流したとしても、黒潮を横断する可能性はほとんどない。なお黒潮は過去10万年以上変化がないことが明らかになっている。

漂着者が定着した可能性は低い

 過去の研究からは、新しい島に漂着した際、そこで人口を増やすには男女10人程度が必要であることが示唆されている。

 男女10人とは、狩猟採集社会においては2家族分の人数だ。したがって南方からの漂流者が沖縄に定着するためには、古代の船に乗った2家族が無事に生存していなければならない。

 こうしたことから、日本人の最初の祖先がたまたま沖縄の島に漂着し、そこに定着したという説は支持できないと研究グループは結論づけている。

日本の祖先は自らの意思で海に出た

 なお今回の研究では、漂流ブイの多くが大陸側に戻されていたことも明らかになっている。つまり旧石器時代の祖先たちは、うっかり海で黒潮に流されてしまったとしても、どうにか生還できたようなのだ。

 それは、そうした経験を繰り返すことで黒潮の性質について理解を深めることができたということだ。そうした知識を活かせば、計画的に与那国島を目指すこともできただろう。

 もしこれが本当ならば、私たち日本人の最初の祖先は、好奇心と勇気に満ちあふれた海の冒険者だったということになる。流されたのではなく、自らの意思で日本へとやってきたのだ。

 この研究は『Scientific Reports』(12月3日付)に掲載された。

References:東京大学総合研究博物館 / newscientist/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52297290.html
 

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