韓国に広まったゾンピ・パニックを描き好評を博した『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)。その続編『新感染半島 ファイナル・ステージ』が日本のスクリーンに登場する(2021年1月1日公開)。廃墟と化した黙示録後的な世界が舞台で、サバイバル劇としてはもちろん、ほかにも見どころがたくさん。同じくゾンビワールドを題材にした世界的な人気ゲーム「バイオハザード」シリーズのプロデューサー、ピーター・ファビアノさんに作品を鑑賞してもらい、その魅力やゲームとの共通点について聞いてみた。“ゾンビサバイバル”に精通するピーターさんは本作をどう観たのか?

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■「主人公が贖罪の意識で動くのが印象的でした」

――まずは『新感染半島 ファイナル・ステージ』を観た率直な感想をお聞かせください。

「非常におもしろかったです。ゾンビは出ているものの、ヒューマンドラマも描かれているので、ストーリーが深化していく。その過程がとても良かったです」

――ヒューマンドラマとしては、どういうおもしろさがありましたか?

「軍人である主人公はゾンビパニックを生き延びたわけですが、助けられたはずの人の命を救えなかった。そんな彼がリデンプション、つまり贖罪ですが、その意識で動くのが印象的でした。一方で、彼と行動をともにするシングルマザーのドラマもあり、自分を犠牲にしてでも愛する者を守ろうとする。そういうところは衝撃的だったし、好きですね」

――たしかに、感情を揺さぶりますね。エモーショナルにするための演出で、心を動かされた部分について教えてください。

「エモーショナルな描写は、やり過ぎると安っぽく見えてしまいますが、その点は抑制されていたので、うまく機能していました。ストーリーテリングのさじ加減も、音楽の使い方も良かった。個人的な話になりますが、私にも子どもがいるので、そういう観客の心情に寄り添う演出になっていたと思います」

■「人間はゾンビよりも恐ろしい存在になりうる」

――一方では、631部隊という、この映画では悪役として登場する“ならず者集団”がいますが、それについてはどうでしょう?

「こういう世界でも、悪者となるのは人間なんですよね。狂気に走るし、ある意味、ゾンビよりも恐ろしい存在になりうる。ゾンビは本能的に人を殺しますが、人間は意思をもって人を殺すわけですから、人間の悪い部分を見ることができる。そういう点で、とてもおもしろい存在でした」

■「子どもが車の運転をする設定に惹かれました」

――アクションも多いですが、その点でお気に入りのシーンはありますか?

「やはり、子どもが車の運転をする設定に惹かれました。運転がメチャクチャうまい(笑)。猛スピードでカーチェイスをする場面は、まるで彼女がスーパーヒーローになったかのようでした。それと、あの場面は音響が抜群に良いですね。ギアを入れたり、引っ張ったりする音がちゃんと聞こえてきた。臨場感がありますね」

――この映画に登場するゾンビにはついては、どんな印象を受けましたか?

ゾンビは基本的に恐怖をもたらすものです。当初はゆっくり動くゾンビが主流でしたが、次々と作り手が自分のテイストを加えて、動きを早くしています。それは全然アリだし、本作のストーリーにも活きています」

■「『バイオハザード』の本質を守りながらシリーズを進化させている」

――2021年に「バイオハザード」シリーズは25周年を迎えますが、この記念の年をどう受け止めていますか?

「まず、25年も続いているということが単純にスゴいと思います。僕がカプコンに入社する以前にスタートしていますから。ゲームにとどまらず、映画や漫画など多彩なメディア展開をしたことで、世界中で名前を知ってもらえている大衆文化の一部となっています。とても強いブランドに成長したと感じています。そこには様々なクリエイターがかかわり、『バイオハザード』の本質を守りながらシリーズを進化させている。25年間も続けられたのは、その賜物だと思います」

――「バイオハザード」の本質とは、どういうことですか?

「“サバイバルホラー”であること。具体的に言うと、恐怖、謎解き、リソースマネージメント、コンバットという4つの柱を大切にすることです。作品ごとにウェイトやバランスは異なりますが、この4つの柱を踏まえて、ディレクターがそれぞれの思い入れを投影しながら制作しています」

■「制作チームはみんな、たくさんの映画を観ています」

――2021年に発売されるシリーズ最新作「バイオハザード ヴィレッジ」のトレーラーは、とても映画的でした。ティム・バートンサム・ライミの映画を連想しましたが、映像作りには映画からインスピレーションを受けているのでしょうか?

「そうですね。制作チームはみんな、たくさんの映画を観ていますし、様々なインスピレーションを得ています。具体的に、どういうインスピレーションを受けているかは、ゲームをプレイしてもらえれば、気づいていただけると思います」

――ピーターさんが「バイオハザード」シリーズを作り続けるモチベーションについて教えてください。

ゾンビというモチーフの中で、どんな人間ドラマを作れるのか?また、どんなゲームシステムを作っていけるか?シリーズを作り続ける以上、そのような部分で進化していかないといけません。それを考えるのが楽しいですね」

■「音に反応するゾンビというアイデアは新鮮でした」

――『新感染半島 ファイナル・ステージ』に話を戻しますが、この映画に登場するゾンビと、ゲームの「バイオハザード」シリーズに登場するゾンビに、共通点を感じましたか?

「“ゾンビはどこから来たのか?”という点が説明されていないことですね。やはり恐怖の対象なので、謎の部分がないといけない。『バイオハザード』では、ウイルスの存在は明かしていますが、あえて秘密にしている部分もあるので、その点は共通しています」

――ゲームに活かせるゾンビの設定があるとすれば、どういう点でしょう?

「音に反応するゾンビというアイデアは新鮮でした。それと、夜になると活動しなくなる部分も興味深かったです」

■「ゾンビ化された世界で、どういう人間ドラマが描かれるのか?」

――ピーターさんご自身がゾンビワールドに入ってしまったら、どうやって生き延びますか?

「すぐ死にますね(笑)。いや、まずは信頼できる友だちと組んで、武器と食べ物をストックして、高いところに行きます。とはいえ、ゾンビには勝てませんから、少しでも長く生きるための準備をすると思います」

――ゾンビはいまやカルチャー・アイコンと化していますが、ゾンビをエンタメに転化する醍醐味とは、どういう点にあるのでしょう?

ゾンビがメインではなく、ゾンビ化された世界でどういう人間ドラマが描かれるのか?そこに人々は惹きつけられるのだと思います。希望のない世界で人間はどう動くのか?一方で、ゾンビをどう動かすか?というおもしろさもあります」

――メディアにおけるゾンビの描写は年々進化していますが、今後も進化していくのでしょうか?

「それはもう、『バイオハザード ヴィレッジ』をプレイしていただくことが答えの1つになると思います(笑)。クリエイターは常に新しいものを追求していますから、楽しみにしていてください!」

意外にもゾンビワールドで最も恐ろしいのは、“人間の悪意”だと説明するピーターさん。本作で繰り広げられるヒューマンドラマ、カーチェイスゾンビとの壮絶バトルについても「おもしろい!」と満足気だった。2021年の幕開けは『新感染半島 ファイナル・ステージ』を観て、その熱い鼓動を感じ取ってほしい!

取材・文/有馬楽

世界的な人気を誇る「バイオハザード」シリーズのプロデューサーが『新感染半島 ファイナル・ステージ』を鑑賞!/[c]2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.