テレビは一日〇時間、お菓子ジュースは最小限、習い事は週〇回......。家庭によって子育てもいろいろだなと思うことがある。ただ、子育てに自信があってそうしているというよりは、何が正解かわからないけどひたすら今を積み重ねている、という親が多数派だろう。

 虹のこども園園長、シュタイナー幼児教育者である虹乃美稀子さんの本書『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)は、子育ての一つの指針になる一冊。「0歳からのシュタイナー教育で、可能性をのばす」とある。シュタイナー教育の視点から、「子育てには順番があり、それは人間の普遍的な成長発達をものさしにしている」と伝えている。

 「人間の成長発達には普遍の原則があります。昔も今も、心身を健やかに育むための必要な働きかけは、何も変わってはいないのです。今、シュタイナー教育が百年の歴史を経てなお新たに必要とされているのは、(中略)成果主義・頭ばかりを酷使するような情報化社会の中で、ホリスティックアプローチ子どもの成長を支えることがいかに大切であるかが、現場から再認識されているからでしょう」

成長の法則は「足から頭へ」

 虹乃美稀子さんは、1973年生まれ。公立の保育士として保育所や児童相談所に勤務後、シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。南沢シュタイナー子ども園で吉良創氏に師事。2008年、私塾「東仙台シュタイナー虹のこども園」を開園。園長および担任を務める。幼稚園部を中心に、未就園児親子クラスから小学生クラスまで、12年間にわたり子どもの成長を見守る草の根の教育機関として運営している。全国各地で子育て講座やワークショップなども開催。27年間で出会った子どもたちは2000名を超える。

 虹乃さんは、「シュタイナー教育」と聞くと、テレビを見せない、先生たちが大声を出さない、手仕事をたくさんする、教室が子どもじみていなくてアーティスティックなど、「独特な印象を持たれている方もいるかもしれませんね」としている。

 しかし、実はとてもシンプル。シュタイナー教育が大事にしているのは、「人間の成長発達は時代・人種を問わず普遍である」と「一人ひとりの魂は、全く個別の精神的な存在である」、この二本の柱だという。本書はタイトルどおり、「子育ての順番」がいかに重要であるかを説いている。順番を表すこの表現がわかりやすい。

 「人間の成長の法則は、下から上へ、つまり『足から頭へ』です」

 幼児期の最重要課題は、しっかりと立ち上がり、己の人生を生き切ることができる「からだ」を育てること。そのからだづくりの基礎工事が終わる目安は、7歳前後に始まる歯の生え変わり。このサインから、足からのぼって胸の領域、つまり「感情」を豊かに育てていく時期に入る。小学校入学から14歳前後、第二次性徴が起こる頃まで。それ以降、成人するまでの間に発達の領域は頭へと至り、「思考」の力を育んでいくという。

幼児期は縄文時代!?

 シュタイナー教育では、人間の成長発達は7年周期で節目を迎えると考える。本書の構成は、その成長の基本的な歩みを下地にして、より具体的な場面に添うよう「幼稚園就園(3歳)」「就学年齢(7歳)」「高学年以降(10歳以降)」で区切られている。

序章 シュタイナー教育が教えてくれたこと――子育てはアートです
第1章 乳児期(0~2歳) 現生人類への道 赤ちゃんは全身が感覚器
第2章 幼児期(3~6歳) からだをつくる縄文時代 生きる根っこの力を育てる
第3章 学齢期(7~9歳) 文字を得る時代 子どもらしく過ごせる「子ども時代」を大切に
第4章 10歳以降 蛹の時代 「子ども時代」からの脱皮に向けて

 各章のはじめに、それぞれの時期の特徴を書いている。

■乳児期(0~2歳)
 赤ちゃんは「全身が感覚器官」。子どもは小さければ小さいほど、感覚器官に飛び込んでくるいろいろな刺激を取捨選択できない。

■幼児期(3~6歳)
 ひと言で言うと、縄文時代。「いのちはみんなつながっている」という世界に生きている感覚。この時期の子どもを理解するキーワードは「オープンマインドオープンボディ」。必要なのは、何よりも人との関わり、愛情に基づくやりとり。

■学齢期(7~9歳)
 「からだづくり」を担っていた子どもの生命力にゆとりが生まれ、「学習」という抽象的な思考活動を助けることができるようになる。肝心なのは、必要な時間を十分にかけてあげること。

■10歳以降
 9歳前後になると、「いのちはみんなつながっている」という世界に自分を開ききっている状態から、少しずつその扉を閉じて、「自分」を感じながら、内面を豊かにしていく時期に入る。

 こうした特徴をザックリつかんだ上で、各論に入っていく。たとえば、乳児期は「赤ちゃんがいるところでは、画面を消して」、幼児期は「挨拶をさせることよりも、挨拶しているところを見せ続ける」、学齢期は「習い事は子どもの気質を見極めて一つに絞る」、10歳以降は「心の土台を作る時期にできること」など、50項目以上。虹乃さんの27年間の経験と、シュタイナー教育の考え方に裏付けされたアドバイスには説得力がある。個々の内容は、ぜひ本書をお読みいただきたい。

子育てはアート

 虹乃さんが園で指針としている言葉は「生きる根っこの力を育む」。子育ての相談を受けるなかで、虹乃さんは最近、この「根っこの力」がグラグラと弱い子どもが増えているのを感じている。

 「世の中のめまぐるしい変化に押し流されるようにして、子どもたちの発達の順番を無視した促成栽培のような教育や子育てが、知らず知らずのうちに蔓延しているからかもしれません」

 よその子が早くから英会話や勉強を始めていたら、うちの子もやった方がいい? と親は気になるもの。しかし、虹乃さんによると「人間の成長発達の普遍的な順序を踏まえておかないと、そのとき育まれるべきもの、また後から育つべきものが弱まる恐れがあります」。たとえば、からだを育てる時期に、早期教育や知能開発をさせすぎることのデメリットにもふれている。

 本書を通して、虹乃さんが伝えたいことは二つ。ここまで取り上げてきた「子育てには順番があるよ」ということ、そして「子育てはアートですよ」ということ。子育てはアート? アートとは無縁のドタバタな日々の連続に思えるが......。

 「子どもを育てるということは、唯一無二のオリジナルな魂に寄り添うということです。そこには正解もなければ、すべての子どもに通用するようなノウハウもありません。(中略)手探りしながら、試行錯誤しながら、直感を頼りに子どもに寄り添うとき、あなたの行いはそのまま芸術行為となっているのです」

 「シュタイナー教育の育児書」と聞くと身構えてしまうが、本書は虹乃さんが日々接している園の子どもたちの様子、子育て中に頻繁に遭遇するシーンを例に挙げていて、馴染みやすい。なんとなくよさそう・よくなさそう程度の認識だったことが、理由とともに、こうしましょう・これはやめましょうとハッキリ書かれていて、学齢期の子を持つ評者も勉強になった。

 女性の園長先生ということで、柔らかい語り口をイメージしたが、虹乃さんはあたたかくもあり、時に厳しくもあった。虹乃さんが子どもたちを思う気持ちの強さが、そうした凛とした姿勢となって表れているのだろう。子どもにシュタイナー教育を受けさせたい親御さんはもちろん、そこまでこだわっていないという親御さんも、知っておきたい子育てのヒントが満載だ。

  • 書名:  いちばん大事な「子育て」の順番
  • 監修・編集・著者名: 虹乃 美稀子 著
  • 出版社名: 株式会社青春出版社
  • 出版年月日: 2020年11月25日
  • 定価: 本体1380円+税
  • 判型・ページ数: 四六判・224ページ
  • ISBN: 9784413231787

BOOKウォッチ編集部
子育てでいちばん大事なのは何?