今年、2020年は『ドラえもん』のまんが連載開始から50周年。
長年愛され続けているキャラクターは数多くあるが、リバイバル人気などではなく、50年間コンスタントにまんがやテレビアニメ、映画の新作が生み出され続けているキャラクターというのは他になかなか見当たらない。
昨年出版された『ドラえもん 0巻』は累計63.1万部(紙のみ)を突破。それに牽引されるように関連書籍もこの1年間で500万部以上を売り上げているという。
50周年イヤーとなる今年は『のび太の新恐竜』『STAND BY ME ドラえもん 2』という2本の映画公開をはじめ、てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版全45巻セット『100年ドラえもん』の出版や多数のグッズ発売などでファンを狂喜乱舞させてくれた(お財布は大変なことに!)。
ただ今年は新型コロナウイルス感染症の拡大もあり、『ドラえもん』50周年企画への影響も少なくはなかったはずだ。そんな激動の2020年を藤子・F・不二雄プロ専務取締役・赤津一彦氏に振り返ってもらった。

取材・文 / 北村ヂン

◆コロナ禍で生み出された新しい取り組み

「『ドラえもん』50周年を迎えるに当たって、長年支えていただいたファンの皆様への恩返しとして喜んでいただけるように、『ドラえもん』らしさを忘れないようにということは心がけていました。映画の公開や出版など様々な仕掛けを打ってきましたが、コロナ禍となった4~5月に『STAY HOME企画』として新聞広告を打ったり、11月22日いい夫婦の日)に結婚式を挙げられなかったカップルのためにSNSで展開を行ったり。こういう状況だからこそ行えた仕掛けというのは心に残っていますね」

新型コロナウイルス感染症の拡大の影響による一斉休校や緊急事態宣言など、暗いニュースの多かった2020年だが、その中でドラえもんからの「だいじょうぶ、未来は元気だよ。」というメッセージや「のび太になろう。」の新聞広告に勇気づけられた人は少なくないだろう。

コロナ禍における映画館での新しいマナーを提案した「ドラえもんの新しい映画様式」のポスター・動画も印象的だった。

「当時はストレスを抱えているお子さんたちや親御さんたちに安心して映画館に来てもらいたいと思い、自分たちで制作して映画館に営業に行ったんです。またこれには後日談があって、『新しい映画様式』を見ていただいたJR西日本様からのご依頼で『新しい電車様式』も制作することになりました。こういう風に広がっていったのも、ドラえもんがたくさんの方たちに愛されているからだなと思っています」

コロナ禍では、当初3月に公開が予定されていた映画『のび太の新恐竜』が8月公開に。8月公開予定だった『STAND BY ME ドラえもん 2』も11月公開になるなど、大きな影響があった。

東日本大震災の時にも映画の公開は続けていましたので、公開延期というのははじめての経験でした。延期は決定したものの、いつ公開できるかまったく分からないという状態で。関係各所と議論を続け、興業の成功は二の次として、50年間支えてきてもらった皆様が安心して映画館に来ていただけるよう、8月公開ということになりました」

ドラえもんの映画は例年3月に公開されているが、劇中の季節は夏に設定されていることが多い。
公開が延期されたのは残念だったが、『のび太の新恐竜』が8月公開となったことで、図らずも夏が舞台の映画を夏に観ることができるという、ファンにとっては嬉しいサプライズもあった。

「『のび太の新恐竜』最後のシーンも、夏の空色が映えていてよかったですよね。普段、3月公開なのに夏が多いというのは、通常のテレビアニメとは違って宇宙だったり南極だったりと大冒険する話が多いので、“非日常を体験する”という意味で“夏休み”というのがすごく相性が良かったのかなと思います。のび太くんが『夏休みに行くところがな~い』という導入も多いですし(笑)」



◆『ドラえもん』を100年先まで残す!

出版関係での大きな企画としては、てんとう虫コミックス『ドラえもん』を100年先まで残そうと制作された豪華愛蔵版セット『100年ドラえもん』の出版があった。長年、定番となっているてんとう虫コミックスを、このタイミングで作り直すことには、どのような意図があったのだろうか。

「私どもの仕事は、藤本弘先生(藤子・F・不二雄)の良質なエンターテインメントを提供し、後世につないでいくことだと思っています。てんとう虫コミックスというのは、藤本先生ご自身が選んだエピソードが詰まった傑作選なんですね。既に三世代でドラえもんを楽しんでもらっているご家庭も増えており、さらに次の世代へつないでいって欲しいということで、紙や材質にこだわった100年後も残せるような本を作りました」

ドラえもん』のまんがを100年先まで残すためには、藤子・F・不二雄の原作をそのまま守っていくだけではなく、変えるべきところは変え、挑戦し続けることが重要だと赤津氏は語る。

「藤本先生の作った世界観やメッセージはこれからも変わらず維持していきますが、何もしなければ、このめまぐるしいデジタル時代ではすぐに忘れ去られてしまうので、時代に合わせたギミックや、新しいメディアに挑戦していくことも必要だと思っています。『STAND BY ME ドラえもん』ではフルCGアニメという新しい挑戦をしていますし、テレビアニメでも、星野 源さんの歌うオープニング映像は非常に現代的なものになっています。CMの世界でも、様々な広告クリエイターの方がドラえもんを素材に楽しいCMを作ってくれているんです」



日本国内で公開される予定はないそうだが、中国向けとして『STAND BY ME ドラえもん 2』の3D上映も予定されているという。『ドラえもん』の世界に入り込んだかのような体験ができるすごい映像になっているようだ(うらやましい!)。
このように『ドラえもん』は日本だけではなく、世界中でも愛されているのだ。

「特にアジア圏での人気は根強いですね。中国、ベトナム、タイ、台湾、インドネシアインドなどでは長くテレビ放送や配信、まんがも翻訳されて出版されていますし、グッズもとても売れていて、国内よりも調子がいいくらいなんですよ」

幅広い世代に向けての施策として、グッズ展開のターゲットも広がっているように思える。かつてドラえもんグッズといえば子ども向けのものばかりだったが、近年では大人も普段使いできるようなグッズが増え、親子揃ってドラえもんグッズを愛用している家庭も多そうだ。

「子どもさんたちはもちろん、今はアニメや、まんがに触れていない方たちにも届くような企画を考えています。たとえばPAUL & JOE BEAUTEとコラボした化粧品が11月から発売されていますし、Jack Bunny!!のゴルフ用品も大変好評をいただいています。さらに、なんとGUCCIとのコラボ商品の世界展開もまもなく開始予定なんです。一方、ユニ・チャーム様の紙おむつとのコラボなどもあったりして、『ドラえもん』人気の幅広さを感じていただけると思います」

◆作品に込められたメッセージが時代をこえる

ひとくちに50年といっても相当に長い時間だ。おそらく現代の子どもたちは『ドラえもん』に登場する土管のある空き地も、「もしもボックス」の元ネタである電話ボックスも、ヘタしたら「タケコプター」の元ネタ・竹とんぼも見たことがないのではないだろうか。
ある意味では古い、昭和の時代のまんがともいえる『ドラえもん』が、今なお愛されて続けている理由はどこにあるのだろうか。

「藤本先生が作品に込められたメッセージ……他人を思いやる心や、未来を信じる力。そういったものがみなさんに受け入れられているのかなと思います。『ドラえもん』は学年誌で連載されていたので、たとえば『小学一年生』に載っていたものと『小学三年生』に載っていたものでは設定も内容も少しずつ変えているんです。藤本先生は子ども目線をとても大切にされていて、そんなところも親しみを感じてもらえている理由なんじゃないでしょうか」

子どもたちに向けてはもちろん、大人の鑑賞にもたえる本格的なSF作品、ヒューマンドラマとしての完成度の高さも『ドラえもん』の魅力だ。

「私も小さい頃から『ドラえもん』を読んできましたが、50歳になった今、読み返すとまた違う感情を抱くんですよね。『STAND BY ME ドラえもん 2』の原作にもなっている『おばあちゃんの思い出』や『ぼくの生まれた日』などは、大人になってから読んでこそ味わえる感動があると思います」

◆来年は『ドラえもん』以外にも……

50周年イヤーを終えても『ドラえもん』の歩みは止まらない。早くも2021年公開の映画が『のび太の宇宙小戦争リトルスターウォーズ)2021』になることが発表されている。1985年に公開された『のび太の宇宙小戦争』のリメイクとなる本作。親世代が夢中になっていた時期の映画でもあり、親子一緒になって楽しめそうだ。



ただ、新たなオリジナル作品を生み出すこと以上に、藤子・F・不二雄の手によって完成されている作品を作り直す作業には苦労があるのではないだろうか。

「新しい映画の制作に入るときには、その映画が公開される頃、世の中がどう変わっているのか・変わっていなのいかというところから議論していますね。『宇宙小戦争』も、最新のCG技術を駆使してリアルな宇宙空間が表現されていることはもちろん、1985年当時から宇宙に関する研究も進んでいますので、そういった最新の学説を取り入れた内容にするということにもこだわっています」

のび太の新恐竜』でも恐竜の進化などに関して最新の学説が取り入れられていた。
藤子・F・不二雄も、その時々の科学や生物学、SF知識などを駆使してストーリーを生み出しており、『ドラえもん』きっかけで様々な分野に興味の幅を広げた子どもも少なくないはずだ。

「このコロナ禍で、『ドラえもん』の知育・教育の本の売れ行きがすごく伸びています。ドラえもんが紹介することによって科学を理解できる、未来に興味が持てるという側面はあると思います。私どもは新しい科学技術を開発することはできませんが、『ドラえもん』で科学に興味を持った研究者が、『どこでもドアを作りたい』『ほんやくコンニャクを作りたい』なんて気持ちから、新たな技術を生み出す。……そんな一助にはなっているかも知れませんね」

ドラえもん』で盛り上がった50周年イヤーだが、藤子・F・不二雄は『ドラえもん』以外にもたくさんのマンガ、キャラクターを遺している。ファンとしては、その他のキャラクターにもスポットライトを当てて欲しいところだが……。

「来年は藤子・F・不二雄ミュージアムが開館10周年を迎えますし、2023年には藤本先生の生誕90周年となります。今後も『ドラえもん』に限らず、先生の多くの作品を新しい切り口で発信していくというのが私たちの使命ですので、楽しみにしていてください!」

ドラえもんが誕生する2112年9月3日まであと92年。今の新生児たちなら生きている可能性が十分にある、そんなに遠くはない未来なのだ。
ボクたちは生き残っていないだろうが、2112年ドラえもん生誕イベントが盛大に開催されることを願い、100年先に向けて応援していきたい。

100年先にも作品のメッセージを伝えたい――『ドラえもん』連載開始50周年イヤーを振り返る、藤子・F・不二雄プロ専務取締役・赤津一彦さんインタビューは、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press