峰倉かずや原作の大人気コミック『最遊記』『最遊記RELOAD』を原作とするミュージカルの最新作『最遊記歌劇伝-Sunrise-』が2021年2月に東京と大阪で上演される。
シリーズ通算9作目となる本作は、2019年6月の「Darkness」、2020年2月の「Oasis」に続く、“ヘイゼル編”のファイナルとなる。
人間と妖怪が共存する桃源郷を、西域・天竺国に向かって旅をする三蔵一行の前に現れる謎の司教・ヘイゼル=グロースと従者ガト。果たして彼らは敵か味方か? そして、再び三蔵たちの前に姿を現す烏哭三蔵法師の狙いとは──。
2008年の初演『最遊記歌劇伝-Go to the West-』から12年にわたって玄奘三蔵を演じてきた鈴木拡樹孫悟空 役の椎名鯛造に、最新作への意気込みと作品への想い、今の素直な気持ちをたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 近藤明子 撮影 / 増田慶

◆『最遊記歌劇伝』ならではの4人の楽しいやりとりが楽しみ

ーー 2021年2月に新作公演『最遊記歌劇伝-Sunrise-』の上演が決まりました。今回が“ヘイゼル編”のファイナルということで、早く観たくて今からワクワクしています。

鈴木拡樹 】 原作コミック『最遊記RELOAD』最後の展開となる今回の公演は、ひとつの区切りとして僕らが目指していた場所なので、「やっとここまでたどり着けたんだな」という気持ちです。

椎名鯛造 】 みんなとまた“旅”を続けられることが嬉しいし、何より今のこのご時世に新作公演を上演できる喜びが大きいですね。

ーー 前作の『最遊記歌劇伝-Oasis-』では、鈴木さんが演じる玄奘三蔵と離れた一行の物語が描かれましたが、ゲネプロ時の囲み会見で椎名さんは「座長・鈴木拡樹の存在の大きさを改めて実感した」というコメントをされていました。実際に鈴木さん不在の中で稽古を進めていき、本番を迎えたときのお気持ちはどうだったんでしょう?

【 椎名 】 やっぱ寂しいし、不安だし……。まず『最遊記歌劇伝』で孫悟空が主役になるなんて俺は思ってもいなかったんです。「今後、外伝をやる機会があったら、そのときに悟空の物語として座長を任されることになるんだろうな」とぼんやり考えていました。(鈴木)拡樹ともそんな話をなんとなくしていたけど、「でも、俺は座長あんまりやりたくないな。外伝でも鈴木拡樹座長でできないかな」って言ったんですよ(苦笑)。だから「Oasis」で「拡樹がいない」ってなったときに、ファンの方には「座長(仮)でやらせていただきます」って冗談めかして言ってたけど、どこかに怖さみたいなものはあったかもしれません。俺の中では『最遊記歌劇伝』の座長は鈴木拡樹で、たまたま「Oasis」では三蔵が留守にしてるから悟空=俺が担ったというだけなんですよね。

ーー 鈴木さんは「Oasis」の公演はご覧になりましたか?

【 鈴木 】 はい、観に行きました! 初めて自分が『最遊記歌劇伝』を客席で観る側になってワクワクしましたけど、僕が逆の立場でも、きっと鯛ちゃん(椎名鯛造)と同じように寂しく思うんでしょうね。やっぱり玄奘三蔵、孫悟空、沙悟浄、猪八戒の4人がそろっての『最遊記』ですから、きっと誰が欠けても心細いんだろうな。

【 椎名 】 今までストーリーの中で別行動だったことはあっても、1本の公演で4人の内の誰かがいなかったことはなかったからね。お客さんも観ていて心細さがあったんじゃないかな?

【 鈴木 】 僕も「なんでみんなが大変なときに三蔵がいないんだろう?」って、なんだか変な感じがしたもん(笑)。

ーー (笑)。今作の「Sunrise」で物語は大きく動きますが、見どころを教えていただけますか?

【 鈴木 】 まだ台本が手元にないので原作のストーリーから想像するしかないのですが、今まで以上に唐橋 充さんが演じる烏哭(うこく)三蔵が企んでいろんな動きを見せるので、そこが一番の見どころになってくるのは間違いないです。原作のファンとしても唐橋さんのファンとしても、とても楽しみにしています。あと、5つある天地開元経文(※世界の創世に関わったとまで言われる全5巻の経文。それぞれ異なった力を秘めており、組み合わせによってもその能力を上げることができる)のひとつ「無天経文」の力を使うシーンがあるので、それが舞台でどう表現されるのか楽しみですね。

【 椎名 】 黒い照明を作らなきゃ無理かもね(笑)。演出の(三浦)香さんもいろんな案を出してくれると思うけど、最終的には稽古でみんなの知恵を合わせて作っていくことになるだろうし、あの経文のすごさをどう表現するか……難しいだろうね。

【 鈴木 】 あと最近の演出では、舞台上でセットを動かすことも多いんですけど、ちょっとタイミングを間違えただけで大きな怪我につながるので、事故のないように細心の注意を払って各シーンごとの位置を覚えないといけない。緻密な計算で動かされているので、覚えることが多くて本当に大変なんです。

ーー 椎名さんが今回の舞台で楽しみにしているシーンは?

【 椎名 】 まだ台本が手元にないので具体的に“このシーン”っていうのはないのですが、『最遊記歌劇伝』ならではの4人の楽しいやりとりが今回もあると思うので、それは楽しみですね。全体的に重たいストーリーなので、あまりふざけられないと思いますが、今までのように悟空と悟浄の“じゃれ合い”とかも適度に入ってくると思います。

◆僕自身の進化というより技術の進化のおかげ

ーー アクションに関してはどうでしょう? 椎名さんが演じる孫悟空の動きは、回を重ねるごとにパワーアップしている気がしますが……。

【 椎名 】 たぶん、そういう“気がする”だけだと思います(笑)。

【 鈴木 】 あはは! そんなことないと思うよ。

ーー シリーズの最初の頃はヒョイヒョ~イって感じの軽快でアクロバチックな動きだった悟空が、回を重ねるごとにパワー系の重たいアクションも増えてきたように感じます。椎名さんの進化=悟空のアクションの変化なのかなと。

【 椎名 】 それは僕自身の進化というより技術の進化のおかげだと思います。12年前の初演時は、今みたいに動画を録る習慣もなかったけど、気がついたら当たり前のように動画を録るようになって、今はスマホで動画を録ってすぐに確認ができるから、自分の動きを研究してその場で微調整ができる。それがアクションの変化にもつながっているんじゃないかな。自分は気になるところがあれば修正して、っていうのを繰り返しているだけなので。

ーー すぐに修正して対応できるのもスゴいことですが、そうやってつねに動ける身体を維持し続けるには、想像を絶する努力が必要なんだろうなと思います。

【 椎名 】 俺は運動不足だと身体が“うずく”タイプの人間なんです。動いていない期間が続くと自分を追い込みたくてたまらなくなるというか、“すごく汗をかきたい”モードになるので、時間があれば水泳したり、走ったり、アクロバットの練習をしたり、アホみたいに筋トレしてみたり(笑)。それがストレス発散にもなっているし、体力の維持につながっているんだと思います。

ーー トレーニング中に、悟空を演じるうえで意識していることはありますか?

【 椎名 】 ん~、ないですね(笑)。でも『最遊記歌劇伝』の稽古で集まると、拡樹が「今回は新しい技あるの?」みたいなプレッシャーをかけてくるんです(笑)。なので、アクロバットの練習をしながら「この技、次の『最遊記歌劇伝』でやってみようかな」っていうのはありましたけど。

【 鈴木 】 “プレッシャー”っていうか、ネタですけどね。で、今回も新技はあるの?(笑)

【 椎名 】 今、聞く!?(笑)さすがに新技を毎回考えるのは難しいかな(笑)。

【 鈴木 】 そっか、今回は新技ないんだ(しょんぼり)。毎回、カッコいい技にカッコ悪い技の名前をつけるのを楽しみにしてたのに。

【 椎名 】 あははは! 超ダサイ名前とかあったよね(笑)。気になる方はDVDのメイキングに収録されてるので探してみてください。でも、体力は俺より拡樹の方があると思うよ。俺は瞬発的な運動が得意で、拡樹のように持久力を必要とする動きは得意じゃないから。

【 鈴木 】 走るのが日課だから自然と持久力つくよね。でも、やっぱり鯛ちゃんはすごいよ。悟空のアクションって“バネ”を使う動きが多いけど、縮んでいる状態から一気にピョーンって飛び出すような筋肉って、普通の人はなかなか持っていないものだもん。そもそも持っていることがすごいし、維持していることもすごい。

【 椎名 】 こればっかりは生まれ持ったものだと思うから、親に感謝だね。

ーー ところで、今回の公演では沙悟浄 役が鮎川太陽さんから平井雄基さんに変わりますが、もう平井さんとはお会いしましたか?

【 鈴木 】 はい。先日ビジュアル撮影があって、そのときにお会いしました。

【 椎名 】 平井くん、めちゃめちゃ緊張してたよね? 俺、ちゃんと目が合ったの、たぶん2回ぐらいしかない(笑)。

【 鈴木 】 その緊張状態での鯛ちゃんの距離の詰め方が、見ていて面白かった。いきなり平井くんの膝の上に乗ったりとかしてたよね?

【 椎名 】 そういう指示がスタッフからあったの!(笑)「こういう構図で撮りたいです」って言われたから頑張ったの! 「ちょっと失礼しまーす」みたいな感じで、思いきってダーッと乗っかったりしてました。

【 鈴木 】 舞台上での悟空と悟浄の絡みは、そういうことの連続だからね。最初に距離感がほぼゼロな悟空と悟浄の撮影からできて、平井くんもキャラクターの関係性がわかりやすかっただろうし、良かったんじゃないかな。

【 椎名 】 とりあえず平井くんには「俺(=悟空)が何かやったらイラッとして」って話をしました。『最遊記歌劇伝』の悟浄は三蔵にもイラッとする瞬間がいっぱいあるし、とにかく悟浄は周囲に振り回されることが多いから(笑)。

ーー これだけひとつにまとまっているカンパニーの中に入っていくのは、平井さんも不安があったと思います。鈴木さんと椎名さんは、どう迎え入れようみたいな作戦はあったんですか?

【 鈴木 】 実際にお会いした印象で「うまくやっていけそうだな」っていうのはなんとなく感じたし、年齢的にも彼は20代後半でそんなに離れているわけでもないし、お互い“いい大人”ですからね。

【 椎名 】 そうそう。「まぁ、なるようになるでしょう」って感じですね。それに稽古が始まったら香さんがドカーンと言って気合いを入れてくれると思うので、「いつまでも緊張してらんないぞ!」って気持ちになるんじゃないかな(笑)。

ーー 2008年9月の『最遊記歌劇伝』シリーズ初演から12年が経ちましたが、今までの道のりを振り返っていかがでしたか?

【 鈴木 】 「あの頃は若かったなー」と、ちょっと思ったりして(苦笑)。

【 椎名 】 12年前に生まれた赤ちゃんが中学生になるぐらいの時間が経ったってことだもんね。それってヤバくない?

ーー 鈴木さんにとって「Go to the West-」は、2007年の俳優デビューの翌年で、3作品目の舞台でしたよね?

【 鈴木 】 そうですね。デビューしたのはテレビドラマの『風魔の小次郎』で、翌年に同名の舞台があって、2本目の舞台『学園ヘヴン』(2008年上演)のすぐあとに『最遊記歌劇伝』に主演させていただいて……。

【 椎名 】 俺は「Go to the West」が4本目の舞台出演だったけど、経験からいったら、ほぼ初舞台と変わらない感じだったかも。

【 鈴木 】 「Go to the West」の初日、ステージが暗転して歌が始まるまでの間はすごく緊張していたなぁ。

【 椎名 】 俺もすごいドキドキしてた! そういえば、今回のビジュアル撮影のスタジオが、2作目の「Dead or Alive」(2009年3月上演)の撮影でも使ったスタジオだってスタッフさんから聞いたんです。ほぼ覚えてなかったんですが、スタッフの方に「ほら、ここの壁そうでしょ?」って写真を見せられて……でも思い出せなくて(苦笑)。拡樹は、多い年には年に10本近く舞台に出演して、そのたびにいろんなスタジオで撮影をしてるから、さすがに100本以上前の作品の撮影で使ったスタジオなんて覚えてないでしょ?

【 鈴木 】 まったく覚えてない!(キッパリ)

【 椎名 】 だよね(笑)。でも、そんな話をスタッフさんとしていたら、「いつのまにか『最遊記歌劇伝』が歴史ある作品になったんだなぁ」って、なんだかシミジミしちゃった。

◆ファンの皆様のためにも、期待を裏切らない作品を!

ーー では最後に、公演を楽しみにしている皆様にメッセージをお願いします。

【 椎名 】 いろんな意味で節目になる作品です。スタッフ、キャストが一丸となって全力で挑む覚悟でいますが、来年の2月になっても新型コロナウイルスがどうなっているかはっきりしない状態だと思うんです。劇場で観ていただきたい気持ちはもちろんあるけれど、配信とか、今はいろいろな形での観劇方法もあると思うので、無理のないところで『最遊記歌劇伝-Sunrise-』を多くの人に楽しんでいただきたいです。ぜひ期待して待っていてください!

【 鈴木 】 時間はかかりましたが、三蔵一行の旅がようやく“ここ”まで来られたことを嬉しく思います。初演から12年もの間、変わらず支えてくださっているファンの皆様のためにも、期待を裏切らない作品を届けられるようにカンパニー一同、精一杯頑張ります。2020年は今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなってしまったり、観劇予定の舞台が中止になっていろいろと予定が変わってしまったり、皆様も大変な時間を過ごされたと思います。2021年もまだ不安が解消していないなかでの上演となりますが、世の中が“前を向いていこう”という方向に少しずつ向かってきているのを感じますし、それは原作のテーマと重なる部分があると僕は思うんです。『最遊記歌劇伝-Sunrise-』が少しでも皆様の“希望”になれたら嬉しいです。笑顔で皆様と劇場でお会いできるのを楽しみにしています!

衣裳協力 / ジャケット(TRANSIT UOMO/STOCKMAN)、パンツ(TRANSIT UOMO/STOCKMAN)、ニット(TRANSIT UOMO/STOCKMAN)、靴(スタイリスト私物)

鈴木拡樹椎名鯛造が「長い旅路の果て、ようやくたどり着いたひとつの通過点」と語る、シリーズ最新作『最遊記歌劇伝-Sunrise-』は、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press