育児をしている保護者であれば、「幼い子どもが言うことを聞かずに困った」という経験が一度はあると思います。体罰や虐待への世間の目が厳しくなっていることから、子どもに身体的な痛みを与えて言うことを聞かせることは昔より少なくなったとみられますが、「○○をしないと、おやつはあげない!」などと子どもを脅かして、言うことを聞かせようとする、いわゆる「脅し育児」をする保護者はまだ多いのではないでしょうか。

 脅し育児は子どもにどのような影響があるのでしょうか。子育てアドバイザーの雨宮奈月さんに聞きました。

背景に“怖い存在”の減少

Q.そもそも、脅し育児とは具体的に、どのようなものなのでしょうか。

雨宮さん「子どもが言うことを聞かないからと『鬼が来るよ』『注射を打ってもらうよ』『ゲームをさせないよ』など、子どもにとって怖いものや嫌なことを引き合いに出し、大人の言うことを聞かせようとするものです。脅し育児には、賛否両論があります。『子育てには、子どもにとって“怖い存在”が必要だ』という意見に対し、『子どものトラウマ(心的外傷)になってしまう』『うそはよくない』という意見もあるようです」

Q.なぜ、保護者は脅し育児をすることがあるのでしょうか。

雨宮さん「育児には本来、子どもにとっての怖い存在、すなわち、偉大でかなわない存在も必要だと思います。例えば、昔ながらの厳格なお父さんや怖い先生などが子どもにとっての“襟を正す相手”だったのですが、保護者が脅し育児をする背景には、この怖い存在が減ってしまっていることがあると私は考えます。

子育てをする上で、母親(もしくは育児を中心にする人)と子どもの2者間だけでは成り立たない関係というものがあります。登場人物が2人しかいないと、どうしても『叱る人』『叱られる人』にしかなれません。いつもいつも叱る役を担うのはつらいものがあります。

しかし、そこに新たな登場人物が加わることで、『叱る人』『叱られる人』に加えて、母親が『子どもと一緒に叱られないように頑張る人』、すなわち、子どもサイドに立ち、一緒に考えて解決していく同志に成り得るのです。現実には、そうした怖い存在がいないために、脅し育児になってしまうのでしょう」

Q.脅し育児により、子どもに何らかの悪影響があるのでしょうか。ある場合は、どのような悪影響でしょうか。

雨宮さん「脅し育児は子どもに悪影響があり、私は基本的に反対です。『先生に怒られるよ』『お巡りさんに怒られるよ』などという脅しをたまに耳にしますが、これは子どもが成長していくと『先生に見つからなければやってよいのだ』『お巡りさんに気付かれなければよいのだろう』という解釈をしてしまい、親の言葉の本質を理解しないで終わってしまうことがあるからです。

何のためにその行動をしているのか、どうして言われたのか分からないまま、『大人の見ていないところでなら悪さをしていい』などと勘違いをしたまま、育ってしまうかもしれません。そのため、子どもには『後で困るのは自分だよ! なぜなら…』と理由をたくさん説明してあげてください。今すぐどうにかしたい場合でも、脅すのではなく、この一回から、『本当に実行することで気付かせる』ことを始めてみてください。

例えば、『お片付けしないと鬼が来るよ』と言うだけでは『鬼を来させないためのお片付け』になります。『次に使うときのため、なくさないで大事に使うため、踏んで壊さないために、元あった場所に戻そうね』という、お片付けをしないといけない本当の理由を伝えないと似たような場面で自分で考えることができず、『言われないと片付けない子』になってしまいます。

また、『○○しないと怖いことが起こるよ』という言われ方をして育つと、他人に上手に頼み事やお願い事ができなくなる可能性があります。『こういう理由があるからこうしてほしい』という話し方ができずに強く要求することしかできず、人間関係に支障が出てしまうかもしれません」

Q.こうした脅し育児を頻繁に使うことで、将来、子どもが保護者になったとき、同じことを繰り返す「親から子への連鎖」が起きることはあるのでしょうか。

雨宮さん「自分の親と同じ子育てをする人と親を反面教師にする人がいますので、一概には言えません。しかし、違うやり方があるということに気付かないと、育児とはそういうものだと考える人も多いでしょう」

Q.子どもがどうしても言うことを聞かない場合、保護者はどのように対応することがベストなのでしょうか。

雨宮さん「繰り返しになりますが、『後で困るのは自分だよ! なぜなら…』と理由をしっかり説明してあげてください。脅しではなく、筋の通った一貫した方針で子どもに接しましょう。そして、親自身も自分が言ったことを確実に実行していくことで信頼を積み重ねていくのです。

信頼関係で一番見落としがちなポイントですが、『今忙しいから後でね』と先送りした子どもからのお願い事は後で必ず聞いてあげてください。この『お母さん、お父さんは自分にうそをつかない』という信頼が、子どもが言うことを聞く一番大事なポイントになります」

オトナンサー編集部

「脅し育児」による影響は?