(吉田 典史:ジャーナリスト

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 中国政府の覇権主義が止まらない。国内における民主化運動への抑圧も各国から批判を浴びている。

 その1つが、香港だ。2020年6月、香港での反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法(国家安全法)」が、中国の全国人民代表大会常務委員会で可決・成立した。12月2日には、違法集会を扇動した罪などに問われた民主活動家の周庭氏らに、香港の裁判所が実刑判決を言いわたした。

 数年前から、中国政府の覇権主義に抗議活動をする日本の左翼活動家がいる。左翼活動家は、戦後長らく基本的に中国政府に親和的であった。その意味で中国政府への抗議は注目に値する。

 前回の記事(「日本の『左翼』活動家をも怒らせる中国の蛮行https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63199)では、抗議活動を続けるAPFS労働組合執行委員長の山口智之氏を取り上げた。今回は、海外の労働組合と連携し、中国政府への抗議の姿勢を鮮明にする東京管理職ユニオン委員長、全国コミュニティユニオン連合会の会長の鈴木剛氏に取材を試みた。

軍事力で現状や実効支配を覆すことは許されない

吉田 鈴木さんは「左翼」と受け止めてよいのでしょうか?

鈴木 ええ、左翼です。ただし、東京管理職ユニオン委員長や全国コミュニティユニオン連合会の会長として労働法制や政策について意見や提言をする時は自らの政治思想や立場からは離れます。多数の組合や組合員の権利、生活を守るために現実的な考えに立ち、臨んでいます。企業との交渉においても「解雇反対」と叫ぶだけでは撤回は難しい。解決するためには、現実的な立場でどこかで折り合いをつけざるを得ないのです。今回ここで語ることは、私個人の見解ということでご理解をいただきたいと思います。

吉田 皇室や自衛隊、日米安保についてのお考えを聞かせてください。

鈴木 私は、明確な共和制論者です。天皇制は廃止するべきと考えています。自衛隊は国際情勢を見つつ段階的に縮小し、最終的には廃止にするべきです。日本だけではなく、世界の国々の軍隊も全廃すべきです。

 ただし、共和制にした場合、その時の国際情勢にもよりますが、理論上は軍備全廃か、国民総武装(国民皆兵)のいずかになり得ます。日米安保はその内容があまりにも片務的であり、好ましくない。駐留米軍の基地のあり方は問題が多い。米兵の犯罪も後を絶たない。片務条約のひずみが大きく、主権国家の日本として受け入れがたい。従って廃止するべきです。

吉田 中国政府の香港への対応はどう捉えますか?

鈴木 明らか覇権主義であり、強く反対します。どの国であれ、軍事力を背景に相手国を威圧したりして、現状や実効支配を覆すことは絶対に許されない。私も(前回の記事で取り上げた)APFS労組委員長の山口さんらと一緒に抗議をしたいと思っていましたが、新宿でのデモ(2020年6月)には都合がつかずに参加できなかったのです。

吉田 中国政府の覇権主義に反対、抗議をするためのご自身の活動をお聞かせください。

鈴木 アメリカから広まった草の根の労働運動・レイバーノーツの大会が昨年(2019年)夏に台湾・台北市で開かれました。30数カ国から労働運動活動家ユニオンリーダーが集まり、労働運動の民主的な改革や再活性化など様々なテーマ話し合いを行いました。

 その1つが、中国政府の香港や台湾への覇権主義的な行動や中国国内の労働問題です。世界の労働組合活動家の間でも、中国の動きを疑問視する人は増えています。香港や台湾の労働運動や市民運動の活動家を支えるために、労働組合間で情報交換や連帯、連携を深めることを確認し合いました。街頭でデモもしました。

香港市民の自由と民主を守る行動を支援したい

吉田 「反共」であるはずの自民党や前政権、さらに現政権も中国政府への対応は一枚岩になっていないようです。左翼こそ本来、自由や民主を踏みにじる中国政府にスクラムを組んで抗議ができるのではないのでしょうか。

鈴木 確かに(前回の記事の)山口さんや私のような左翼活動家は左翼の中では相当に少数派です。その意味での広がりは、左翼にはほとんどありません。大きな理由の1つに革命で成立した中国へのシンパシー、敬意があると思います。ソビエトにも、かつては同じ思いはおそらくあったのでしょう。戦前に日本が中国大陸を侵略し、植民地支配をしていたことへの償いの思いもあるのではないでしょうか。中国への批判は控えておこうといった心理が働くのではないか、と思います。

 さらに朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)の拉致問題です。長年、左翼は「そのような問題は存在しない」と主張してきましたが、それが覆された。この頃から、国際問題で何かを主張することを控えるようになった一面もあるかと思います。中国に限らず、北朝鮮などの拉致問題も含め、まずは左翼内で深い議論をして、統一した考えを持ち合わせていないのです。

吉田 中国は、日本の左翼にとって理想の国であったのではないでしょうか?

鈴木 私よりも上の世代の左翼には、中国への特別の思いはあったのではないかと思います。私は1968年生まれですから、物心ついた頃に中国は改革・開放路線でした。資本主義的な体制を受け入れつつあった頃です。私は、中国を理想の国と捉えたことは1度もありません。1989年天安門事件もまさしく粛清であり、弾圧です。許されるわけがない。当時、ノンセクトの市民運動の一員としてデモに参加し抗議をしました。今も天安門事件への私の捉え方は変わりません。

 ソビエトや中国のような社会主義国が誕生したことで、当時、資本主義国で遅れていた社会保障が進んだり、労働運動が発展したりしたという事実はあります。資本主義国側にいい影響を与えた一面もあるのです。世界史的に見て一定の意義はあるのです。

 一方でソビエトが長年の圧政、人民の粛清や経済の疲弊、破たんなどで崩壊した事実も、忘れるべきではない。スターリンのもと、大量の人が殺された事実があります。中国も周辺国を軍事力で脅かしたり、国内で少数民族の粛清、弾圧をしています。これらを指摘し、批判しないと、説得力を持たない。だから、中国の香港への圧力に反対し、抗議をしました。

上から国や社会を変えようとするのは無理がある時代

吉田 労働組合や市民間の草の根の交流や連携、連帯で中国の軍事行動を止めることができるとお考えですか?

鈴木 私は労働運動家であり、市民運動家ですから、例えば「中国はけしからん! 防衛費を上げろ」「尖閣諸島の領有権を強力に主張せよ」「改憲しろ!」とは主張しません。草の根の活動家として、国益を持ち出すことはしない。そのようなコンフリクト(衝突)を煽る立場には与しない。

 国境を越えて関係国の活動家と協力し合い、連携し、覇権の勢いを相対化し、弱くしていきたいのです。労組によるインターナショナリズム、平和外交を進めていきたい。そのことで、中国政府の領土拡張主義に対して何らかの抵抗、抗議の姿勢を伝えていきたい。あくまで市民の立場で、香港市民の自由と民主を守る行動を支援したいのです。

 人類は争いを繰り返しながら、知恵を使い、対立を乗り越えてきたのです。例えば、労働組合協同組合のような中間組織を作ってきました。労組は早くから海外のそれと連帯、共闘をしてきました。過去の世界大戦では、労組の中でも意見対立が生じて分裂したりした歴史もあるのですが、長い時間を経て中間組織がコンフリクトを解消する力になりつつあると私は認識しています。中間組織をできるだけを分厚くすることが社会に厚みを作ることにもなります。その意味で、とても大切だとかねがね思っているのです。

吉田 日本共産党は「中国はけしからん!」と、自民党よりも強い抗議をしますね。

鈴木 あの政党は歴史的経緯があり、中国やソビエト共産党に批判的です。アメリカ政府に対しても、「反米愛国」の姿勢。ナショナリズムが党の考えのベースにおそらくあるのでしょうね。私はどこの政党であれ、ナショナリズムに与しません。もう、上から国や社会を変えようとするのは無理がある時代なのです。

 自民党ナショナリズムベースにしながらも、実際は例えば、社会保障制度の政策には社会民主主義的な施策や政策を取り入れてきました。国民各層の意見や考えを比較的、政策に反映していた時期があります。外交においても現実的な対応をしている時期がありました。例えば、伝統的に中国やソビエト、韓国、アメリカとは領土問題などをいったん棚上げし、国交回復し、政府間や民間の交流促進、経済協力を推し進めてきました。ある意味での知恵と言えます。

 この一連の現実的なアプローチや姿勢が安倍政権になり、変わってしまったかに見えます。(第2次安倍)政権発足当初からしばらくは北朝鮮や中国を敵視して、ナショナリズムを煽るかのような一面がありました。その意味ではエキセントリックで、従来の自民党とは違っていたように思います。

国家や国境という概念や意識を弱くしていく

吉田 ある時期から、安倍(前)首相は北朝鮮や中国に強くは言わなくなりました。従来の自民党の穏健な路線になったかに見えます。右翼や保守派の一部は、そこに失望しているようでした。

鈴木 おそらく、北朝鮮や中国に実際には何をどうするか、というプラグマチックな思考や政策を政権発足当初から持ち合わせていなかったんじゃないかと思います。ある時期から政権末期にかけて双方の国への対応は袋小路に入っているようでした。つまりは、批判をするだけでは現実性がないのです。その意味で、かつては自民党に多かったリアルな思考を持つ政治家ではなかったのだと思います。

 中国には、多くの日本の大企業中小企業が進出し、そこで生産拠点を構えています。現地の中国人の他、日本人の労働者も多い。我々の組合員にも、中国系企業で働く労働者がいます。日本の経済や労働者の生活は、中国を抜きには成り立たない一面があります。その実態としての関係を無視し、中国を批判しているだけでは折り合いはいつまでもつかないでしょう。

 例えば、安倍(前)首相は北朝鮮には盛んに抗議をしていた時期がありますが、拉致問題の状況はほとんど変わっていないように見えます。ヨーロッパの国の中には北朝鮮と外交関係を持ち、政府間の交流を一応はしている国があります。日本政府がそのようになるのは相当に難しいものがあるかと思います。水面下でその路線を模索してきたのかもしれませんが。とりあえずは国交回復に向けて話し合い、まずは国交を樹立し、人的、経済的な交流をしつつ、その中で拉致問題を詰めていくことは必要だと私は思います。

吉田 中国軍尖閣諸島を奪おうと実際に軍事行動を取った時は、どうしますか?

鈴木 中国に限らず、どこの国であろうとも他国の領土領海領空を軍事力で侵すことは許されない。何らかの形で抗議をします。絶対に許してはいけない。ただし、私は労働組合や市民運動の活動家ですから、日本の軍備増強を訴えることはしない。中国の周辺で緊張関係にある国の労働組合や市民とまずは共闘をしてきたい。

 このような回路をできるだけたくさん作るのも、覇権主義を相対化させる1つの力にはなると私は信じているのです。もともと、労働組合にはその働きがあるのです。最近は、国家間の労組のネットワークが強くなりつつあります。国家や国境という概念や意識を弱くしていくことも、労働組合の役割だと考えています。

 中間層を強くすることは、本当に大切なのです。私は、アベノミクスの初期の頃は結果として雇用情勢をよくしていたことは事実だと考えていました。当時、左翼の中では少数派でしたが、アベノミクスを部分的に評価していました。

 しかし、ある時期から効果がなかなか現れなくなりました。それは経済界や大企業大企業の正社員などの特定層しか恩恵を受けることができなくなったからだと思います。例えば、非正規の労働者がこれだけたくさんいるのに、恩恵を被ることがほとんどできていない。いわば、中間層への配慮や社会の制度設計を怠ってきたことのツケが回ってきたのだと思います。

吉田 最後にお聞かせください。インターネットで東京管理職ユニオンや鈴木さんは「反日左翼カルト集団」と書かれてありますね。事実なのでしょうか?

鈴木 半分は正解かもしれませんね・・・(笑)。東京管理職ユニオンには管理職の組合員が多数いますから、自民党支持者は少なくない。改憲派も多数いる。その意味では誤り。

 私は労組を離れた立場で言えば、日本のあらゆるものを肯定する立場には与しません。国家のあり方そのものが、時代とともに変わっていきます。私たちが生きている間においては、近代国家のあり方は大きくは変わらないのでしょうけれど、未来永劫、日本や世界の国々が今の形だとは思えない。皇室にも言えることです。それにもかかわらず、絶対視し、永続的なものとして捉えることは私にはできない。これが、「反日左翼」ならばそれはそれで構いませんが・・・。

取材を終えて~日本はどうするべきか

 鈴木氏の主張のように、覇権主義に抗議を示す一方で、各国の中間組織やそれに関わる層を厚くする試みは確かに必要だとは思う。労働組合や市民運動に限らず、地方自治体や大学、高校などの教育界、経済界、研究者の交流は特に大切だろう。決して「理想論」として退けるものではない。中間組織を中国国内に何らかの形で作ることも、覇権の勢いを弱体化させるために必要だろう。

 だが、世界各国でこのような試みをしてきても、かつては米ソの、最近は中国の覇権主義が一向に止まらないのも否定しがたい事実である。では、日本はどうするべきか。

 攻撃用兵器を配備して軍事力で解決しようとする策だけで本当によいのかどうか。中国は覇権的な行動を止めるのか。その封じ込めはいつまでできるのか。日本にそれだけの経済力、財政力、国際社会での力、国内の強い世論、国民の自由と民主を守る意識はあるのか。中国の切り崩しにどのように対処するのか。これらを10~30年先まで見据え、自由と民主を守るためのアプローチの戦略、戦術を考えたい。

 まずは、政権与党である自民党から日本共産党までの全政党が国会で中国政府に抗議をしつこく繰り返すところから始めるべきであろう。日本や香港、台湾など周辺国の自由と民主を侵せば、相当な犠牲を払うことを中国に、世界に知らせることだ。日本でそれができない大きな理由は、「反共」「自由と民主」「保守」を党是や理念に掲げる巨大与党にあるところに深刻すぎる矛盾がある。

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