アニメなどの萌え絵が広告や公共の場に使われることに対する批判が上がり、ネットで炎上状態になる事例が続き、フェミニストと表現の自由を求めるオタクの間での対立が激化していますが、SNSでの「怒り」の表出について論じた『「許せない」がやめられない』(徳間書店)の著者で一般社団法人ホワイトハンズ代表理事の坂爪真吾氏が2020年12月5日にトークイベント『シン・これからの「フェミニズム」を考える白熱討論会』をオンラインで開催。2014年頃から表現の自由を巡る問題について言及を続けているネット論客の青識亜論氏(@BlauerSeelowe)と、『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』(晃洋書房)の著者で武蔵大学などで非常勤講師を務める高橋幸氏(@Schnee05)が議論を交わしました。

青識氏は、2013年の人工知能学会の学会誌の表紙、2015年の伊勢志摩海女萌えキャラクター碧志摩メグ岐阜県美濃加茂市のアニメ『のうりん』ポスター、2016年の東京メトロのサービスマネージャー・駅乃みちか萌え絵、2018年のバーチャルYoutuberキズナアイのNHK特設サイトの動画、2019年の日本赤十字社の『宇崎ちゃんは遊びたい!クリアファイルといった炎上事例を時系列に振り返り、2019年に自身と「#kutoo」を提唱した石川優実氏が議論を交わしたイベント『これからの「フェミニズム」を考える白熱討論会』について「その場ではオタクとフェミニストとの対話の必要性について合意できた」としながらも、「オタクが被害者だとは受け入れてもらえなかった」といいます。

「このまま行くと、アイデンティティ・ポリティクスになって対立が深まり、社会的分断が進む」と懸念する青識氏は、「敵を倒すことが目的になっている」とTwitterなどネットでのオタクとフェミニストの先鋭化に警鐘を鳴らし、フェミニストの側に「もっと学者が対話してほしいし、そういう場がほしい」と注文をつけつつも、オタク側にも「“表現の自由棒”で殴ることはやめよう」と呼びかけ、「理由もなく炎上させられる事が傷ついて辛いということを言語化する必要がある」といいます。また、多様性が認められる社会では「自分とは異なる他者の存在の不快さを受認しないといけないし、どこまで傷つけるのはいいのか考えなければならない」と主張しました。

一方の高橋氏は、「過激さや挑発が評価されたという特徴があった」という70年代のウーマンリブ運動から2000年代のバックラッシュなどを経て現在に至るフェミニズムを俯瞰し、児童ポルノ法改正を例に出し、「権力にとって都合のよい倫理的・道徳的な正しさとしフェミニズムっぽいイデオロギーが利用されることがある」と指摘。「政府がフェミニズム的政策を進めている中、本当に重要な時には話し合いをする回路を開いておく必要がある」といいます。

第二次フェミニズムが「女性の経済的自由と性的自由を目指している」と説明する高橋氏は、「男女間の賃金格差と労働時間(賃金労働+家事育児労働の合計)の不均等配分」をデータに基づいて指摘したほか、ネットにおけるフェミニストは「本人が望まないような性的対象化をされないこと」を求めていると分析。「女性が描かれた広告を見る」ことで、次のようなメカニズムが発生しているといいます。

1、女性が描かれた広告を見る。
2、性別・年代といった属性の共通性を通して自分と関連づけて認識。
3、公的空間で描かれているものを目にして、自分が同じように見られる可能性への気付き(異性愛男性のエロさの論理を認識)。
4、エロさのあり方が本人にとって望ましくない場所やタイミング、相手からの性的なまなざしに恐怖を感じる。

その上で、高橋氏は「私は萌え絵を広告にするなとは思っていない」と述べつつ、「性差別表現でないかどうかのチェックをしてほしい」として、公的空間へ萌え絵を使う基準として次のような案を出しています。

1、服は透けさせない。
2、服を過度に肌に張り付かせない。
3、嫌がっている顔・困り顔は避ける。

ディスカッションでは、個別の炎上事例について検証。碧志摩メグについて「立っているバージョンは問題ないと思うけれど、座っているバージョンの視線の低さが気になる」という高橋氏に対して、青識氏は「オタクの側からすると、上からの視線が駄目というのは受け入れがたい」と応じました。しかし、『のうりん』コラボの炎上について、高橋氏が「小規模自治体の聖地巡礼スタンプラリー用ポスターまで大規模に燃やしてしまっていいのかについては判断が難しい。ゼロイチで語れない、難しい問題」と話す場面も。

さらに、キズナアイについて高橋氏は「キズナアイはとってもかわいいと思っていて、すごい好き」としつつも「YouTubeの画面で見ているときには全く問題に思ったこともなかったが、公共放送の画面に出てきた瞬間に、これはまずいなと思った。肩や脇が露出しているVTuberの服装が、公的な場に出てくるときのドレスコードに合致していなかったという問題であると思う」と述べて、「リアルでも、結婚式などの公式な場では、女性の肌露出に関するけっこう細かい決まりがある。非実在キャラクターでも実在人物でも公共の場に出てくるときには、一枚羽織ってきてくれたらいいのでは」と発言。青識氏は「肩を露出している服がそんなに悪いのか? 風紀委員みたいに言い立てるのがフェミニズムなのか?」と疑問を投げかけました。

また、『宇崎ちゃん』の炎上について、青識氏が「赤十字コミックマーケットで長年活動していて、オタクとの絆があった」と文脈を説明し、「オタクが献血に協力していた物語があってのコラボに、フェミニストが土足で踏み込んできたことが怒りポイントだった」と言います。高橋氏は「フェミニズムは経済的自由と性的自由の二つを追求してきた。それを踏まえて宇崎ちゃんポスターを考えてみると、服が肌に張りつきすぎているだけでなく、ウェイトレスの服装になっており、性別役割分業を想起させるステレオタイプ表象になっている点でも問題。つまり、経済的自由と性的自由という両方の自由の実現に反するものになっている」と問題点を指摘。青識氏は「これまで否定されてきたオタクが、公共の場に出してくれることが嬉しいと感じる。それを公共の場に出るべきではないと言われるのは傷つきの経験になる」と述べてます。

個別の事例に対して見解の相違はあったものの、「対話の必要性」という点では一致した今回の議論。「専門家から見ても疑問符がつく炎上があるということが知れるだけでも(フェミニストの)イメージが変わる」という青識氏は「今は敵対者を攻撃するのが楽しいという人が増えて、対話を否定する方向にネット全体が進みつつある。こういったイベントに出ることで、対話が成立しているという実証の積み重ねで否定していきたいし、対立を煽る人を退けていきたい」と述べ、高橋氏も「青識さんは、Twitterで見ていると明らかにヤバい人だが、顔を合わせて話してみれば、話せる人。こういうケースは、青識さんに限らずあるのではないかと思う。フェミニズム男女平等について初歩レベルから丁寧にみんなで考える機会を作っていくことは重要。市民同士が草の根レベルで議論を戦わせて合意を形成していくという理念を堅持し、なるべくシニカルにならずにやり続けていく必要があると思う」と意義を話します。

討論会をコーディネートした坂爪氏は「何らかの形でこのような機会を続けていければいいと思う」と手応えを示した『シンこれフェミ』。フェミニスト側の論理とオタク側の「傷つき」という事が提示されて、議論が成立した事実が収穫といえるのではないでしょうか。

シン・これからの「フェミニズム」を考える白熱討論会(#シンこれフェミ
https://peatix.com/event/1681969 [リンク]

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NHKキズナアイ起用や『宇崎ちゃん』炎上は何が問題だった? ネット論客とフェミニズム研究者が議論を展開