法務省・出入国在留管理庁の施設で収容されている外国人を支援している団体「牛久入管収容所問題を考える会」(牛久の会)が12月13日茨城県つくば市で年間活動報告会を開いた。

牛久の会(代表:田中喜美子さん)は、まだ世間に東日本入国管理センター(牛久入管)の存在がほとんど知られていなかった1995年から、四半世紀にわたって外国人の収容者への面会を続け、入管側に彼らの処遇改善を訴えてきた。

この日は、田中さんの基調提案から始まり、外国人の人権問題に最前線で取り組んでいる駒井知会弁護士や大川秀史弁護士による講演、牛久入管に足を運んだ学生たちや仮放免者による報告があった。

4時間にわたる報告会は、明確な規定や理由を示さないまま長期収容を続ける入管側の方針がもたらした、収容者を取り巻く「普通」とは言い難い状況を浮き彫りにした。(取材・文/塚田恭子)

●まだ長期収容されたままの人たちがいる

多くの関係者が指摘するように、ここ数年、改善の兆しが見えない入管による長期収容。ただ、今年は世界的なコロナ禍の下、日本でも政府による緊急事態宣言4月7日に発令されると、「3密解消」と称して、全国の収容所で仮放免の許可が下りた(同時に4月27日から5月25日まで面会は禁止とされた)。

常時300人ほどが収容されていた牛久入管でも、4月中旬から一斉に仮放免が認められ、現在の収容者数は100人前後。だが、長期の収容が解かれたことは「必ずしも良いことばかりではない」と田中さんや駒井弁護士は話す。

理由の一つは、長期の収容者がまだ取り残されていること。多くの人に仮放免が出たのに、自分だけ認められないことが、残された人にとってどれほどのダメージになるかは想像に難くない。

もう一つは、仮放免が出ても就労は認められない彼らが、コロナ不況の中で、どうやって生活していくのかということ。仮放免の当事者である韓国国籍の金毅中さんが「仮放免者は社会の底にいるけれど、コロナ禍によってその底が抜かれた」と話すように仮放免の制度上の課題は大きい。

調査官によるインタビューの際、自分を犯罪者のように扱われて絶望し、「動物として日本で生きるより、自分の国で人間として死ぬ」と語った難民申請者。

昨年のハンガーストライキでは体重が20キロ減り、身体がボロボロになってようやく認められる、わずか2週間の仮放免。再収容の恐怖におびえながら牛久入管に戻り、またハンスト、申請、2週間の仮放免を繰り返す収容者……。

●「日本の長期収容は絶望的な状況だ」

オンライン参加となった駒井弁護士は、自身が担当する難民申請者のケースを挙げ、入管は「人を人として遇する社会」から全力で逆走していると、その方針や施策を批判する。

駒井弁護士は、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』(編集部注:強制収容所の体験記)を挙げて、人間は先が見えない(=自分がいつまで収容所にいなければならないのかわからない)状況が続くと絶望し、自傷行為などを起こしてしまうと、収容者の置かれた状況を懸念する。

また、長期収容を批判する国連の恣意的拘禁作業部会が「入管の収容所を現地調査したい」と要望書を出しているのに、日本が受け入れていないことを挙げて、国際社会の目を入れなければダメなほど、今の日本は絶望的な状況であるともいう。

●収容所内の医療体制を懸念する声も

難民認定率の低さや、収容者の人権が尊重されていないことへの驚き。そして牛久入管の建つ場所や建物自体について、「(国はここを)外には知られたくない、隠しておきたいと思っているのではないか。そんな気配を感じた」と話すのは、授業の一環で、牛久の収容者に面会した千葉明徳短期大学の学生たちだ。

面会に行っても、収容者が自分たちを受け入れてくれるか。最初はそんな不安もあったものの、自分が苦しい状況に置かれているにも関わらず、明るく接してくれる収容者との面会を通じて、彼らへの印象が変わっただけでなく、仮放免についても許可・不許可に明確な基準がないなど、収容者に精神的な苦痛を与える入管の制度にも問題を感じたという。

同大学の講師で、彼らを引率した牛久の会の会員の鶴田真二さんは、収容所内の医療体制を懸念する。

「具合が悪いので診療してほしいと申請しても、診てもらうまでに1週間から10日、長い人では2カ月かかっています。明らかに体調が悪い人に対しても、大丈夫の一点ばりで、医師によって対応はバラバラ。外の病院に行くときも、手錠・腰なわをつけられているので、彼らも周囲の視線が気になってしまう。入管は、外国人を人として見ていないのだと思います」

長期収容は、多くの収容者の心身に弊害をもたらしている。医務室一つだけでは対応できないのか、牛久入管では、仮設の医務室が設置されたことも、今回、話題にあがった。

仮設の医務室は、階段下をベニヤで囲った間に合わせのものだ。3畳ほどのスペースにベッドと椅子を置いてあり、輪番の医師と、准看護師の資格を持つ入管職員が体調不良を訴える収容者の診療にあたっているという。

まだ特定はできていないものの、患者に対して罵詈雑言を吐き、「おまえの命は自分が握っている」などと口にする医師がいることを複数の収容者が証言している。牛久の会やほかの支援団体も、この医師を特定するための調査に動いている。

●20年間も「仮放免」のままの難民申請者の言葉

在留歴27年、同胞の通訳を頼まれることも多いクルド人のアリ・アイユルディズさん。これまで5回も難民申請したが、認定が下りず、20年間も仮放免のままだ。

「日本人は緊急事態宣言が出てステイホームを要請された1カ月半、不自由を感じたというけれど、仮放免は塀のない刑務所にいるようなもの。私は20年間、コロナ禍にいるようなものです」と在留許可のおりない自身の不安定な状況を話す。

また、この秋の臨時国会では見送られたものの、来年の通常国会で提出が検討されている入管法改正案が通れば、「自分は真っ先に強制送還されるだろう」とアリさんは不安を口にする。

現行法では、難民申請者を強制送還できない。だが、法務大臣の私的懇談会「収容・送還に関する専門部会」は、難民申請の回数に制限を設けるほか、仮放免の保証人よりも重い義務が課される監理措置制度、個別の事情に関わらず、退去強制を拒否した者への罰則として送還忌避罪・仮放免逃亡罪などを設けることを提言している。

アリさんは2008年、日本人女性と結婚。生活の基盤は日本にありながら、それでも在留許可が下りない現在、東京高裁でたたかっている。「時間がある人は、ぜひ裁判を傍聴してください。傍聴者が多ければ(人々が関心を寄せれば)、裁判官にもプレッシャーになるので」

アリさんの言葉は、収容者への面会を続けることで、入管に対して〝誰かが見ている〟と訴える牛久の会をはじめ、多くの支援者の考えに通じている。

●コロナ禍で一層、生活に困窮している

入管法改定についてのロビー活動、人権を侵害された個人が条約機関へ訴えを起こし、救済を求める個人通報制度の整備に尽力している大川秀史弁護士によると、現在、仮放免者のうち300人が未成年だという。

その中には、この日の劇に参加したクルドの子どもたちのように、日本で生まれ育ちながら、在留資格がない子もいる。政府は、彼らにどこへ帰れというのだろう。

新型コロナウイルスの影響で失業した人は、11月時点で7万人以上。この数字は厚生労働省ハローワークなど、公的機関を通じた調査によるもので、実際の失業者数はさらに多いと見られている。

日本人にとっても厳しい経済状況下で、仮放免が認められても、就労を禁じられている収容者の多くは生活に困窮している。

会場からは、仮放免者の生活支援についての質問も挙がったが、食糧支援をしていたNPOなども資金が底をついて、活動を休止している状況だという。

●「弁護士の中にも入管問題を知らない人がいる」

報告者やクルドの子どもたちも含め、約100人が参加した今年の報告会。

「弁護士の中にも入管問題を知らない人がいるので、この問題について働きかけていきたいです」

地元・茨城弁護士会に所属する女性弁護士が話したように、彼らの労働という下支えによって成り立っている面があるにも関わらず、隣にいる外国人を見ようとしない日本社会。彼らが置かれている現状に少しずつでも目を向けてもらうために、牛久の会をはじめ、支援者たちは地道に活動を続けている。

牛久入管で暴言「お前の命は握っている」 コロナ禍でも残された「長期収容」の闇