年が明けると、受験シーズンもいよいよ本格化してきます。受験生にとっては勝負の時期がやってきました。特に疲れが出やすいこの時期、どのようにメリハリつけて勉強すればいいのでしょうか。今回は特定社労士、司法書士、行政書士として活動する並木秀陸さんに効果的な勉強法を伺いました。近著に「捨てる勉強法」(明日香出版社)があります。

ファーストキスを忘れない理由

「試験勉強って、覚えなきゃいけないことが多くて大変」。こんなふうに嘆いている方は多いものです。切り替えがうまくいかないと遠い日の懐かしい思い出に浸り、いつまでも現実逃避したままなんてことにもなりかねません。実は、誘惑が多いお正月は注意が必要なのです。

「そんなことにならないためにも『あの頃があったから、今がある』という気持ちに切り替えましょう。さて、ここで質問ですが、1年前のちょうど今日と同じ日の夕飯は何を食べましたか? この質問に答えられる人は『ほぼ』いるわけがありません。この『ほぼ』といったのは、記憶していて答えられる可能性が高い人もいるからです」(並木さん)

「超人的に記憶力が高く、天才的な人なのかというとそういうことではないのです。1年前の同じ日に何を食べたか答えられる可能性のある人というのは、その1年前が特別な日、もしくは記憶に残る日。例えば、誕生日などで予約したレストランの食事だったという人なのです。そうでなければ、毎日毎日同じ食事を繰り返している人かもしれません」

 これは時間や場所、そのときの感情が含まれた長期記憶というものになると並木さんは言います。読者の皆さまはドイツ心理学ヘルマン・エビングハウスが説いた「エビングハウスの忘却曲線」をご存じでしょうか。人間は1日で学習したことの7割を忘れるのだから、短期記憶を長期記憶に変えるために、反復するしかないという理論を説いています。

「ほとんどの人が1年前の夕食を覚えていない理由は、それが短期記憶でしかないため、当たり前であるということになります。人の脳はそもそも重要ではない記憶に関しては、忘れていくようになっているのです。その上で、試験の知識というのは試験に合格するためには重要であっても生活していく、生きていく上では重要ではないため忘れてしまうのです」

 では、どうすれば長期記憶として覚えられるのでしょうか。

「長期記憶にするためには、『感情を伴う』ことが重要なのです。うれしいことや怒りを持った出来事、衝撃的なインパクトのあることは忘れたくても忘れられません。例えば、ファーストキスはほとんどの方が記憶しているのではないでしょうか。人の脳は感情が動くと覚えてしまうのです。そして、体験したことは記憶しやすいということでもあるのです。だから、参考書や問題集を解くときであっても感情を動かすことが効果的です」

五感で覚えると忘れない

 並木さんはインパクトのある記憶に変えたり、知識のイメージを映像化したり、リズムのいい語呂で覚えたりすることも、記憶力を高める方法の一つになると言います。

「人さし指でなぞりながら読みます。字を目で追い、声に出し、その声を聞くことで同時に複数の感覚を使います。五感が同時に働くことで脳への刺激が強くなり、記憶が定着し、忘れにくくなります。目につく所に貼りつけるのもいいでしょう。目につく場所で、ある程度眺められる場所の方が効果的です。ぼんやり眺めているうちに、写真画像のようにインプットされます」

「身近なものとつなげて記憶する方法もよいでしょう。色や場所、勉強した時間など他のものと関連させて記憶すれば、物事を思い出しやすくなります。記憶力がいいといわれている人は実はおしゃべりな人が多いです。よくしゃべると『繰り返し効果』が働き、また、相手にしっかり聞いてもらおうと感情を込めて話すことで記憶がより強化されます」

 受験生は、お正月ゆっくり味わう余裕などありません。友人の誘い、テレビの誘惑もピークに達します。くれぐれも甘い誘惑に負けないように集中力を高めてください。受験勉強は「感情を動かすようにして覚えると効果的」。この機会に試してみましょう。

コラムニスト、著述家、明治大学サービス創新研究所客員研究員 尾藤克之

いよいよ受験シーズンが到来