米国の次期大統領民主党ジョー・バイデン氏に決まったが、大統領就任前から嵐が吹き荒れそうな様子だ。

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 一つはバイデン氏の息子、ハンター氏。12月9日、連邦検察当局から税務調査を受けていることを明らかにした。

 今年9月には上院国土安全委員会と財政委員会が、同氏の関与に関し、調査報告書を発表し、「ハンター氏と取引のあった中国人全員が、中国共産党および人民解放軍と関係があり、数百万ドルにも上る疑わしい取引や現金の授受があった」と断定している。

 もう一つは、今回の大統領選にも民主党の指名争いに出馬したエリック・スウォルウェル下院議員(40歳、カリフォルニア州選出)。

 中国共産党女スパイと密接な関係になり、情報収集に協力していたという疑いが持ち上がっているのだ。

 このニュースをすっぱ抜いたのは、独立系のオンラインメディアである「アクシオス(Axios)」。ニューヨークタイムズワシントン・ポストなどの有力メディアを辞めたジャーナリストらが設立した会社だ。

How a suspected Chinese spy gained access to California politics - Axios

 バイデン次期大統領の息子ハンター氏が税務調査を受けていると明らかにした12月9日の前日、8日のことだった。

 この事件の発覚はある意味、ハンター氏の問題以上に次期政権にとって痛手となりそうだ。

 というのも、スウォルウェル氏は、彼と同じカリフォルニア州選出の民主党ベテラン議員、ナンシー・ペロシ下院議長から寵愛されているだけでなく、同氏の推薦で米政府の機密情報に通じる下院情報特別委員会に所属しているからである。

 米下院共和党トップの院内総務、ケビン・マッカーシー(カリフォルニア州選出)議員は12月18日FBIから同案件に関する事情説明をぺロス氏とともに受けた後、「国家や国民を欺き、国家の安全を揺るがした」とスウォルウェル氏を強く非難した。

 スウォルウェル氏が下院情報特別委員会の委員だけでなく、議員も辞めるべきだととの見解を示し、同氏や民主党への追及姿勢を強めている。

 一方、アクシオスのスクープを受け、米フォックスニュースは12月10日、米情報機関の元当局者の話として、「中国人スパイの標的は、一部の政治家ではなく、(中国当局が)米政界にすでに深く浸透している」と警鐘を鳴らしている。

The Five' call out Swalwell's 'hypocrisy' after ties to Chinese spy revealed - YouTube

「米国内に数千人もの中国人スパイが活動している」とも明らかにした。

 さらに、そのターゲットの多くは、既婚男性だが、昨今増加する同性愛者の議員への対応も怠らないという(ちなみにバイデン新政権の運輸長官は、歴代初の同性愛者)。

 性交渉の場面をビデオなどで秘密裏に記録され、情報提供と交換で取引を強要され、脅迫されるという。

 また、これらの中国人女性スパイは中国や海外の名門校の出身で、卓説した英語能力を持ち、SNSのフェイスブックやリンクトインなどを駆使し、将来有望視される政治家を狙って、工作活動を展開しているという。

 一方、米ニュースマックスは12月10日、リチャード・グレネル国家情報長官代行の発言として、「中国人スパイハニートラップに市長などの地方政府首長や民主党の州知事、さらには多くの国会議員が陥れられた」と報道。

 また、同氏は国連にも多くの中国人スパイが接近していて、「国連のすべての部門に潜入している」と明らかにした。

 グレネル長官代行は、「新型コロナウイルスの発生源が中国であることは、中国当局にとって面子を台無しにされ、顔に泥を塗られたような事態で、その状況打開のため、中国がスパイ活動を強化している」と指摘する。

 さらに、「被害は米国だけでない。中国は多くの西側諸国にも同様のハニートラップを仕掛けている」という。

 今回暴露された中国人女性スパイは、方芳(ファン・ファン、別名クリスティーン・ファン)と名乗り、米諜報機関は、中国国家安全部(MSS)の情報工作員だと見ている。バラク・オバマ政権時代に米国での活動を始めたとみられている。

 中国によるハニートラップのスクープを放ったアクシオスは、過去1年間にわたり米諜報機関高官や女スパイ方芳と接触した政治家など数十人について徹底調査、方芳の活動と履歴を綿密に辿っていった。

 それによると、方芳は年齢が20代後半から30代前半で、2011年にカリフォルニア州立大学イーストベイ校に留学生として米国に入国。

 2015年6月に米諜報機関の捜査から逃れるように米国を後にし、中国へ逃亡するまで在サンフランシスコ中国総領事館の指令の下、別の工作員らと密に連絡を取っていた。

 方芳を知る人物は「親しみやすい雰囲気のある一方、個人的なことや自身の家族のことなどを一切明かさなかった」と話す。

 方芳は白いベンツを乗り回し、羽振りがよさそうだったいう。大学時代には中国人留学生が組織する学友会会長などを務めてもいた。

 その地位を利用し、カリフォルニア州を拠点に首都・ワシントンDCなど全米で米政治家の選挙資金を集めるイベントに積極的に参加。そこで中国企業の大物献金者を紹介するなど資金集めに協力し、米国内での親中世論形成の任務にも就いていた。

 また、方芳は米国の大物政治家を招くイベントも企画した。そこには中国総領事館の協力や彼女が作った米政経界の人脈をフル活用したとみられている。

 その中には、カルフォルニア州のロー・カンナ下院議員や同州選出で下院議会に慰安婦問題の対日謝罪要求決議案を提出した代表提案者で親韓のマイクホンダ下院議員らの名もある。

 もっとも、ホンダ氏はアクシオスのインタビューに、「方芳氏との接触の記憶はない」と話したという。

 さらに、方芳はオハイオ州などの中西部の地方都市の市長2人と、3年以上の性的関係を持っていたといい、そのうちの1人の市長とは親子ほどの年の差があったという。

 同市長は親友らに「方芳は自分のガールフレンドだ」と紹介していたそうだ。

 アクシオスは米情報機関の話として、「今回の女性スパイ事件について、中国共産党が長年にわたり米政界への浸透工作を実行してきた証拠だと分析、国会議員になる前からトラップをかける目的で近づいている」との見方を紹介している。

 将来、米政界に影響力を及ぼす州知事や国会議員になる有望な市長や市議員、州議員などをターゲットに定め、時には数十年間も費やす工作活動も行っているという。

 また、中国人スパイは目的に応じて、様々な米国人をターゲットにするという。

 スウォルウェル氏の場合、同議員だけでなく、友人、事務所のアシスタント、インターン、さらには家族や議員周辺人にも接触。その目的は、利用価値の高い獲物のすべての人脈をスパイ活動にフルに利用するためだという。

 方芳は、スウォルウェル氏がカリフォルニア州ダブリン市の市議員だった時代から標的にし、接近。

 同氏は32歳で民主党の最年少の下院議員に当選。2014年の中間選挙で、方芳はスウォルウェル議員の選挙活動に積極的に参加し、事務所の中心的スタッフとして資金集めに携わった。

 同議員の事務所には、別の中国人女性スパイを1人常駐させるほど、事務所を切り盛りするまでになっていた。スウォルウェル議員を再選に導いた立役者でもあった。

 しかし、方芳の活動を監視していた米捜査当局は2015年、その正体をスウォルウェル氏に説明。同氏は方芳との関係を絶ったという。

 そして、2015年6月。米情報機関が捜査を進めていると知った方芳は、突然姿をくらまし、中国国内に逃亡したことが明らかになった。

 一方、スウォルウェル氏は同年、同じカリフォルニア州選出の民主党ベテラン議員、ペロシ下院議長に寵愛され、国家機密に通じる下院情報委員会メンバーに就任した。

 以来、スウォルウェル議員は過去4年間、トランプ大統領政権に対して、大統領選へのロシア介入疑惑を追及する急先鋒となった。

ロシアはトランプがお好きだ。バイデンを倒すために積極的に動いている」などと舌鋒鋭く責め立てていた。

 ロシア疑惑を追及するそのスウォルウェル議員も、自身は中国スパイとの深い関係を持っていたわけで、罪人が罪人を追及するかのような“喜劇”が演じられていた。

 同議員は、2015年に方芳との関係を断ち切ったというが、本人と兄弟、父親のフェイスブックアカウントには最近まで、彼女と友人関係を継続していた痕跡が確認されている。

 米下院共和党トップの院内総務ケビン・マッカーシー議員は、中国人スパイを20年間運転手として最近まで雇用していた同じくカリフォルニア州選出のダイアン・ファインスタイン上院議員(民主党)の例を挙げ、今回の中国スパイ事件は「氷山の一角に過ぎない」と非難している。

 また、スウォルウェル氏が、ジョン・ラトクリフ米国家情報長官の中国スパイに関する警告を逆に批判していたことに言及し、「情報長官を攻撃したのはこのスウォルウェル氏だけ。その理由がようやく分かった」と話す。

「スウォルウェル議員は、情報委員会だけでなく、連邦議会からも追放されるべきだ」と批判している。

 FBIは2019年5月、州、市などの地方自治体で発生した中国のスパイ活動を取締まる部署を設置したが、「今回の方芳のケースは、多くの中国人スパイの一人に過ぎない」と警戒している。

 米陸軍出身で大尉だったダレル・アイサ(カリフォルニア州選出、共和党)下院議員は12月11日フォックスニュースの取材に対し次のように明かしている。

中国共産党は3層構造のスパイネットワークを保持している。プロの情報部員のほかに、隠れてスパイ活動を行う様々な企業を持ち、膨大な数の留学生ネットワークを活用している。スパイと呼べる人数は、数十万にも及ぶ」

 さらに、12月8日のニュースマックスのインタビューでは、中国当局は機密情報の窃取に中国人留学生を利用していると強調。

「ハイテク技術を学ぶロシア人留学生は卒業後、米国に残ることは少ない。しかし、中国人留学生は卒業後も米国に残留する。それは、彼らの家族が脅迫されているため、中国当局に協力せざるを得ないからだ」と明らかにした。

 中国人留学生は、米国で学んだ知識を中国政府に報告する義務がある。そのため卒業後も中国に帰国せず、米国の連邦政府機関に勤務する者も多い。

「中国人のスパイネットワークが、ロシア人のネットワークより相当深い構造を形成していることを意味する」と、アイサ下院議員は警戒する。

 さらに、アクシオスがスクープした翌日の12月9日マイク・ポンペオ国務長官はジョージア工科大学での演説で、中国共産党スパイ活動を次のように強く非難した。

「中国政府は、米国の技術革新に決して勝らないことを知っている。彼らには国有企業はあるが、これは政府を中心とした独裁政権だ。だからこそ、中国は毎年40万人もの学生を大量に米国に送り込んでくる。これは偶然ではない」

 今回、方芳が活動の中心としたカリフォルニア州も決して偶然ではなく、中国に狙われる理由があった。

 西海岸のベイエリアが、複数の米政界実力者の地盤であり、歴史的に米国の重要な政治のハブでもあり、世界のIT産業の中核をなすため、「中国の産業スパイ活動の温床となっている」(米軍事インテリジェンス専門家)。

 また、ベイエリアにある中国系住民コミュニティは、米国で最大かつ最も古い華僑コミュニティであり、中国情報部門がここをスパイ活動の拠点とし、同時に華僑の中国系米国人の住民への監視を強化しているからとも見られている。

 中国は、米国にとどまらず全世界でハニートラップを仕掛けてきた。

 リチャード・ニクソン米大統領が訪中した1972年中国共産党毛沢東主席と首脳会談を行った後、西側諸国で中国人スパイによるハニートラップが顕著となった。

 ハニートラップは、中国各省の国家安全部(情報機関)によって実行され、米国は上海市国家安全局、日本と韓国は天津市国家安全局、さらにロシアは北京市国家安全局が担うとされてきた。

 2019年、英国情報局保安部(MI5)は、中国当局がハニートラップを仕掛け、英国企業のコンピューターネットワークにハッキングしようとしたと公表。

 MI5は、中国当局は「性的関係と他の違法行為を利用し、狙った標的に圧力を加え、協力を強要する」と非難した。

 中国人スパイ網は米国を中心として静かに時間をかけて広がっているとみるべきだろう。もちろんスパイ法すらいまだに制定されていない日本も例外ではない。

 スウォルウェル氏のスキャンダルは、今のところニューヨークタイムズや3大ネットワークで報道されるまでには至っていない。背景にはトランプ政権を批判してきた大手メディアの消極姿勢があるとみられている。

 しかし、来年1月にバイデン政権が誕生すれば一気に表舞台に登場することは間違いない。バイデン政権は誕生前から「波高し」である。

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