日刊ナックルズには貧困ビジネスや悪徳NPOなどを批判する記事がいくつも掲載されているが、問題はそのような「日本人が日本人を騙す」というケースだけではない。人権・人道という言葉が付いて回る業界には「日本人からすれば思いやりだったのに......」という様々な失敗がある。

 そもそも日本人はボランティア下手や知識のなさを指摘されることが多く、極端な人になると 「人助けを無償で行う団体以外は偽物」とまで言い切ってしまう。少し考えて欲しいのだが、報酬を得ずに支援活動を続けられる団体など、信者を動員できる宗教か、ブラックな手法で金を作れる連中だけである。(もしくは金持ちの暇つぶしか)

 特に新興宗教の場合は 「夢の宗教法人生活」 を実現させるために、何年も活動実績を積まねばならないのだが、そういった思惑がある場合ならば、無償のボランティア活動はこれ以上ない言い訳になる。また詐欺師隠れ蓑NPO法人が使われているといった事例も事欠かず、多くの場合は日本人のボランティアに対する知識のなさを悪用して 「タダで人を使えるが故の詐欺モデル」 を組み立てる。

 このような悪質な団体のお陰で、ますます真っ当なボランティア活動への風当たりが強まってしまい、現在では「NPOでは詐欺だと思われる」 からと、支援活動を行いたい人々があえてNPO法人にしないというケースが増えてしまったほどだ。

 さて、こうまで言っておいてなんだが、今回の本題は上に挙げた国内の胡散臭い団体の細々としたシノギなどではない。もっと深刻な、そして多くの人命が失われている事案についてである。

 知人に長年にわたってNGONGOs=Non Governmental Organizations=非政府組織) として活動を続けている女性がいるのだが、ある件で彼女や所属する組織に取材をした際に、大手メディア(特にTV) では殆ど報道されていない大問題を教えられた。英文の報告書(とその和訳) を見せながら説明してくれた内容によると、先進国が海外の貧困にあえぐ村に対して行った 「人道的支援」 によって、殺し合いにまで発展してしまった事例がいくつもあるそうなのだ。

 例えば、日本のTV局がよくやる 「貧困の村に井戸を!」 といった企画があるが、作るまでと作った直後まではいい。じゃんじゃん水が出て「ハイよかったね~、こどもたちも嬉しそうにはしゃいでいるね~」と、TVで放送されるのはそこまでである。なんだったらその絵をエサに募金を募ったりするだろう。多くの日本人がそれを見て善意でお金を送ったり、募金箱にお金を入れにいったりもするだろう。

 ではここで少し考えてみよう。 同じくらい今日食べる食料にも困っている村が何箇所かあったとして、その内のひとつに日本のTVクルーとタレントがやって来た。彼らは村人たちに支援物資を配り、村に井戸を掘り、水が出て、簡単な農作物なら作れるくらいに発展した。そして撮影が終わって日本人たちは帰って行った。

 さて、いったいその後に何が起こるか想像できるだろうか? 周囲には変わらず貧しさに苦しみ続けている村々があるのに、一箇所だけジャパンマネーで裕福になったとしたらどうなるだろう?

 そのNGOのメンバーが見せてくれた報告書には、水源(井戸) の奪い合いで他の村人との間でイザコザが起き、それが村をあげての殺し合い(言ってみれば戦争) に発展し、大勢の死傷者が出たと書かれていた。日本人が善意で行った支援活動が、現地では殺し合いのキッカケになってしまったのである。

 他にも日本のTV屋が好む絵として 「貧困国に学校を!」 という企画もある。 そうした企画で作られた学校は、その後もきちんと使われ続けているとは限らず、日本人スタッフが離れた途端に 「襲われる」 というケースすらある。どういうことかと言うと、TV屋やタレントらが撮影をしている内は思惑通りに使って貰えるのだが、外国人の監視の目がなくなった途端に教師がいなくなる。そして建築に使われた資材が盗まれる。木材・石材・鉄と、他所に売れそうな物は片っ端から壊され、剥がされ、見るも無残な廃墟になってしまうのだ。こんな結末などTVは絶対に報じない。そんなものを流せば、××時間TVのような番組が二度と制作できなくなるからだ。

 また、農業支援といった手法にも大問題が山積みになっている。例えば貧しい土地でも作れる作物を根付かせようとしても、監視の目がなくなった途端に盗まれたり荒らされたり、井戸と同様に奪い合いや殺し合いに発展したケースが多々ある。では食べ物でなければいいのかと言うとそうではない。食用には向かないがバイオ燃料の原料になる植物の栽培を推奨したケースでも、現地人の間で諍いが起き、そこでも死人が出る騒ぎになってしまった。

 アフリカのとある村が外国人のアドバイスを受けてバイオ燃料の原料になる植物の栽培を始めたところ、それなりに成果が出て、その村は相変わらず食料の自給には向かないものの、金銭的には裕福になれた。はじめの内はNGOが派遣した研究員らもいたし、定期的に外国人がやってきてああでもないこうでもないとやっているので平和だったそうだ。しかし、そうしたスタッフは次々と現地人に引き継ぎを行って帰ってしまう。

 予算も無限ではないので、これは仕方のないことだ。すると、周囲の貧しい土地の人間がやってきて荒らし出し、それを止めようとした村人との間で争いが起き、行き着く所まで行ってしまい、結局すべてが台無しになってしまったのだ。結局のところ、ある特定の村や集落だけを豊かにするだけでは不公平が生じ、絶対に妬みから惨事を引き起こしてしまうのである。

 現在では、世界中のNGOがこうした 「不公平に起因する騒動」 に対するケアまで考慮し、万が一のないように計画を立てた上で支援活動を行っている。未だに呑気に「子供の絵は解りやすいから学校作りましょうよ!」だの「井戸から水が出ている絵が欲しいっすね!」などと言っているのは、バカで無責任な日本のTV屋くらいのものかもしれない。

 ヒューマニズムだの人権だのと口にすれば、誰でも良い事をしている気分になれる。 ところが、そうした目立ちたいだけの上っ面だけのエセ人権屋や運動屋のマスターベーション的な行動のお陰で、「実は海外でジェノサイドが巻き起こりました......」 という事例がいくつもあるのだ。お手軽に正義の人ぶるのは勝手だが、その行動がどういう結末を迎えるかまで考えてから偉そうな能書きを垂れて頂きたい。

 善意ある行動が、キレイな結果に繋がるとは限らない。だからこそ、真っ当なNGOやNPOはもがき苦しみながら必死に勉強をし、失敗を反省し、決して目立たない場所で地道な活動を続けているのだ。「善意は人を殺す」 のである。

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Written by 荒井禎雄

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