1 脅威を見極めない自分都合の防衛議論

 陸上配置のイージスアショアは、常時展開を余儀なくされている海自イージス艦の負担を軽減しつつ、ミサイル防衛を強化しようというのが発想の原点であったはずだ。

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 その後イージスアショアの配置断念により、にわかに敵基地攻撃の議論が出てきたのだが、いろいろな議論が絡み合って、整理ができないまま、イージス艦を2隻増強することで話を濁し、長距離対艦ミサイルを開発・装備化する5年後に仕切り直しという自己都合で話が収束してしまった。

 日本の都合で相手は待ってくれるのだろうか。

 米国が大統領選挙で混乱している間の12月22日、中露の戦略爆撃機など15機が東シナ海・日本海そして西太平洋にかけて悠然と「合同パトロール」を実施した。

 尖閣も含め日本への脅威は先鋭化する一方で待ったなしだ。厄介者の中核は中国だ。

 米国は、大統領ジョー・バイデン氏になるとロシアの脅威にすり替える恐れがあり心配だが、今回の大統領選挙の反動で中国に対する反発も強まるだろう。

 その中で日本だけが極めて重要な国土防衛に関わる検討を5年後からの開始でいいのだろうか。

 そもそも日本の防衛力強化の「主敵」は誰で、いつまでに対抗手段を作り上げなければならないのかの焦点を議論することなく先送りし、また防衛費も微々たる増加に過ぎないが、さも防衛を強化しているような錯覚を国民に与えていることは政府与党の完全なミスリードではないか。

2 問題点の整理

(1) 日本の防衛は誰を対象とするのか?

●今回のミサイル防衛に関する議論は、北朝鮮しか対象にしていないが、これは大きな誤りだ。日本の主敵は明確に「中国」である。

 今でも日本の防衛力整備は、脅威を対象としない平時の防衛力整備であり、そもそも脅威に対処する「脅威対抗型の防衛力整備」ではない。

 これでは北朝鮮の脅威にも、中国の脅威にも対抗できない。

 防衛費を上げたくない財務省や中国との関係を深め経済重視の政治家・経済界にとって問題に触れない方が得策であるからそうしているか、真の脅威が分からないかだろう。

 それとも日本を強くしたくない中国の影響を受けているからだろうか。ショウウインドウに並べた防衛力のサンプルだけで日本を防衛できると言うのはまやかしだ。

 その結果、日本は北朝鮮にすら対抗できない装備、絶対的に足りない弾、人も不十分で貧弱な防衛力のままだ。誰一人として日本人は軍事的脅威から守られていないということだ。

●中国の軍事費の増加は報道の通りであり、習近平総書記は軍隊に「戦争に勝て」と檄を飛ばしている。そのような姿を異常と思う日本人はいるはずだが、NHKや民放がこのことを一切報道しない。 

 これまで何度も言及したが、中国にとって日本を含む第1列島線は、中国の経済的核心地域、すなわち中国共産党の存続に直結する経済的繁栄の源である沿岸地域を防護するための必須の盾であると同時に、米国と対峙する時の出城でもある。

 従って第1列島線の国々の意向に関係なく、いずれ中国は必ず第1列島線の国々を篭絡するか、軍事的に占領するだろう。

 軍事力や経済力の増大を背景に、力の及ぶ範囲が自らの領土であるという危険な思想や、人類運命共同体構築に突き進む今の中国は極めて危険である。

 一方、米国は、「米国は領有権、海洋権益で中国に侵害されている世界中のすべての国を支持する」「中国共産党から自由を守る事は時代の使命」として中国との軍事対決も辞さずという決意である。

 コロナで第2次世界大戦を上回る33万人以上の死者が出たことおよび大統領選挙へ中国が関与し民主主義を破壊した濃厚な疑惑は、米国が中国の挑戦に応じて戦う大義でもあるし、共産主義から自由を守る事は国際的大義でもある。既に大義は確立した。

 米国は大統領選の結果にかかわらず、2021年には太平洋で米軍の大演習を計画中である。

 そうした中で、日本は米中を両天秤にかけ続ける実力があると思っているのか。もしそうならば、日本はただ単に米中の戦場になるだけである。

(2) 有人のイージス艦2隻?

 地上配備型迎撃ミサイルシステム・イージスアショアを導入する理由は、先にも触れたが、ミサイル防衛の強化と海自の負担を軽減することであったはずだ。それが結局、イージス艦2隻の増勢になった。それでいいのか。その問題は?

●結局、海自の人的負担に対して逆行した結論で、また、そのしわ寄せは陸自に及ぶという事だ。陸自は、人手不足を補う人材バンクではない。

●慢性的な海自の人的不足を補う必要があるのなら、なぜ、無人イージス艦を整備するという発想に転換ができないのか。

 有事においては、米軍ですら中国の多数の対艦・対空ミサイル、機雷などの脅威から、東シナ海などでは有人艦・有人機の作戦は大きな制約を受けるとして、無人艦、有・無人潜水艦無人機などでの作戦しようとしているのに、また、平時の概念で有人のイージス艦を配置して誤魔化そうとしている。

 日本も将来の民間船へのスピンオフも考慮して、米国のように無人戦闘艦システムにするべきではなかったのか。

 人が入れない危険な所で仕事をするのが無人システムで、損害は考慮する必要はない。米軍も中国に対する分散型海洋作戦(DMO)では無人艦隊の創設に進んでいることを知らないのだろうか。

●陸自が直面する大きな脅威の一つは、近代化され情報化された中国の新人海戦術(ハイブリッド戦)で、中国の民間人や特殊部隊も含む日本全国に及ぶ脅威である。

 陸自を次々と削減していくが、南西諸島や日本本土で国民などを防護できなくなることを覚悟すべきだ。

ミサイルによるミサイル防衛について、米国は少なくとも2015年には次のような認識を持っている。

「現在の課題は、中国の弾道・巡航ミサイルに対する抗堪性をいかに高めていくかである。中国は弾道ミサイルの多弾頭化を推進すると共に、攻撃を仕掛ける際には飽和攻撃(多数の弾を発射して対応できなくする)を行うだろう。これに対して従来のミサイルによるミサイル防衛では対応できない」ということだ。

 北朝鮮ですら300発以上、中国は2000発以上のミサイルを保有し、最近は電子戦と組み合わせて多数のドローン攻撃も仕掛けてくる。

 これに対し1発のミサイルの撃破に対して2~3発以上を発射しなければならないことから、防衛予算を相当圧迫するにもかかわらず、全数を撃破することは極めて困難だ。

 日本国民を守ることは米軍の仕事ではない。

 日本は、腹を決めて日本国民を守り切るために、限界はあるがミサイルによるミサイル防衛を最終手段として強化すると共に、至急、予算を大量に投入して宇宙・サイバー電磁波領域の装備を開発・装備化して電磁バリアの構築に挑戦しなければならない。

 そのための決定的な電源はまだ日本に存在する。しかし中国はこの電源を札束を切って取りに来ているが、その技術の凄さと経済発展の姿が見えない日本は守る気がない。

(3) 敵基地攻撃? 相手領域内で弾道ミサイルを阻止する能力?

 2010年当時の米国のエアシーバトル構想では、中国のミサイル攻撃を避けるために、米海空軍はグアム以西に避退するが、反撃に当たってはたとえ核戦争になっても中国本土を攻撃するというものであった。

 しかし、核戦争を誘発することは危険だということでワシントンでは激論になったが、2015年には次のように整理された。

①中国本土への攻撃は、中国指導部の判断が読めないことから、核戦争にエスカレートする危険性がある。

 一方、中国本土への無人爆撃機などの攻撃手段とその攻撃の意志を米国が持っていなければ、中国はその資源をほかに転化してしまう。

 それを防止するために、中国本土への攻撃の意思と装備を保有するが、作戦の発動は米国大統領の決断によるとされ、結果的に中国本土への攻撃は極めて慎重になっている。

②現実の問題として、地下深く潜り、あるいは車両や潜水艦などで移動する発射体をピンポイントで捕捉し撃破することは困難である。これは北朝鮮についても同じである。

 このようなことから、日米共同作戦を遂行中の米国が中国本土への攻撃を日本独自の判断に任せることはない。

 一方、北朝鮮については地対地あるいは空対地巡航ミサイルを日本が保有すれば抑止力は高まり、米国への影響が少ないことから日本が攻撃することを容認する可能性があるが、現実の問題として指揮・情報・統制・通信システムを攻撃型に変革しなければ実行は困難だろう。

 このような現実を政府や与党は米国と議論したのだろうか。

 米国では日本の政治家や官僚と話しても突っ込んだ議論はないと嘆いていた。一方、中途半端な対応を日本がすると、中国に核攻撃の口実を与えてしまう結果になる。

3 日本のミサイル防衛と敵地攻撃

 日本のミサイル防衛と敵地攻撃は、①物理的・非物理的打撃の併用による「拒否的ミサイル防衛」 ②日米の刺し違い相殺戦略に基づく「懲罰的ミサイル防衛」 ③残存性・抗堪性強化の「被害極限ミサイル防衛」の3つに分けて考えるべきであろう。

拒否的ミサイル防衛

〇従来のミサイルの強化・性能向上による防衛網の構築

・既存のイージス艦から無人艦、潜水艦・無人潜水艦などによるミサイル防衛へ発展

PAC3、中距離SAMなどの既存のミサイルの性能向上と多数のミサイルによるミサイル防衛網の構築および変則弾道技術の導入

電磁波(EMP)弾を早期に開発・装備化して広範囲に一挙にミサイルを無力化する能力の取得

〇ゲームチェンジャーによる電磁バリア防衛網の構築(最重点分野)

サイバー攻撃の強化、官民一体のサイバー庁の創設

・宇宙における独自情報網の構築

・電波妨害兵器(装備化した装備のさらなる性能向上)の全国展開による電波妨害網の構築(衛星、弾道ミサイルAWACSなどを一時無力化)

・車載の電磁波兵器の早期開発・装備化そして全国展開(ドローン、航空機、艦艇、ミサイルなどの電子機器を破壊して完全に無力化)

・レーザ兵器の早期開発・装備化、レールガンの開発(まずは艦艇用)

懲罰的ミサイル防衛(敵地攻撃に相当)

〇(日本も5年後、対艦ミサイルの長距離射程化により本格的に参戦する)米国で進めている分散した態勢から中国艦艇・潜水艦を撃滅する構想の発動(日本に対するミサイル攻撃を、非対称の艦艇を撃滅する事で相殺、これにより中国の日本打撃の意思を断念させる)

〇海洋圧迫戦略に基づき第1列島線へ展開する米陸軍・海兵隊が保有する弾道ミサイルトマホークなどの巡航ミサイルおよび米空軍の無人長距離爆撃機などで中国本土を攻撃(米国による直接反撃)

〇今後、日本が長距離ミサイルを保有し、さらに電磁波(EMP)攻撃を狙った小型核兵器を保有して中国本土を攻撃(核兵器は地上破壊には使用しない)

 このため、日米で具体的な調整・議論することが喫緊の課題である。

被害極限によるミサイル防衛

民間防衛体制の整備

 民間防衛(国民保護)組織の創設と警報発令、避難誘導、救護、除染、消火などの確実な体制整備

〇特に、核シェルターの整備拡充(国土強靭化と国土開発として地下の商業・娯楽施設などの新規事業と一体化)

・現存する地下施設(地下鉄地下道、建物の地階)の最大活用(発電、換気施設の設置と水、食料、医療品などの備蓄)

・政経中枢拠点における核シェルターの重点整備

4 具体化のカギ

 これらの施策を実現するためには、次の点を速やかに実行することである。

① 巡航・弾道ミサイルを装備した米陸軍・海兵隊が第1列島線へ展開するに際して、米軍が日本本土へ核を含むミサイルを持ち込むことは必然である。これを拒否することは、日本の防衛を拒絶することに等しい。

 日本は、非核三原則中、核を持ち込ませない政策は直ちに廃止すべきである。

 同時に、平時に浸った考えを改め、直ちに国会では専守防衛と必要最小限度の防衛力の行使の考え方を廃止して、普通の国の軍隊のように盾と矛をもった「積極拒否戦略」へ転換すべきである。

 すなわち、自衛隊を軍隊にしなければ戦いにはならない。

②予算の重点の1つは、拒否的ミサイル防衛の緊急の構築である。

 従って、民間の技術力を最大限引き出すとともに、失敗を恐れず投資を続け、年度予算の考え方を棄てて、出来上がったところから即システムの中に組み立込んでいく果断さが防衛省に要求される。

 ミサイルの必要数の増産も必須である。

 この際、石橋をたたいても渡らない、平時志向の考え方は放棄すべきだ。

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