国貿易協会の統計や関係者によると、中朝貿易は、今年1~10月の累計貿易額が前年同期比約76.0%減少し、「北朝鮮10月でも国境封鎖をしていて、貿易を事実上停止した状態である」という。

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 韓国の国会議員は国会で、北朝鮮(以後、北)は、原材料搬入が中止された影響で、産業稼働率が金正恩政権発足以来最低水準となり、「制裁、新型コロナウイルス、水害という三重苦だ」と説明した。

 だが、私は、北が高価な近代的な兵器を装備し始めていることから、「北が三重苦である」という説明に疑問を感じている。

 実際は、三重苦であっても、地上軍の近代化を進める余裕がある。そうでなければ、絶対に近代化を進めなければならない必要があるのであろう。

数十年間もポンコツだった地上軍の兵器

 中国による国連の対北制裁決議の違反が常態化している。

 米政府は、中国が制裁違反を繰り返し、露骨な手口も目立っているとし、懸念と苛立ちを強めている。米国は、北への制裁が崩れかけていて効いていないと見ているようだ。

 私は、10月10日の党創立75周年の軍事パレードを見て分析した。そして、新型の高額な地上軍兵器が多数出現したことが判明した。

 新型の軽装甲機動車、装甲歩兵戦闘車、戦車、防空ミサイル対戦車ミサイルなどだ。

 30~50年も全く変わらなかった地上軍兵器が、今年になってこれほど多く出現したのは、かつてなかったことだ。

 なぜなら、これまでは、旧ソ連や中国の地上軍が使わなくなった古い兵器のおさがりが供与されてきたからだ。

 今年になって、地上軍の近代化のために多くの軍事予算を投入している北が、三重苦で経済状態が窮乏しているとは考えにくい。

 少なくとも、高額な兵器を、それもかなりの数量を中露イランから購入できる資金はあるということだ。

 また、導入している新型兵器は、中国、ロシアイラン製の兵器に極めて類似している。

 このことから、これらは、経済制裁の網を抜けて、北に入ってきていると見るべきだろう。

中国、ロシア、イラン、日本の兵器に酷似

(1)日本の軽装甲機動車に似ている車両が出現

 これまで、北朝鮮軍指揮官が乗車する車両は、ジープだけであった。

 ジープに乗車して戦場を走行すると、敵の砲弾に破壊されてしまう。ところが、今年のパレードでは、北軍のトップ2人および機甲(戦車)部隊等指揮官軽装甲機動車に乗車して現れた。

 この車両の装甲があれば、乗車している指揮官を砲弾の破片から防護してくれる。また、この車両は、どこかで見たような車両だと思った。

 よく見てみると、日本のコマツが製造した軽装甲機動車と、一部の部品に違いはあるもののほぼ同じだ。

 全体のシルエットや大きさ、エンジン排気口、上部開口部、車体横に見える出っ張り、タイヤの大きさ、ドアの開閉の蝶番、バックミラーなどが同じである。

左:北軍の車両 右:自衛隊(コマツ製造)の軽装甲機動車比較

 外国の軍隊には、コマツが製造した軽装甲機動車に類似した車両はない。

 コマツの関係者に、この話をしたところ、「コマツが製造した自衛隊車両が外国に輸出されることは絶対にない」と述べていた。

 日本の防衛産業から武器製品が海外に渡ることは考えられない。サイバー攻撃により設計図を盗まれたか、公開されている写真などから似せて製造した可能性がある。

 この種の車両を北が製造できるのかというと、これまで時代遅れの兵器だけしか保有していなかった国が製造できるとは考えられない。

 おそらく、中国またはイランで製造されてから、北に持ち込まれたのであろう。

 この車両は、日本の価格では1台が約3000万円だ。中国で製造されたものであれば、日本の半額としても1500万円くらいだろう。

 パレードに10両ほど見られたので、これだけでも、1億5000万円の価格になる。

(2)北の戦車が米軍のM1戦車やイラン軍のゾルファガール戦車に酷似

 昨年まで、北地上軍の戦車は、ロシアでは1970年代後半には生産を終了した「T-54/55」戦車、「T-62」戦車およびその一部を改良したものだった。

 それが、今年になって、軍事パレードに突然、新型の戦車9両が出現した。

 10月14日に、「北軍事パレードに謎の兵器登場」「米陸軍主力戦車M1にそっくり」の記事を書いた。

 その新型戦車について、陸上自衛隊の戦車開発の責任者だった私の上司で当研究所のアドバイザーから、M1戦車よりもイランのソルファガール戦車の方が似ているという助言をいただいた。

 改めて分析すると、砲塔(車体の上部で、砲身が付いている車体の部分)の形や車体と砲塔の大きさを見れば、イランのゾルファガールの方に似ているようだ。

 とはいえ、この3種類はよく似ている。イランが米軍のM1戦車を真似て製造し、今年になって北に輸出した可能性がある。

 新型戦車は鉄板で作られてモックアップだと評価する研究者がいるが、私は、本物あるいはそれと同等の性能がある兵器だと評価している。

 その理由は、供与した国の兵器に類似していること、この一部を改造していて供与国が判明しないように工夫されていること、走行の動きが重量を感じさせるリアルさがあること、砂漠仕様の色の兵器がそのまま出現していることなどからである。

 朝鮮半島では、砂漠仕様の薄茶色の兵器だとかえって目立って、攻撃目標になる。

 自分の国で製造するのであれば、わざわざ薄茶色に塗装することはないはずだ。輸入して、カーキ色にする時間的余裕と塗料の輸入が間に合わなかったためだと考える。

北の新型戦車と米軍とイラン軍の戦車比較

 では、イランからどのような経路で運ばれたのだろうか。

 陸路では、イランから中央アジア諸国そしてロシア経由、イランからパキスタンそして中国を経由する2つの場合がある。

 列車やトラックトレーラーを使用すれば、北の国境を超える時に目撃されてしまう。貨物船で運んだ可能性の方が高い。

 中国の最新型戦車の輸出タイプ「VT4」(99式)の価格が約3億円だ。

 イランあるいは武器商人から類似品を購入したとしてもほぼ同じ価格と評価してよい。今回9両確認できているので、総額約27億円の費用がかかったと思われる。

(3)北の装甲歩兵戦闘車の車体と中国の11式装輪装甲突撃車車体が類似

 北はこれまで、BTR80という14.5mmの機関銃を装備した装輪の人員輸送車を保有していたが、100mm以上の砲を備えた装輪の装甲歩兵戦闘車は保有していなかった。

 今回のパレードで、中国の11式105mm装輪装甲突撃車が9両出現した。

 この兵器の運用の狙いは、戦車と協同で戦うか、あるいは偵察用としての使用だろう。

 陸上自衛隊は、「16機動戦闘車」という名称の装甲歩兵戦闘車を保有しており、1両の値段は約7.2億円である。

 北のものは、日本のものと比べると半分の値段と考えると、9両で約32億円になる。

左:北軍装甲歩兵戦闘車  右:11式105mm装輪装甲突撃車

陸上自衛隊16機動戦闘車

(4)稲妻5 地対空ミサイルは、北の機動部隊も守れるが極めて高価だ

 北地上軍は現在、「SA-2・3・5」という防空ミサイルを保有している。これらは、第4次中東戦争1973年)時に使用されたもので、現在では、米韓の戦闘機により対レーダーミサイルで攻撃されれば、簡単に破壊されてしまう兵器だ。

 ロシアを含めた国々では現在、ほとんど退役している代物である。

 このため、北朝鮮軍の防空ミサイルは、米韓軍の戦闘機には、脅威にはなっていなかった。このため、米韓軍戦闘機は、北朝鮮の軍事基地を自由に攻撃できた。

 だが、北は2017年中国製「紅旗9」あるいはロシア製の「S-300」防空ミサイルを「稲妻(ポンゲ)5」として実験を行った。

 軍事パレードには、防空ミサイル4基搭載の車両6両だけが出現した。このミサイルの射撃ユニットは、射撃指揮装置×1、レーダー×1、ミサイル×2で形成されている。

 米国のパトリオットミサイルと同等の能力を有し、ミサイル防衛としての能力もある。

 北は現実に、この兵器を装備し始めた。今後、この兵器が多く装備されることになれば、米韓軍戦闘機は、北朝鮮領土内で自由に攻撃することはできなくなる。

 北朝鮮はこれまで、S-300を最も必要としていたが、かなり高価なもので購入できなかった。

 価格(ユニット数は不明)は10億ドル(1000億円)、日本が保有するパトリオットミサイルシステムは、レイセオン米企業がバーレーンに輸出した時、約25億ドル(2500億円)だったという情報がある。

 中国がロシア製のS-300を真似て製造したものあれば、これよりもかなり安価かもしれないが、北朝鮮としては、破格の価格だ。

稲妻(ポンゲ)5防空ミサイルロシア名S-300

電撃戦が行える地上軍に変貌を始めた

 北は、経済的には三重苦で経済的なダメージを受けていると言われている。だが、今年の軍事パレードを見れば、新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)や短距離ミサイル部隊が増加していることは明白だ。

 そして、これまでポンコツ兵器であった地上軍が、近代化へ向けて動き始めていることを見落としてはならない。

 パレードに出現した地上軍兵器だけで、軽装甲機動車・戦車・装甲歩兵戦闘車の3種類だけで約70億円だ。

 S-300防空ミサイルシステムを無償でなく有償で購入したとすれば破格の価格であり、相当な軍事費が必要だ。

 これらの軍事費をどこから捻出しているのか。あるいは、中国から無償で供与されているのか。

 有償供与であっても国連経済制裁違反であり、無償であれば、制裁違反を完全に無視していることになる。

 これまで地上軍の近代化を実施してこなかった北が、経済制裁を受けている中で、しかもコロナ禍でありながら、なぜ今、近代兵器を導入できたのか。

 いくらかは無償供与かもしれないが、大部分の兵器は有償であろう。

 北は購入できる資金があり、厳しい経済状態であっても、地上軍の近代化を進めたい意志があるということだ。

 現在、北は経済的な三重苦で軍事的脅威が低下していると評価していたら、その油断を衝かれて、半島有事が勃発、などという可能性がある。

 ボンコツ兵器ばかりを保有していた北地上軍が近代化した兵器を持ったのだ。弾道ミサイルと連動させて戦えば、韓国に勝利できる可能性も高まる。

 金正恩委員長が、在韓米軍が撤退し、単独の韓国軍との戦いならば勝利できると判断すれば、南北軍事境界線を越えて南侵する決心をするかもしれない。

 経済的に三重苦と言われる時に、なぜ、費用がかかる地上軍の近代化を進めるのか。早急に韓国を占領したいと願っているとしか考えられない。

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