美しい調和のとれたノイズには最高の価値がある。

この令和に、生きることを絶やさないこと。それを教えてくれた表現者は、うっぷんを「いま、ここ」にすべて吐き出すかのように叫び、声を歪ませた。目を塞ぎたくなるような、社会の様相を憂いながらも強く歌う姿は、負の感情からも瞳をそらすことなく、その視線を未来へ向ける。

「今日はたまりにたまった辛かったこと、喪失感、恨みつらみを全部吐き出して楽しもうぜ!」HYDEが声をあげた。

コロナ禍のなか、今年9月に東京・Zepp Haneda(TOKYO)で開催された「Acoustic Day / Rock Day」と銘打ったライヴHYDE LIVE 2020 Jekyll & Hyde』のオーバータイム(延長)となる本ライヴは、見方を変えれば映画でいう『Episode.0(エピソードゼロ)』という位置づけとなる。クリスマスの翌日の開催ということもあり「メリークリスマス」という言葉に続けて、「よく来たね」と口にするHYDE

12月26日(土)、神奈川ぴあアリーナMMでの初日公演を皮切りにスタートした全国7都市を巡る全11公演のツアーはファンの熱烈なラブコールに応え、はじまったばかりだった。抗うことが、ロックのはじまり。

HYDEのファンには馴染みの深い2ndアルバム『6 6 6』のタイトルに冠した数字“6:66(19:06)”へのカウントダウンから幕を開けたライブの導線は、アンダーグラウンド文化への入り口を叩いた。

政府が設けたガイドラインを遵守し、PCR検査などの感染予防に対する万全な対策が尽くされる中で組まれたツアーは、年をまたぎ2021年も開催が決まっている。待ち望んでいたライヴのある暮らし。ここから物語は始まり、『Episode.1(エピソードワン)』となる“ANTI”へと繋がっていく。

アルバム『ANTI』のCDジャケットに描かれたヘビは、秀でた能力を持つ生き物として、宗教や童話などにも説話が多い。原罪の本質とは、神への反逆だ。自由を手にしたいのなら、その起爆剤が必要で、その起爆剤こそが20周年のはじまりを告げるライヴにほかならないと感じた。



タンバリン持ってきた?」表情に呼応してライヴを楽しめるツアーグッズのタンバリンの音やハンドクラップのリアクションが自由に響き、なんだか歴史あるフェスの一コマに連れて来られたような自由さと「なんでもいいんじゃない?」と脱力気味にその気持ちに寄り添って微笑む、その気張らないHYDEらしい姿が心地よかった。HYDEは、ソロデビュー以降、アメリカ進出のためにサウンド面には人一倍力を入れているのに、だ。しかし、「いつか海の外で」と期待せずにはいられないライヴだったから、ここにレポートを残したい。

もはや日本の音楽シーンに定着した“あの彼”ではない

HYDEソロとしての精力的な取り組みは、20年前からはじまっていた。

音楽面のアプローチは言うまでもなく、それでいて、アートのような心を奪われる音楽の数々に封じ込められた世界を体感できるライヴは、ポップミュージックを意識しながらも、以前からもっと広い音楽の裾野を見せていた。HYDEはもはや日本で定着した日本の音楽シーンにいる“あの彼”ではない一面がある。

アルバム『ANTI』から9ヶ月ぶり、2020年のソロ活動幕開けとなった3月にリリースされた第一弾シングルでは、Sho(MY FIRST STORY)と制作に取り組んだ。さらにライヴのバンドメンバーでもお馴染み、HYDEのソロを支えてきたパートナーのような存在のAli(B./ MONORAL)に加え、11月リリースの第二弾シングル「LET IT OUT」にはメタル要素の色濃いKuboty(G./ ex.TOTALFAT)も迎えた。公演前日にリリースされたばかりの最新シングル曲「DEFEAT」には、SHOW-HATE(SiM)も名を連ねている。そして、それらのアレンジにしっかりと寄り添うのは、ファンからも支持の厚いhico(Key.)。彼の旋律がまた、心を解放させるグルーヴを生み出している。

『ANTI』以降にリリースしたそれらの楽曲も携えて、ソロ活動20周年ツアー『HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE』をスタートさせたHYDEは、昨年末に行われたツアーファイナルを引き継ぐように、仮想都市“NEO TOKYO”のスラム街を舞台に、根底から覆されるような2時間半に及ぶアコースティックライヴを展開した。

ツアータイトルにある“ANTI WIRE(アンチ・ワイヤー)”とは、ワイヤーがない、つまり“プラグレス”という意味を持つ。プラグを外した、アンプラグドな状態のこと。リラックスした演奏領域に到達した彼らに、限界値はないのだろうか。前述のとおり、非常に良い意味で、想像していたアコースティックライヴではなかったのだ。

セットリストは、活動休止となったVAMPSの楽曲、新旧のソロ曲に加え、提供曲のセルフカバーHYDEソロのライヴでも思い入れのある曲として演奏されてきたL'Arc~en~Cielの初期の名曲「I’m so happy」などが最新アルバムの楽曲に並ぶ。

しかし、これらをバンド名や固有名詞でラベリングするのは辞めて、すベて取っ払いたい。それほどにアレンジも、ライヴもひとつの作品として際立っていたのだ。新進気鋭の大ベテランは、「静けさ」も「激しさ」もすべてをステージの中へと共存させてしまうから、アーティスティックだ。

ここだけのアレンジでドロップした最新シングル曲「DEFEAT」の次第に大きくなるハンドクラップや息を飲むセッションに鳥肌が立つ。「やってる方もスリリングでね」さらには「アガるわ!」と、声は出せずとも重低音のダークでヘヴィなサウンドアタックが、一直線に観る者の胸をたぎらせた。ギアは好調、その熱量に目を奪われる。

そんな中、序盤でもっとも心に焼き付いたのは、「HORIZON」だった。HYDEのリアルな感情が込められた当時のエピソード。「この時は凄く辛いことがあって、それについては未だに笑った事もないし、笑うまで時間がかかったけど、17年経って時が解決してくれますね。今は笑えるかもしれない」そうやんわり話すと、うつむきながらもこぼした表情には僅かながらの笑顔が浮かんでいた。歌とはなにも背中を押すためにあるわけではない。その痛みや沈黙に共鳴しながら、囁くように、そして魂を揺さぶる熱さを体温に宿すように歌い上げた。かつてはライヴで大きなシンガロングを初っ端から起こしたこの曲が懐かしい。

ミレニアム・イヤーで世界中が華やかなムードに包まれていた時代。2001年の米同時多発テロから19年。その間、避けられない震災、忘れることが出来ない痛みの数々は “穏やかな日々”にふと訪れた。痛みは、誰に降りかかるのか、本当に突然すぎてわからない。しかし、私たちは音楽で一つになれる。


「みんながいなかったら……みんなが僕たちの点滴」

ギアを踏み込んではやる気持ちを抑えられないライヴアコースティックライヴでなければどうだったのだろう。今年の4月、新たにオープンしたぴあアリーナMMにワクワクした様子を見せ「想像したら凄くない?」「楽しみは取っておいた方が良いって考え方もある」と語り、ソロ20年をふり返った。「20年前はどうでしたか?」という問いに、「もう大人でしたか?」「生まれてない人も多少?」と笑いを誘う。

重低音バキバキの強靭なロックサウンドが魅惑的な新曲「LET IT OUT」は、ツーバスが鳴り響き、ピアノのアタック音も力強い。このコントラストも非常にライヴで映える。あらいざらい吐き出してしまえば、ラクになる道を音楽で示してくれた。さらには『ROENTGEN』から再びシングル曲を披露したのには驚いた。心を掴んで離さない旋律は、とても美しく、いまだからこそ、その温もりあふれた歌詞に心がぎゅっと締め付けられた。

その後もツアー初日を盛り上げるナンバーで彩り、声を張り上げて高らかに歌われた初期の代表曲も、斬新なピアノの連打、圧巻のアレンジで息を吹き返す。こんな時期ならではの音楽が多々あったが、ソロをスタートさせた当時の初期衝動のような躍進力が、前へ、前へとひしひしと伝わってくる。「楽しいね」と、ライヴを噛み締めながら進む中で、L'Arc~en~Cielの曲「I’m so happy」を優しく歌った。「やっぱりファンがいないと。来年はラルクも30周年ですけど、みんながいなかったらとっくに解散してると思うし(笑)。みんなが僕たちの点滴みたいなものですよ」と、あらゆる反対を押し切って会場に辿り着いたであろうファンをねぎらいながら、喜び、そして感謝を伝えた。この日のライヴでも幾度となく感じたが、この温かさこそが彼の持つ人を惹きつける力なのかもしれない。

きっとファンの喜ぶ顔が想像されたのだろう。やたらにBPM(テンポ)が加速しているフェス仕様でプレイされたナンバーに「ちょっと早くなかった?」と、楽しみながらも気づけばライヴは終盤を迎えていた。アリーナはスマホの白いライトがきらきらと輝く客席を前に、穏やかな日々、平凡な日常が戻ることを祈るように、ラストナンバーが届けられた。この景色は絶対に手放せない。

この日は、シンガーとしてのブレないHYDEを見た。ひとつの価値観に囚われず、さまざまな価値観を模索するオルタナティブさは、ストリートカルチャーと現代の音楽をかけあわせ、21世紀のはじまりから新しいヴァージョンにアップデートされた音楽をひたすら自由に横断しているようだ。“日本の音楽”とラベリングしてしまうにはもったいないほど素晴らしいから、これは厄介だ。ここでしか出会えない美しいノイズは、20年という歳月を突きつけ、21年も日本から海の外へ、それを示し続けることだろう。「また会おうね」という約束をステージ上に残した日、とても穏やかなはじまりの日が、ここにはあった。


取材・文:後藤千尋
撮影:岡田貴之 / 田中和子


リリース情報

HYDE最新曲「DEFEAT」

2020年12月25日(金) 配信リリース

配信URL
https://hyde.lnk.to/defeatPR


「DEFEAT」フル尺リリック・ビデオ

ツアー情報

HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE

<スケジュール>

神奈川ぴあアリーナMM
2020年12月26日(土) OPEN 17:30 / START 19:06
2020年12月27日(日) OPEN 15:30 / START 17:06
主催:ディスクガレージ 050-5533-0888(平日 12:00-15:00)


愛知名古屋国際会議場センチュリーホール
2021年1月9日(土) OPEN 17:45 / START 19:06
2021年1月10日(日) OPEN 15:45 / START 17:06
主催:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100(10:00-18:00)


大阪大阪城ホール
2021年1月16日(土) OPEN 17:30 / START 19:06
2021年1月17日(日) OPEN 15:30 / START 17:06
主催:キョードーインフォメーション 0570-200-888(月-土 11:00-16:00)


宮城|トークネットホール仙台
2021年1月24日(日) OPEN 17:45 / START 19:06
主催:キョードー東北 022-217-7788(水・木・金 13:00-16:00 / 土 10:00-12:00)


東京東京国際フォーラム ホールA
2021年1月30日(土) OPEN 17:45 / START 19:06
2021年1月31日(日) OPEN 15:45 / START 17:06
主催:ディスクガレージ 050-5533-0888(平日 12:00-15:00)


福岡福岡市民会館 大ホール
2021年2月7日(日) OPEN 17:45 / START 19:06
主催:キョードー西日本 0570-09-2424(平日・土 11:00-17:00)


北海道|札幌文化芸術劇場 hitaru
2021年2月13日(土) OPEN 17:45 / START 19:06
主催:マウントアライブ 011-623-5555(平日 11:00-18:00)


※開場 / 開演時間は予定です。変更となる場合があります。
※お住まいの地域からできるだけ近い会場へのご参加をお願い致します。


<席種 / チケット価格(税込)>

ぴあアリーナMM / 大阪城ホール
S席:14,190円
A席:9,350円


名古屋国際会議場センチュリーホール / トークネットホール仙台 / 東京国際フォーラム ホールA / 福岡市民会館 大ホール / 札幌文化芸術劇場hitaru
SS席:25,300円
S席:14,190円
A席 ¥9,350


※全席指定
※未就学児童入場不可
※お客様同士の距離を保つため、販売席の隣の席を空けております。お座りいただくことはできませんが、隣の席を手荷物置き場としてご利用いただけます。
※チケットを複数枚ご購入いただいた場合でも、お連れ様との座席の間に空席を挟みます。
※着席でのご観覧をお願いいたします。


ANTI WIRE オフィシャル HP
https://hydelive2020-21.hyde.com


HYDE Information
https://www.hyde.com/

HYDE(ツアー『ANTI WIRE』2020年12月26日 ぴあアリーナMM)