芸術家・会田誠さんらの講義内容は「セクハラ」にあたる――。

京都造形芸術大(現・京都芸術大)の公開講座を受けたところ、ゲスト講師からわいせつ性・性暴力性のある作品を見せられて、精神的苦痛を負ったとして、受講した女性が学校法人・瓜生山学園を相手取り、慰謝料など約333万円をもとめた訴訟。

東京地裁の伊藤繁裁判長は12月4日、講義内容を事前に告知する義務があったのに怠ったとして、学校法人側に約35万円の支払いを命じた。原告、被告ともに控訴しなかったことから、すでに判決は確定している。

原告の大原直美さん(41)は12月25日、都内で会見を開き、「当方の主張が採用されたことをうれしく思います」「評価が難しいハラスメントの問題を『その場にいた人のみによる多数決』で判断しなかった点で、画期的な判決だと思います」とコメントした。

●「人はなぜヌードを描くのか、見たいのか」という公開講座だった

判決などによると、大原さんは2018年4月から6月にかけて、都内にある京都造形芸術大・藝術学舎(当時)で開かれた社会人向けの公開講座「人はなぜヌードを描くのか、見たいのか」を受講した。

その講座紹介には「ヌードを通して、芸術作品の見方を見につける」(原文ママ)などという記載があった。

同大学・通信教育部の卒業生で、当時美術モデルだった大原さんは、大学再入学を検討していた。そして、「美術モデルという仕事に役立てたい」と考えて、講座に申し込み、全5回すべての講義を受けた。

●急性ストレス障害の診断を受けた

だが、芸術家の会田誠さんがゲスト講師を担当した第3回(5月15日)と、写真家の鷹野隆大さんがゲスト講師を担当した第5回(6月12日)の講義は、彼女の予想に反するような内容だった。

会田さんは講義の中で、自分の作品「犬」シリーズ(四肢を切断された女性が犬の格好をしている絵)などをスクリーンに投影した。さらに作品解説で、自慰行為について発言するなどした。

大原さんはすぐに大学ハラスメント相談窓口に「セクハラがあった」と苦情を申し立てた。その後、病院で急性ストレス障害(適応障害)の診断を受けて、大学側に残りの講義内容にセクハラがないよう配慮をもとめた。

●講義内容でセクハラを受けたとして、学校法人を提訴した

ところが、ゲスト講師の写真家、鷹野隆大さんはその後の講義で、全裸の男性や勃起した陰茎の写真をスクリーンに投影するなどした。

ふたたび大原さんは、大学ハラスメント相談窓口に「セクハラがあった」「講義によって症状が悪化した」という内容の苦情を申し立てた。その後、大原さんは2019年2月、二人の講義内容でセクハラを受けたとして、学校法人を提訴した。

大原さん側は(1)講義内容がセクハラとならないようにする防止する義務や、苦情に対して適切に対策を講じる対策義務に違反した、(2)わいせつ性のある内容を含む講義について事前に告知すべき義務に違反した――と主張していた。

●「事前告知義務を怠った」と認定された

東京地裁は判決で、受講規約に「講座の成績評価を受けるためには、授業すべてに出席すること」「遅刻および早退は出席とみとめない」という内容があったことから、再入学を検討していた大原さんは途中退出できなかったと指摘した。

会田さんが講義で紹介した作品については、わいせつ性・性暴力性があるとしたうえで、「約2時間にわたり作品をスクリーンに上映して繰り返し供した行為は、強い嫌悪感や羞恥心を与えるおそれがあのものだった」とした。

会田さんが講義中に卑わいな言動を繰り返したことについても、「嫌悪感や羞恥心を与えるおそれがあるものだった」として、原告との関係で「セクハラにあたる」と認定した。

また、鷹野さんの講座についても、「約1時間にわたり作品をスクリーンに上映して繰り返し閲覧に供した行為は、受講生に対して強い嫌悪感や羞恥心を与えるおそれがあるものだった」として、セクハラにあたると認定した。

かつて会田さんの作品展で、性被害者や市民団体から抗議が寄せられたことがあったり、鷹野さんの企画展で、警察官からわいせつ物陳列にあたる可能性があるという指導があったことを大学側が認識していたとして、事前告知する義務があったのに怠ったと判断した。

大原さんの代理人、宮腰直子弁護士は会見で、判決について「真摯に学ぼうとする市民が、学びの中で人権を侵害されることのないよう、教育機関が市民に学ぶ機会を提供する際の法的責任を明らかにし、教育機関にその自覚を促すものであると考えます」と評価した。

●「環境型セクハラが認められた」

一般的に、セクハラは「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」がある。厚労省のホームページには、次のような典型例が示されている。

対価型セクハラの典型例:事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること

環境型セクハラの典型例:事務所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと

大原さん側は提訴時に「環境型セクハラ」だったと主張していた。今回の判決について、宮腰弁護士は「判決文には書かれていないが、環境型セクハラが認められていると考えます」と述べた。

●「表現の自由に関する裁判ではない」

また、ネット上では、今回の提訴・判決をめぐって、"表現の自由"に関する懸念・批判の声もあがっている。

大原さんは「今回の裁判は、講座の運営に関する裁判でした。わたしたちの裁判を利用して、主義・主張される方がいたが、それは違うなという残念な思いでした。その誤解をとりたい、理解していただけたらと思います」と話した。

会田誠さんらの講義は「セクハラ」 学校法人に賠償命令…受講女性「画期的な判決だ」